孫子の兵法 |
さて、すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、今月からいよいよ東洋の戦略思想の古典である『孫子の兵法』を解説したCDを発売しました。
孫子の兵法といえば、古今東西の戦略思想家たちのインスピレーションとなっただけでなく、日本でも信玄公などをはじめとする戦国武将、そして現在では主にビジネス書として、関連書籍が毎月一冊以上は出ているという古典的大ベストセラーです。
もちろん私も、以前から普及している文庫版や入門的なビジネス書などを読み込んできたわけですが、イギリスに留学してから孫子に関して衝撃を受けました。
それは、私が専攻した戦略研究(strategic studies)という学問では、孫子の読まれ方が極めて戦略的であり、そのアプローチが日本で読んだものとは劇的に違っていたからです。
たしかに日本にも第二次世界大戦を経験された旧軍の元軍人の方たちによる孫子の兵法解説はありますし、自衛隊関係者の方々の解説したすぐれたものもあります。
それでも私が衝撃を受けたのは、その孫子の活用のされ方の違い。
幸いなことに、日本では現在直接戦争には参加していないために、孫子を軍事的な観点からそこまで真剣に読み込む必要性は存在しません。
ところが私が留学していたイギリスは、なんだかんだと言っても中東で軍事介入しており、クラウゼヴィッツと並ぶ孫子は(その教えを実際に活用できるかどうかはさておき)詳しく研究するだけの価値のある古典であると明確に認識されておりました。
つまりイギリス(やアメリカ)での孫子へのアプローチは、日本のそれとは全く違って、真剣そのものなのです。
そのような中で、私はたまたまコースメイトたちの中に、東洋の戦略理論を西洋の戦略理論のレンズを通じて紹介しようとする人間が何人かおりまして、彼らの話を聞くうちに、自分の中でも独自の孫子解釈というものが生まれてきました。
そのきっかけは、もちろん自分の指導教官であり、つい昨日発売した『現代の戦略』の原著者でもあるコリン・グレイ。
そしてもうひとりは、これまた訳書『自滅する中国』を手がけたこともあり、現在インタビューを元にした本の制作にかかわらせていただいている、エドワード・ルトワックという人物です。
この二人は戦略理論の世界では非常に有名であることは言うまでもないわけですが、グレイの強烈なクラウゼヴィッツ主義的な考え方と、実体験から得たルトワックの「戦略の逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)というアイディアは、私が孫子を考える上でとても参考になるヒントをいくつも与えてくれました。
そこに元コースメイトであるデリック・ユエンという香港人が博士号論文をまとめて出版した本が、まさにこの留学時代に仲間内で盛んに論じられていた、東洋の戦略理論を西洋の戦略理論のレンズを通じて紹介しようとするものだったのです。
しかもそれは、まさにグレイやルトワックなどの戦略研究の観点をベースにした、バリバリの「戦略論」だったのです。
ところが日本の孫子本では「いかに自分を成功に導くか」という考えだったり、「ビジネスにどう活かすか」という、どちらかといえばぼんやりとした活用の仕方しか提案されておりません。
そのような現状を打破すべく、私は今回この「デリック本」の解説をベースとして、孫子の兵法を戦略研究の観点から新しく解釈しなおし、それをレクチャーとしてまとめるという、なんとも無謀な賭けに出ました。
そしてその構想からほぼ1年かけて完成したものが、収録時間が14時間を越える超大作の音声CDです。
しかもこのCDで語られているのは、私がこの三人から得た知見を土台にして、徹底的に「国家運営をする統治者のため」に書かれた、まさに戦略論そのもの。私は本CDセットを通じて、まさにオリジナルな孫子の姿を浮かび上がらせることができたと自負しております。
また、本CDでは従来の日本にはなかった、近年の中国における画期的な孫子解釈も紹介しております。たとえば「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の有名な言葉がありますが、それでさえ別の解釈があることが主張されているのです。
また、日本ではほとんど紹介されていない戦闘機乗りである、ジョン・ボイドによる孫子解釈から浮かび上がってきた、新しい孫子解釈も提示されております。
個人的な話で申し訳ないのですが、ここ数日間でこのCDの最終チェックをしていて聞き直しながら、私自身もあらためて深く復習できたと実感したほどです。
もちろん全編聞き通すのは時間がかかりますし、お値段も安くはないので、今回は「本気で孫子の知恵を身に着けたい」と考えている方以外には聞いていただきたくないと思っております。それほど私は、今回のCDを本気で真剣に聴いてもらいたいと考えております。
西洋での孫子の理解、中国での孫子理解、そしてそれを戦略研究の知見から比較検討した、新たな孫子の姿を、この機会にぜひ積極的に学んでみてください。
▼~あなたは本当の「孫子」を知らない~
「奥山真司の『真説 孫子解読』CD」