2015年 08月 30日
ドイツのアフガニスタン派兵 |
今日の横浜北部はずっと小雨が降っておりました。とりあえず半袖でよかったのが救いですが。
さて、火曜日に放送予定の特集コーナー(http://live.nicovideo.jp/gate/lv232059814)で詳しく話す予定のドイツの派兵についてですが、とりあえずポイントだけ先に本ブログで触れておこうと思います。
すでにご存知のかたもいらっしゃると思いますが、ドイツは2001年9月11日のアメリカにおける連続テロ事件をきっかけとして、2002年からアフガニスタンに関する二つの作戦・任務(OEFとISAF)に参加しております。
日本と同じく敗戦側の枢軸国でありながら、ドイツはすでにこの作戦で戦闘を行い、5000人以上の兵の規模の派兵と50人以上死者を出しているわけですが、そこでの経験についてまとまった報告や書籍が最近良いものが出てきましたので私も読んでみました。
そしてこれは安保関連法案が通過した後の事態を懸念している人々、もしくは日本の意思決定者たちにとってかなり参考となるケーススタディになるのではと思い、ここに解説してみたいと思ったわけです。
ちなみに詳しい解説は番組のほうでやるわけですが、ここではとりあえず私の個人的な感想というか、いくつか気になったポイントだけを、メモ代わりに書いておきます。
▼ドイツの派兵正当化の議論の分類
ドイツは連邦軍(Bundeswehr)を派遣して、平和維持活動だけでなく、タリバンなどと実際の戦闘を行っているわけですが、その際に政治家たちが使った正当化の議論は、大きくわけて以下の5タイプに分類できると私は考えております。
1価値観志向(value-oriented):人権、女子を学校に、報道の自由など、リベラル派の議論。
2ドイツの役割(Role/Self-identity):連邦軍の責任、評判、ボン合意の責務など。
3同盟との連帯(solidality):アメリカ、NATOなどの要請に応えるべしとする議論。
4国際法(international law):国連の安保理決議を根拠とするもの。
5権力政治(power political):テロとの戦い、タリバン打倒、安全保障、国益など、リアリストの議論。
基本的に連邦議会( Bundestag:下の写真)ではこの5つのどれか、もしくはその組み合わせを使うことによって議員たちはアフガニスタン派兵を正当化しております。意外だったのは、後半になってくると5の議論が異様に増えたことでしょうか。
▼法的根拠を満たすことへの関心
ドイツは法律大好きなので、派兵が問題になったときも憲法裁判所に判断を仰いで正統性を確保しております。一番重要なのは1994年の判断で、これによってドイツは旧ユーゴというNATOの域外で初めて活動できるような根拠を得ることになり、これ以降は憲法問題はそれほど争いになっておりません。
アフガニスタンへの派兵は国連安全保障理事会決議1386などを根拠にしてOKとしております。
▼戦略がない
基本的にアメリカに追随した戦いをしているので「戦略が必要なかった」といえばそうなのかもしれませんが、驚いたことにアフガニスタン派兵後の数年後、アメリカのイラク侵攻の失敗が目に見えてくるまで、ドイツ国内ではOEFやISAFの達成目標などはほとんど議論されておりません。その問題意識が出てきたのは、ようやく2007年くらいになってから。
▼本質的な議論ができない
これは上の議論ともつながりますが、歴史的な背景(第二次世界大戦の敗者)という関係もあるのか、自分たちの軍隊が戦争、もしくは戦闘を行うということについて、極力話題を避けようという傾向が強く見られます。
そもそもアフガニスタン介入を決めたのがリベラル・左派連合のシュレーダー政権の時代であり、その時は緑の党のフィッシャー外相。そういう意味からも、左派が責任を担っていたわけですから、本格的に「戦争反対」という言説が出てこなかった代わりに、政権担当者たちもあえて厳しい現実を議会に伝えていなかったという点もあります。
また、軍人に対して支持を与えようとして、政治家のほうがいわゆる「マイクロマネージメント」を行う傾向も多く見られました。とくにひどかったのは、装備や派遣する兵士の数の上限に関する議論で、細かいところに異様なこだわりをみせるわりには、政治・戦略レベルの話はまったくしなかった点など、まるでイラク派遣の時の日本を議論を見ているよう。
