最近のグローバル化の5つのトレンド |
さて、番組(http://www.nicovideo.jp/watch/1450693275)でも紹介した通り、グローバル化を授業で教えているアメリカの大学の先生が、この分野で起こっている「最近の5つのトレンド」を指摘した興味深い記事がありましたので、その要約を。
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アメリカと世界を変化させつつあるグローバル化の五つの大きなトレンド
by エドワード・ゴールドバーグ
http://goo.gl/snww58
15-12/6 ハフィントン・ポスト
●年末も近づき、今年出た最高の映画や本などのリストを挙げる時期になってきた。私はグローバル化や国際政治経済について教えている関係から、数年前からひと味違うタイプのリストを作成している。それは、地政学・経済的なリストであり、その年のグローバル化のトレンドを指摘するものだ。
●もちろんたった5つでは物足りないという人もいるかもしれないが、その理由は私がマクロな視点でグローバル化がアメリカと世界をどのように形成しつつあるのかをざっくりと見ているからだ。5つ以上にしてしまうと概観ができなくなり、より細かい分析が必要になってくる。
1. 中国の減速
●過去35年間のグローバル化の中で最大の話題は「中国の台頭」であり、その「カフェイン入り」の経済成長がどのような影響を世界に与えるのかという点であった。ところがその話題は逆転し、中国経済の減速が世界経済に与える影響だけでなく、中国国内の政治にどのような影響を与えるかという話になってきたのだ。
●鄧小平以来の北京政府にとっての政治の正統性(レジティマシー)は、共産主義ではなく莫大な経済成長を土台としたものであり、市民の生活水準が年ごとの改善の保証にあったのだ。中国には「天命」という伝統的な概念があるが、これは皇帝が善政を敷かないと天からの使命を失って帝位を追われるという考えだ。現在の「天命」のアップデート版の土台は、このような近代的・経済的な経済成長にあることはいうまでもない。
●中国のリーダー層がこの経済成長という「天命」に応えることができなくなった時にどのような反応をするのかは、まだ不明だ。北京政府が直面している問題の規模は莫大なものであり、巨大で減速しつつある国内経済を、政権の正統性を崩す可能性のある混乱や痛みの起こらない形で、いかに投資主導型の体制からよりバランスのとれた消費主導型のものにつくりかえて行くかが最大の難問なのだ。北京政府は、失業を防ぐためだけに莫大な負債を溜め込みつつ営業を続ける、極めて非効率な国営企業を一体いつまで生きながらえさせることができるのだろうか?
●北京政府は共産党の「天命」についての受け取られ方を、経済の成長率が7%から4%に落ちる中でどのように維持しようとしているのだろうか?アメリカのような先進国では4%の経済成長の実現というのはとんでもないレベルであるが、7%以上の成長率に慣れてしまっている中国人にとっては4%への下落は深刻な景気後退と感じられる可能性があり、これは「天命」に対する挑戦ともなり得るのだ。
2. 「3つの災難」
●グローバル化というのは数億人もの人々を貧困から抜け出させることになったという意味で著しい成功を収めたといえるが、それでも今年に入って急速に現実化してきた「3つの災難」を促したとも言えるのだ。その3つとは、地球温暖化、テロリズム、そして政治的な事情で発生した移民である
●タイム誌の2015年11月15日号の記事では、この3つの災難に直接的なつながりがあることが指摘されており、「米軍の関係者たちは気候変動のことを脅威倍増作用のあるものと認識している」と書かれている。
●2014年に米国防総省は気候変動を各国政府の不安定要因となっており、難民の拡大やインフラへのダメージ、そして病気などの蔓延につながるものであるという報告書を発表している。「これらの統治上のギャップは過激主義的なイデオロギーやテロリズムを生み出す土壌をつくりだす」とその報告書には記されている。
●同報告書で記されていることと現在のシリアの現地での状況の様子は、驚くほど似通っている。「中東における過去最悪の規模の干ばつは農民の不安を増幅させ、食糧の供給に脅威を及ぼしている。同時にシリア政府は国内の至るところで軍閥の台頭に直面しており、何百万人ものシリア人が祖国から逃れることになったからだ。
●これらの「災難」に加えて、裏の世界では国家間の境が崩されているにもかかわらず、表の世界では古いタイプの「主権」という概念のおかげで、新しいグローバルなルールがつくられるのを難しくしている。
3. BRICsという神話の崩壊
●2015年は、ゴールドマン・サックスによってつくられたBRICsという言葉が崩壊した年でもある。この言葉は同社のジム・オニールが2001年に発表したものであり、ブラジル・ロシア・インド・中国という急激に台頭しつつあった国々をまとめて呼ぶ名前として出てきたものだ。のちに南アフリカもその中に加えられたが、これらの国々の首脳は2006年に非公式の場で会合を行い、2011年に公式に「BRICsフォーラム」を開催して、参加国間の貿易や政治、そして文化的なつながりを促進しようとしている。
