戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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シーパワー論のまとめ:後半

今日の横浜北部は晴れました。真冬ですが昼間は意外とすごしやすいというか。

さて、先日のエントリーの続きです。あくまでも参考文献として。

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▼パワープレイヤーたち

このようなことは中国も行いたいはずだ。習近平氏の「中国の夢」というスローガンの中心にあるのは、中国の軍隊を、世界政治の舞台において見栄を張れるだけの勢力にしたいという意志の現れなのだ。

●大規模な艦船が演習を行ったり、遠隔地の港に入港する際に、海軍は相手国に影響を与えたり強制することに使える。

●中国ほどの規模や歴史、そして経済的な影響力を持つ国がそのような力を持とうとするのは不思議ではない。また、中国が(アメリカのような)潜在的な敵に対して近くの沿岸を自由に航行させることを阻止したいと考えるのも当然であろう。

●「法を基礎とした国際秩序の維持」や「航行の自由」をアメリカに依存している国々にとって、中国のシーパワーの台頭が問題なのは、その態度と地理的な事情にある。

●まずインド洋、南シナ海、そして東シナ海というのは、世界経済にとって致命的な交通ルートであり、世界の取引量の多い10大貨物港のうちの8つの港が、この地域に位置している。世界中で運搬される石油の量の三分の二はインド洋を通過して太平洋に向かい、マラッカ海峡を毎日1,500万バレル(15億リットル)の石油が通過しているのだ。

●世界の海洋貿易のほぼ30%が南シナ海を通じて行われており、そのうちの120億ドル分がアメリカへ向かっている。世界の漁獲量の10%がこの海で生み出されており、書いていには石油や天然ガスが埋蔵されていると見られている。

●もちろんこの海域のほとんどは、この地域最大で最も積極的な中国が、その領有権を主張している。南シナ海における北京政府の領有権の主張には、パラセル諸島(台湾とベトナムも主張)、スプラトリー諸島(台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、そしてブルネイも)、そしてスカーボロー礁(フィリピンと台湾も)が含まれる。

●中国は南シナ海の90%以上を含む、いわゆる「九段線」での主権をあいまいな形で主張しているが、これは1949年に台湾に逃れた国民党政府から受け継いだものだ。そしてこの主張が島や岩礁だけ、もしくはそれらを含むすべての海域に適用できるのかについては適切な説明がなされたことはない。

●東シナ海においては(日本が実効支配する)尖閣諸島について日本との争いが続いており、最近では海上における沿岸警備隊の巡視船同士の牽制が日常的になってきている。

●アメリカはこれらの領有権の主張については中立の立場をとっており、「軍事力ではなく国際的な司法手段による解決」や「すべての領有権の主張は自然の地勢だけを基礎としたものにすべきだ」とだけ主張している。

●ところが中国は拡大しつつあるシーパワーを強制的に使いつつあり、侵略的なパトロールを実行したり、他の領有権の主張国の水域に侵入したり、最近に至っては、それまで暗礁であった五ヶ所に浚渫工事を行い、大規模な人工島を埋め立て計画を推進しているのだ。ちなみにこの人工島は、国連海洋法条約では12カイリの領海も主張できない。

●これらの人工島には、最新式の情報収集のための機器が設置され、すぐに軍事的に使用できる滑走路までが建設されている。

●この海域でこのような行動をしたのは中国が最初ではない。ところが中国は、過去40年間の間に他の国々がつくったほぼ20倍もの規模の人工島を、たった2年以内につくりあげてしまったのだ。

●もちろんアメリカにとって、このような基地を(軍事力で)無力化するのは簡単だ。ところが戦争に至らない状況下では、中国がその軍事力をこれまでよりもはるかに速いスピードで展開できるようになるのは間違いない。

●アメリカの国家安全保障アドバイザーであるスーザン・ライスが「国際法の許す限り、米軍はどこでも航行し、飛行し、活動する」と述べ、しかも「航行の自由」の警戒活動が再開されると宣言したのは当然のことと言える。

●アメリカ国防総省の文書によれば、中国海軍の艦船の数はアジア最大であり、300隻以上の軍艦、潜水艦、揚陸艦、そして哨戒機を保有しているという。インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、そしてベトナムの保有数を合計しても200隻ほどであり、しかもそれらの多くは中国のものと比べて老朽化しており、パワーも落ちるものばかりだ。

●巡視船の数を比較しても状況はほとんど変わらない。中国は205隻あるのに対して、上記五カ国を合わせても147隻である。この巡視船は領有権の主張に使われるが、水平線の外にはより強力な海軍の艦船が控えていることも珍しくない。

●中国との領有権問題を抱えるほぼすべての国々は、新しい艦船の購入したり建造を努力したりしているが、中国との能力の差は開きつづけている

▼今後の展望

●したがって中国は(そのつもりがあるかどうかはわからないが)、海洋の領域や資源を規制するルールと規範、航行の自由、そして紛争の平和的解決を脅かす可能性がある。アメリカはこの挑戦に応じる準備はできているのだろうか?

