戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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シーパワー論のまとめ:前半

今日の横浜北部はなんとか晴れておりまして、ようやく本来の真冬の朝らしくなってきました。

さて、正月早々から中東の宗教戦争や株式市場の乱高下が始まっておりますが、今回紹介するのは去年の英エコノミスト誌に掲載された、地政学・戦略学的にも重要なシーパワーに関する記事の要約です。

授業などで使うというほぼ個人的な用途としての試訳ですが、重要なところをハイライトしておりますのでご参考まで。

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シーパワー:海を支配するのは誰か?

15-10/17 The Economist

●アメリカは次の数日間に、世界のほとんどが注目しないところで、台頭しつつある中国海軍の力に挑戦することになる。その挑戦とは、中国が領有権が争われているスプラトリー(南沙)諸島で建設している人工島の、周囲12カイリと推定される領海内でパトロールを実施する形で実行されるのだ。

●米海軍は2012年以降、中国が領有権を主張する構造物のすぐ近くを自由に航行するという、国際法における権利を行使してこなかった。

●この「航行の自由作戦」は、中国の習近平国家主席がワシントンを訪問して、南シナ海での挑戦的な人工島建設に関するアメリカ側の懸念を払拭するのに失敗したために再開されたものだ。もちろん中国側は抗議するだろうが、現状として彼らができるのはそれくらいであろう。

●この米海軍の動きは、現在でも圧倒的な(ただし挑戦される可能性が出てきた)アメリカのシーパワーの行使である。

●「シーパワー」という概念そのものにはきわめて「19世紀」的な響きがあり、ネルソン提督や帝国の野望、そして砲艦外交を彷彿とさせるものだ。ところがシーパワーの偉大な提唱者で、1914年に死去した海軍戦略家のアルフレッド・セイヤー・マハンの著書は、今でも政治指導者や軍事アドバイザーたちに注目されて読まれている

●マハンは1890年に、「海上貿易と制海権による海の支配は、世界での支配的な影響力を意味する。なぜなら、陸地の富の産物がいかに大きくとも、海ほど必要な交換を容易にするものはないからだ」と書いている。

シーパワーは、海軍のような「ハード」なものと、貿易や海洋資源の開発を含む「ソフト」なものの両方から成り立っているのだが、この重要性は今後も高まるばかりだ。

●たしかに情報はデジタルの状態で移動するが、人々はいまだに飛行機で移動している。物理的なモノは今でも圧倒的に船で移動させられており、海洋貿易はその重量と数量で、世界貿易の90%を占めているのだ。

ところが海の航行の自由や、互いが行き来できるような状態というのは、自然に放っておいて実現するものではない。それらはほぼすべての国が自国の利益のためになると考えて同意するような「法の支配」に基づく国際政治体制によって成り立つものだからだ。

●そしてここ数十年間は、その体制を警備するための手段とその意志を持っていたのは、同盟国たちとの緊密なパートナーシップをもっていたアメリカだけだったのだ。

●世界の海洋公共財へのアクセスを維持する米国の覇権的な力が挑戦を受けたのは、第2次世界大戦以降ではたった1度だけであり、しかもそれはソ連によるほんの短期間のものであった。

●ソ連は1970年代に壮大な外洋海軍を築き上げたのだが、そのための建造コストがあまりにもかかってしまい、一部の歴史家たちは、その後20年も経たないうちにソ連の体制を崩壊させた要因の1つがこの建造コストだと分析しているほどだ。

●冷戦が終結した時、高い資金を投入して調達した艦船のほとんどは、さびついたまま北極海の軍港に放置されることになった。

●ところがそのような状態は変化しつつある。10月7日にロシアはカスピ海からシリアのターゲットに向かって、大々的に巡航ミサイルを発射している(何発かはイランに落ちたとするアメリカ側の発表は否定している)。

●プーチン大統領はこのミサイル発射のプロパガンダ的な意味をそれほど強調しておらず、「これで専門家たちはわかっただろうが、ロシアがこれらの兵器を所持しており、しかもそれが本当に存在することを初めて目の当たりにしたのだ」と述べている。

●西側の軍部の企画担当者たちはこれを受けて、「ロシアが自国の領海から低空飛行する巡航ミサイルでヨーロッパのほぼ全域を狙えることを実証した」という事実に対処しなければならなくなったのである。

●しかしそれよりもはるかに深刻な挑戦が中国から突きつけられている。創設当初はかなり質素だった中国海軍は、まずは純粋に沿岸防衛を狙っていたが、そこから「近海」において強力な艦隊へと発展してきている。ちなみにその「近海」とは、日本からフィリピンへと連なる第一列島線のことだ