●ところが歴史と文化、そして地理というのは、金融面での分析では嘲りの対象となることがある。とりわけこれが地政学的な文脈の中でつかわれた場合にはなおさらだ。中国の急激な成長が衰え、これによって支えられていたブラジルの商品経済が落ち、ロシアの石油ブームが去ったいま、BRICsはゴールドマン・サックスが推薦する以前の、歴史的にも文化的にもほとんど接点のないような状態に陥っているようにみえる。現状ではインドだけが唯一成長を続けられそうな雰囲気であるが、そもそもインドの成長というのは中国やブラジル、それにロシアとは無関係なのだ。
4. 敗者に気をつけろ
●グローバル化というのは、国際関係論が長きにわたって唱えてきた原則を根本から覆すことになった。この学問では台頭する大国が世界秩序を脅かすということが教えられてきており、その説明としてペロポネソス戦争における古代ギリシャや、第一次世界大戦前のイギリスに挑戦して台頭してきたドイツなどの例が使われる。
●ところがグローバル化はこのような考え方を変えてしまった。今日の台頭する大国(中国)はグローバル化を象徴する典型的な存在であり、世界経済のシステムのなかにあまりにも深く組み込まれており、既存の世界秩序を崩すことは経済的にも無理である。中国に必要なのは秩序の崩壊ではなく、その安定なのだ。
●むしろ世界秩序によって脅かされ、そしてそれを脅かしているのは、衰退しつつある大国であるロシアのほうだ。ロシアこそが秩序の組み換えから何も失うことのない国なのだ。ロシアというのは、エネルギー市場の崩壊以上に、グローバル化したゲームをぶち壊す気合をもつ唯一の主要経済国なのだ。
ロシアは自らが大国であることを証明する必要があるのだが、経済学が「大国」の定義を変えたことを認めたがっていない。その反対に、中国はグローバル化した経済体制に積極的に入り込んでいる。人民元が国際準備通貨の立場を獲得しつつある例や、中国が最大の原油購入者であるにもかかわらず中東での軍事的な立場を要求していないことはその典型だ。中国には資金力があり、権力を持った側はそれを活用しなければならないことを知っているのだ。
5. ゲームを変えたもの
●原油価格の下落は、米国におけるシェールガス開発や自然エネルギーの活用の広まりによって促されたものだが、当時の多くの専門家たちは、原油価格がバレルあたり60~70ドルで安定すると述べていた。ところがこのような状態はまだ実現しておらず、その下落の仕方は前代未聞のレベルとなっている。
●2014年のアメリカは2000年当時と比べて25%も少ない原油を中東から購入しており、同年9月のアメリカ石油研究所の報告書では、アメリカの輸入が最も下がったのは中東諸国からのものであり、2050年代までにはさらにその輸入量が34%も下がると予測している。
●2015年6月9日にフィナンシャル・タイムズ紙はトップの見出しで「G7は石油関連エネルギーからの排気を今世紀中に消滅させることに合意」と書いている。グリーンピースの国際気候政治研究所の代表であるマーティン・カイザーはその関連記事の中で「G7のリーダーたちによる合意は石油関連エネルギーの時代の終焉を示したものであり、100%再生可能なエネルギーの未来も視野に入ってきた」と述べている。
●ペトロ・ストラテジーというコンサルタント会社によれば、「世界の原油埋蔵量における中東の割合は47.9%だが、現在の使用量から推定される継続可能年数は78年ほどだ」と述べている。ところがこのような予測は2008年のリーマンショック前に銀行によって保有されていた住宅債券の量の予測と似たようなものだ。つまりこの予測は「ものごとがこのままの状態で続く」という想定から成り立っているのだ。カイザーの予測が当たったとしても、中東に埋蔵されている原油の価格がこれから落ちていくことは間違いない。
●石油の今後の経緯に関する疑問は、実に多くの問題と答えを浮き彫りにすることになる。石油の価値の下落は、ロシアにとって明らかに圧力をかけることになり、同時にナイジェリアやベネズエラのような国々にもさらに深刻な難問を突きつけることになる。ところがサウジアラビアのような国の安定は将来的にどうなるのだろうか?そしてさらにいえば、イスラエルのことはさておき、アメリカは中東がエネルギー源として保護する必要がなくなれば、そこまで深い介入をする必要もなくなるのではないだろうか?
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簡単に結論をいえば、中国の減速、温暖化テロ難民、BRICsの崩壊、ロシアの脅威、原油価格の下落、ということになりますね。
日本ではあまり認めたくない人がいるかもしれませんが、やはり中国の影響力というのは、あの馬鹿デカいサイズのおかげで、やはり絶大なものがあります。
問題はそれを中国自身がコントロールしきれていないというところ。ここは本当になんとかしてほしいところですよね。
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