●「アメリカの最終的な撤退は不可避だ」と恐れている人々はほぼ確実に間違っている。たしかにその成長は急速だが、中国の(公式発表による)国防費は米海軍単独の予算よりも多いわけではないからだ。

●アメリカには10隻の原子力空母があり、そのうちの一隻は日本に母港がある。中国はソ連時代に建造された小規模の改修された空母がたった一隻あるだけであり、それ以外に2隻が建造中だという。

●アメリカの世界最新式の水上艦であるズムワルト級のステルス駆逐艦は、その3隻すべてが他の新しい艦船や航空機と共にアジア太平洋地域に配備される予定だ。中国の軍事専門家たちは、米海軍の能力に追いつくためにはあと30年かかると考えている。

●アメリカにはそれに協力してくれる他国の海軍があり、それはアジア太平洋地域だけでなく世界中にもある点で優位となっている。たとえば日本の海上自衛隊は戦力投射能力に欠けているが、世界第5位の能力を持つ海軍だと認められており、常に米海軍と演習を行っている。

●去年9月の国家安全保障関連法案の通過によって海上自衛隊は同盟国との共同任務の可能性の幅も広がっており、これは北京政府側にとっては都合の悪い状況となってきた。さらに日本は中国と領土紛争がある地域の近隣諸国と緊密な連携を取ろうとしており、フィリピンとベトナムに新しい警備船と古い護衛艦を供与するために有利な条件のローンを組んだほどだ。

●インド海軍も協力的な仲間だ。中国に対する警戒感が強まるにつれインドは西洋諸国の海軍たちがと演習を行うようになり、西側もインド海軍の能力の高さは認めている。毎年恒例の米国とのマラバール演習にはオーストラリアやシンガポールの艦船だけでなく、2015年になってはじめて日本が参加している。政権を担ってまだ日の浅いインドのモディ政権は、2027年までに海軍を200隻まで増やすことを狙っており、空母群を3個の他に原潜を調達する予定だ。

●もちろん人民解放軍海軍に追いつくことは不可能だが、インド海軍はインド洋が「中国の湖」になるのを阻止するよう決意している。インドの戦略家たちは長年にわたって、中国が民間の港湾施設のネットワークを構築し、インド政府側が自らの支配下にあるべきだと考える水域において艦船の能力を高めるための沿岸インフラ整備計画を進めていると考えている。中国がインド洋に原潜を送りこむことも多い。

●中国はその他大勢の国々と同様に、アジア太平洋地域の平和維持という面で、アメリカ海軍の覇権的な力から利益を得ている存在であり、このおかげで驚くべき経済発展が実現できたのだ。ところが現在はこの秩序に挑戦しようとしているように見える

●もちろん中国側が自国の沿岸海域におけるアメリカ海軍の活動を阻止したがっているというのは理解できるところだ。そして「新型大国関係」を望む国としては、外洋の警戒活動をアメリカに頼っている状態は、たしかに癪に障るのであろう。だがアメリカとその同盟国たちが、中国の(そして世界の)貿易の通り道である海上交通路を妨害しようとしているという考えは、戦争以外の状況を考えれば、まさに非現実的なものである。

●ところがもし台湾への侵攻などで戦争になった場合に、中国はアメリカが台湾の助けにくることを拒否したり、少なくともそれを遅らせようとするはずだ。その反対に、中国は周辺国に脅威を与える海軍を作り上げるということによって、むしろ彼らをよりアメリカの側のほうへ近づけさせてしまっている

●さらに、強力ではあるが、それでも世界第二位のシーパワーになることによって、中国が破滅的な計算違いを犯してしまう可能性も出てくる。

●たとえばドイツは20世紀初頭に、法外な額がかかる戦艦の建造競争によってイギリスの海軍力の優位に対抗しようとしたが、第一次世界大戦中にイギリスの海上封鎖の前に為すすべがなかった。日本も第二次世界大戦において、真珠湾攻撃からたった半年後にミッドウェー海戦で敗北し、傲慢さからつくりあげた大規模な艦隊の大部分を失ってしまったのだ。

●もちろん中国が国家の威信やセルフ・イメージの投影として「強力な外洋艦隊が欲しい」と考えるのはごく自然なことだ。とりわけ最終的にそれを「国際的なルールを(弱めるためではなく)守るために使うべきだ」と考えてくれれば望ましい

●ところが最大の心配は、中国自身が何をして行けばいいのかわかっていないという点であり、それを単なる愛国心の発露や外交的なジェスチャー、それに慎重な脅し以上のことに使いたいという思いに引きつけられて我慢できなくなってしまうのではないかという点にある。

●マハンが分析したように、「シーパワーの歴史というのは、その大部分が(といってもそれだけではないのだが)国家同士による相互競合関係、そして戦争に至ることも多い、暴力による争いという話で占められている」のだ。

●もちろんこれは必然的ではないのだが、それでもアメリカは最悪の事態に備えなければならない。

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いかがだったでしょうか?戦略研究におけるシーパワー論の王道のような議論です。

参考までにシーパワー論の代表的な論者であるマハンとコルベットの2人の理論を簡潔に言えば、

☆マハン:海(公海)を制するものは、世界を制する(シーパワー)

☆コルベット;いや、海をとっても陸に影響を及ぼせなかったら意味なくね?(シーパワー+ランドパワー)

ということです。

冷戦後はその圧倒的な海軍力によってアメリカがマハンのテーマを克服し、その先のコルベットのテーマをどう料理しようかという段階にあったわけですが(「フロム・ザ・シー」など)、上記の記事にあるように、ロシアと中国によって、マハンのテーマが復活した、という見方ができますね。

詳しくは私が去年訳出した『現代の軍事戦略入門』の第一章の「シーパワーの理論」をぜひ。

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Commented at 2016-01-22 12:26 x
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by masa_the_man | 2016-01-16 21:27 | 日記 | Comments(1)