●現在もその発展は続いており、しかもそれはかなり野心的なものだ。ここ10年間における中国人民解放軍海軍(PLAN)の遠洋作戦は、その頻度が増しただけでなく、技術的にも高度なものになってきている

●また、インド洋における海賊対処作戦を永続的に維持しつつ、中国は西太平洋のはるか沖合で海上演習を行っている。最近では中国海軍の5隻の艦船が、ロシアと中国の合同演習の後にアリューシャン列島付近を航行した。

▼目標としての外洋

●中国政府は去年の5月に国防白書の中で、中国海軍の「沖合水域防衛」の役割の一つとして「公海防衛」と呼ぶものを公式に加えたことを発表している。

●中国の戦略では、以前は現地のシーコントロールを第一に考えられていたが、現在は自国の経済力と外交の影響力の拡大を強調しはじめている。つまり過去の陸上兵力優位の時代は終わりを告げたのだ。

●海上兵力よりも陸上兵力を優先する従来の考え方は破棄されるべきであり、公海と外洋の管理や、海洋面での権利や権益の保護に大きな重要性が置かれるようになった。中国にとっては国家の安全保障と見合うだけの、近代式の海洋海軍の体制を作り上げることが必要になってきたのだ。

軍事的にその関心の中心にあるのは、やはり台湾だ。中国は自らが「反逆者」と見なす島を(必要とあらば軍事的に)取り戻すため手段の獲得を求めているだけでなく、台湾の主な保護者であるアメリカの介入を防ぐ方法を模索している。

●中国は、アメリカが台湾政府に対する脅しとして中国側が行おうとしたミサイル演習を阻止するために2個空母打撃群を台湾海峡に送り込んできた1996年の台湾海峡危機で受けた屈辱を忘れていない

●当時のアメリカの国防長官ウィリアム・ペリー(William Perry)は、中国が偉大な軍事力を持っていたとしても「西太平洋における最強の軍事力を持っているのはアメリカである」と後で誇らしげに語ったのだ。

●中国はバランスをシフトさせようとしている。地上発射型の対艦ミサイルから潜水艦、近代的な海上哨戒機から戦闘機まで、ありとあらゆる兵器に多額な投資を行い、アメリカを「第一列島線」、そして最終的には「第二列島線」の外まで追い出そうとしているように見える。

●また、中国は石油を運搬するほとんどのタンカーが通過し、チョークポイントをパトロールしてインド洋へのアクセスを確保するための能力を獲得しようとしている。中国の原油は、その内の40%がホルムズ海峡、80%がマラッカ海峡を通過している。

●したがってそこから見えてくる目標を見ていくと、以下のようなものになる。まずは経済的にも致命的に重要なシーレーンを守り、次に南シナ海と東シナ海で圧倒的なプレゼンスの維持、そして海外で拡大しつつあるプレゼンスの中で、投資や自国民が脅威を受けた場合に武力介入できるようにすることだ。

●(去年の)8月にアメリカ国防総省は新たな「アジア太平洋海洋安全保障戦略」を発表している。その中で強調されたのは3つである。それは①海の航行の自由を守り、②紛争と強制を抑止し、③国際法と基準の順守の促進することである。

●これはつまり、2012年に宣言された通り、アメリカが2020年までにアジア太平洋地域に対して少なくとも60%の海・空軍の戦力を配備することを通じて「リバランス」する計画を進めていることを確認するものであった。

●海軍長官のレイ・メイバス(Ray Mabus)は、次年度の予算として連邦議会に8%の増加、つまり1610億ドルを要求しており、現在の273隻体制から、最低でも300隻体制にしたいと考えている。共和党の議員の中には、むしろ350隻が適切な数であると主張している人もいる。

●アメリカの懸念は合理的なものであると言えるだろうか? もちろん世界レベルの海洋勢力になりつつある現在の中国は、ソ連が海軍を拡大していた当時の様子とはやや異なる。

●強力であったソ連の潜水艦部隊の主な目的は、アメリカ軍が大西洋を渡ってヨーロッパを支援しにくるのを阻止するための戦略核攻撃を行うことにあったのだが、それ以外のソ連海軍の目的は、主に大国としての立場を誇示し、同盟国を感激させて敵を抑止するための「プレゼンス」という任務を通じて、ソ連の影響力を世界に広めることにあったのだ。

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この続きはのちほど。
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by masa_the_man | 2016-01-08 08:30 | 日記 | Comments(0)