テクノロジーの進化と経済成長は停滞する? |
さて、久しぶりのブログ更新は、昨晩の放送(https://youtu.be/ZIxPsLHGZ3s)でも触れた、テクノロジーの進化と経済成長の停滞についての興味深い記事の要約です。
たしかにここ50年間とそれ以前の50年間のテクノロジーによる社会変化の大きさは桁違いのものがありますね。言われてみて納得。
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アメリカの「最良の日」は過去のもの?
by エデュアルド・ポーター
16-1/19 NY Times
●「奥様は魔女」をはじめとする60年代半ばに流行していた人気テレビ番組を見てわかるのが、当時の中流階級の家庭というのは今日の中流階級と同じように、洗濯機やエアコン、電話に車を持っているということだ。
●もちろんネットやビデオゲームの類はまだ発明されていなかったが、その生活様式は現在と劇的に違うわけではない。ほとんどの家庭にはテレビやラジオがあったし、何百万人もの人々がダウンタウンで働いて郊外に住んでおり、その間は高速道路でつながっていた。アメリカの平均寿命は70歳であり、これは今日よりも8年ほど短いだけだ。
●ところがそこから50年ほど遡ってみると興味深いことがわかる。都市部に住んでいたのは人口の半分以下だったし、フォードのT型は生産されはじめていたが、アメリカ人は舗装されていない砂利道を馬車で移動していたのだ。
●冷蔵庫やテレビなどはあるわけがない。ほとんどの家には電気がきていなかったからだ。そして平均寿命はたった53歳だった。
●現代のアメリカ人は、どうも「歴史上ないほど劇的に変化している時代に生きている」と思いがちだが、このような比較、つまり20世紀半ばに経験した変化と、現在の変化の状況を比べてみると、その変化はそれほど劇的ではないことがわかるし、将来の経済的展望についても様々な疑問が湧いてくる。
●この比較から、次の50年にはどのような変化が起こるだろうか?テクノロジーの変化は遅くなったのだろうか?
●「アメリカの最良の日はすでに過去のものである」という考えは、シリコンバレーのハイテク企業のオフィスから発せられるテクノロジー楽観主義とは大きく異なるものだ。そしてこれは現在の政治面における不安感にも直結しており、国民的な議論にも入ってくるものだ。
●ノースウェスタン大学の経済学者ロバート・ゴードン(Robert Gordon)氏は、ここ数年間の自身の慎重な議論を記した論文をまとめた新著『アメリカの成長の興亡』(The Rise and Fall of American Growth)という大著を出版した。
●ゴードン教授はこの本の中で南北戦争以降のアメリカの生活水準の移り変わりをいきいきと描いたのだが、結果として、アメリカが今後直面するであろう意気消沈する予測を行っている。
●この本のまえがきの中で、ゴードン氏は「今日の若者の生活水準は、その親達の世代が19世紀後半から経験してきたように劇的に上がるとは思えない」と語っている。イノベーションはこれまでの40年間とほぼ同じようなペースでゆっくりと進むはずだと予測しているのだ。
●たしかにインターネットの進化にもかかわらず、現代の全般的な生産性(これはイノベーションの生産性への貢献を表すものだが)は、それ以前の50年間のたった3分の1のペースでしか上昇していないのだ。
●さらに厳しいのは、ベビーブーマーたちが退職し、女性の労働力の供給量が横ばいになるにつれて、労働人口が減り続けることが予測されていることだ。
●そして20世紀に劇的に生産力を拡大する原動力となった教育の向上にも、それほどの期待はできないのである。また、所得のさらなる集中化が意味しているのは、その生産性がどのようなものなろうとも、人口全体としてはその果実をうまく共有できないということだ。
●これらを踏まえてゴードン教授は、19世紀後半から毎年2%の割合で増えてきた人口の下から99%の人々の収入は、次の数十年においてはその成長率がほぼゼロになってしまうと論じている。もちろんゴードン教授のこのような予測が完全に正しいとはいえない。
●たしかに経済学者というのは、人口と教育、それに収入格差などがネガティブに働くと経済成長率が落ちることについては認めている。ところがここ数十年間の生産性の低下は、破壊的な金融危機のような、一時的な要因によって影響を受けていることは明らかなのだ。
●実際のところ経済学者たちは、どのような形でテクノロジーのブレイクスルーが起こるのかについて信頼性のある理論を持っていない。
●経済史の専門家で、同じくノースウェスタン大学で教えるジョエル・モキール(Joel Mokyr)教授は、これから大きなブレイクスルーが起こる可能性が高いと主張している。
