南シナ海の米中衝突と3つの選択肢 |
さて、昨夜の番組( http://www.nicovideo.jp/watch/1446011493 /https://youtu.be/R90eXEUVbD0)でも触れましたが、米海軍は現在、南シナ海の中国の人工島の近辺に軍艦を航行させる、いわゆる「航行の自由作戦」(FONOPS)を絶賛実施中であります。
ところが実際の米海軍の狙いが何なのかは、新聞やニュースを見てもよくわかりません。
そこで私がその法的な面と、アメリカ側の狙いについて簡潔にまとまった記事をベースにして、ここでわかりやすく説明してみたいと思います。
まず今回の南シナ海の領土争いで焦点になっているのは「国連海洋法条約」(UNCLOS:1982年)で定められた、いわば世界の海における領土・領海に関する国際法です。
しかしここで問題になるのは、
<アメリカ> 条約を批准していないが、その慣習は守っている
のに対して、
<中国> 批准しているが、その慣習を守っていない
という点です。お互い守っているようで守っていない宙ぶらりんの状態で、法的な面では互いにツッコミがかませるという微妙な状態です。
さらに問題なのが、アメリカと中国は、その領海などの分野に関して、大きく異なる見解を持っていることです。
たとえば島から伸びる「領海」(12カイリ以内)と「排他的経済水域」(EEZ:200カイリ以内)の領有権に関して、
<アメリカ>
・領海とEEZ、どちらも無許可で無害通航(平和的な通過)が可能
・EEZでは、軍事的(海底探査や軍事演習など)なオペレーションまでOK
として、かなりオープンなのに対して、
<中国>
・領海内を通過するには無害通航で、さらに実行支配国には許可が必要。
・EEZの中では無害通航で、オペレーションは禁止。
というかなり条件の厳しいものになっております。なんというか、陸の領土の延長のような感覚なんですね。
ちなみに番組ではアクシデント的に妙な絵になってしまったのはこの説明の部分なんですが(苦笑)、まあ見逃してください。
また、国連海洋法条約では領海やEEZの基点になるものとして3つの海の地形を挙げておりまして、それらを説明すると、
①低潮高地(Low-tide elevations)
・暗礁のこと。満潮になると海に隠れる。領海もEEZも主張できない。
・例外として、実効支配者は安全航行のために500メートルの安全水域を設定可能。
②岩(Rocks)
・満潮時でも海に沈まない。人間が継続して住めない。
・領海はOKだが、EEZは主張できない。
③島(Islands)
・満潮時でも海に沈まない。人間が継続して住めるし経済活動も可能。
・陸と同じで、領海もEEZも両方とも主張できる。
というものです。
さて、今回の南シナ海に軍艦を送り込む中で、これらを踏まえてアメリカにとっての選択肢にはどのようなものがあるかというと、冒頭の記事の著者たちは3つの選択肢があると申しております。
それらを中国に対するメッセージ性の弱い方から強いほうに並べてみると、以下のようになります。
A:岩や人工島周辺の12カイリ内を、無許可で無害通航。
B:低潮高地周辺の12カイリ内で、軍事的なオペレーションを実施。
C:岩や人工島周辺の12カイリ内で、軍事的なオペレーションを実施。
繰り返しますが、これによって発せられるメッセージ性の強さは、A<B<C。そして今回米海軍がやったのは、現在報道でわかっている部分では「A」ということになりますね。
ちなみに冒頭の解説記事の著者は「B」のオプションが最も望ましいと申しておりました。
もちろん米海軍は、今後もAだけでなく、BやCを行っていく可能性がありますし、またそれを追尾してくる中国海軍などと衝突したりする可能性も否定できません。
世界の30%の船が通過し、日本人の生活もかかっている南シナ海では、アメリカと中国という世界の2大大国の間で、このような劇的な安全保障ドラマが展開されております。
事態が劇的に変わる可能性もありますので、やはりわれわれは今後もこの海域の事態は注視していかなければならないでしょう。
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