●科学はガリレオが天体を新たに理解しようとして望遠鏡を使用した時から、テクノロジーの進化に便乗している。この「新しい科学」が、結果的にテクノロジーのイノベーションを促したのである。
●モキール教授によれば、ゴードン教授が説明できていないのは、IT革命やその他の近年の発展が革命的なツールやテクニックを生み出したことであるという。それらには遺伝子組み換えや急速なビッグデータの解析などが含まれる。これが医療や素材関連の分野であらたなイノベーションを起こすチャンスを広げたというのだ。
●モキール教授によれば、科学の探求に有用となるツールの進化のスピードは急速になってきており、今日と比べて30年後や40年後のテクノロジーの世界はどのようになるのか想像もできないほどであると述べている。
●それでもゴードン教授の議論は、簡単に拒否できないものだ。もちろん彼はテクノロジーの進化がほぼ止まるような事態を予測しているわけではないのであり、むしろ1920年代から70年代まで発生したようなイノベーションや経済発展はたった一度しか起こらないと議論しているのだ。
●そして今後の進化は過去40年間や、1920年代よりも前の時代のような、ゆっくりとしたものになるだろうというのである。ゴードン教授自身も「もちろんイノベーションは起こるが、それほど劇的にはならない」と述べている。
●1990年代から2000年代の爆発的な生産性の向上が薄れる中、経済学者の中で、ゆっくりとした進化を予測しているのは彼だけではない。
●サンフランシスコ連銀のジョン・フェルナルドとスタンフォード大学のチャールズ・ジョーンズは、最近発表した連名記事の中で、「将来は過去に比べて、教育の達成と先進国の研究開発の勢い、それに人口などの分野における成長がすべて鈍化する可能性が高い」と記している。
●テクノロジー進化の鈍化についてのゴードン教授の見解については、前連銀総裁で現在はブルッキングスに務めるベン・バーナンキ氏の発言からもうかがい知ることができる。彼によれば、長期金利はかなりの期間にわたって減少しつつあるというのだ。
●これは中国やその他の国による、米国債の爆買いによる貯蓄額の増加に対する反応であるともいえるが、同時にそれは、投資家たちが意識・無意識にかかわらずゴードン教授の立場に同意していると言えるのだ。
●「マーケットに投資している人々は資本投資における利率が15年、30年前に比べて落ちていると言っている。したがって、ゴードン氏の予測はマーケットの現実をいくらか反映している」とバーナンキ氏は説明している。
●他のデータも似たような方向性を示している。たとえば新しい企業の数によって測られる「ビジネス・ダイナミズム」という指数は衰退しつつあるように見える。設立5年以内の企業の雇用数のシェアは、1982年の19%から2011年の11%に下がっているからだ。
●もちろん批判的な見解には一理ある。トーマス・マルサス以来、現代のような悲観的な将来予測も、数年後に経済が活発になればそれが間違っていると否定されてきたからだ。
●シカゴにあるイリノイ大学の経済学史専門家であるディアドレ・マクロスキー(Deirdre N. McCloskey)教授は、フランスの経済学者のトマ・ピケティの大ベストセラー『21世紀の資本』について書いた論評の中で、「人々は世界が地獄に向かっていると聞きたがる傾向があるのですが、私はこれについて全く理解できない。悲観主義は、現代の経済世界についての頼りにならない指標でありつづけているからだ」と書いている。
●ところがその反対の楽観主義も、やはり認知バイアスを持ちやすい。しかもこれはただ単に、われわれの楽観的な起業家たちの所得が、国のGDPよりも急成長しているというだけではない。宇宙旅行やアップルウォッチ、それにグーグル・グラスのような新しいイノベーションの多くは、そのような楽観主義の人間たちのために向けてつくられているからだ。
●「リッチでテクノロジーの最前線であるシリコンバレーにいれば、状況は段々と改善しているというのは正しいだろう」とハーバード大学のローレンス・カッツは述べている。
●ただし問題は、それと同じことが「その他」であるわれわれについて常に当てはまるわけではないということだ。
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いやあ、考えさせられる記事です。
私は戦略学でいうところの「軍事における革命」(RMA)の議論からこのテーマに注目していたのですが、この記事は最終的に経済成長というところに話をもっていきましたね。
戦争の手段と経済活動の手段というのはリンクしているため、今後の「かせぐ手段」がそのまま「戦いの手段」にどうつながってくるのか注目したいです。



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