▼カネを出さない(ケチ)
実際のところ、ドイツは現在の財政規律に関する強気の姿勢を見てもお分かりの通り、アフガニスタンに派兵するとなっても国防予算はそれほど増えておらず、GDP比で1%代半ばくらいで、NATO諸国の中でも低い水準を保ったままです。
逆にこのような厳しい予算の制限があるため、2011年には徴兵制度を事実上廃止しており、その時に廃止を推進したのは、なんと軍の上層部と国防大臣(グッテンベルグ氏)。
理由は、徴兵制度だと大量の素人を一年かけて訓練するほうに時間がかかってしまい、海外派遣をするほうに人員と予算を回せないから。志願制でも、少ない数の専門家やプロを有効活用するほうが、徴兵制で烏合の衆を教育するよりははるかにマシ、という判断です。
また、武器の調達も予算の関係で遅れ、その削った費用を派遣した人員の手当に回すということをやっております。
以上、簡単に書いてみましたが、憲法的なところ以外はけっこうグダグダで、雰囲気でものごとを決めたり細かいところにこだわったりするところは日本に似ていると感じました。
詳しくは火曜の夜にぜひ。
▼奴隷の人生からの脱却のために
「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!
▼奥山真司の地政学講座
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/geopolitics.html



http://ch.nicovideo.jp/strategy

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal
さて、火曜日に放送予定の特集コーナー(http://live.nicovideo.jp/gate/lv232059814)で詳しく話す予定のドイツの派兵についてですが、とりあえずポイントだけ先に本ブログで触れておこうと思います。
すでにご存知のかたもいらっしゃると思いますが、ドイツは2001年9月11日のアメリカにおける連続テロ事件をきっかけとして、2002年からアフガニスタンに関する二つの作戦・任務(OEFとISAF)に参加しております。
日本と同じく敗戦側の枢軸国でありながら、ドイツはすでにこの作戦で戦闘を行い、5000人以上の兵の規模の派兵と50人以上死者を出しているわけですが、そこでの経験についてまとまった報告や書籍が最近良いものが出てきましたので私も読んでみました。
そしてこれは安保関連法案が通過した後の事態を懸念している人々、もしくは日本の意思決定者たちにとってかなり参考となるケーススタディになるのではと思い、ここに解説してみたいと思ったわけです。
ちなみに詳しい解説は番組のほうでやるわけですが、ここではとりあえず私の個人的な感想というか、いくつか気になったポイントだけを、メモ代わりに書いておきます。
▼ドイツの派兵正当化の議論の分類
ドイツは連邦軍(Bundeswehr)を派遣して、平和維持活動だけでなく、タリバンなどと実際の戦闘を行っているわけですが、その際に政治家たちが使った正当化の議論は、大きくわけて以下の5タイプに分類できると私は考えております。
1価値観志向(value-oriented):人権、女子を学校に、報道の自由など、リベラル派の議論。
2ドイツの役割(Role/Self-identity):連邦軍の責任、評判、ボン合意の責務など。
3同盟との連帯(solidality):アメリカ、NATOなどの要請に応えるべしとする議論。
4国際法(international law):国連の安保理決議を根拠とするもの。
5権力政治(power political):テロとの戦い、タリバン打倒、安全保障、国益など、リアリストの議論。
基本的に連邦議会( Bundestag:下の写真)ではこの5つのどれか、もしくはその組み合わせを使うことによって議員たちはアフガニスタン派兵を正当化しております。意外だったのは、後半になってくると5の議論が異様に増えたことでしょうか。
▼法的根拠を満たすことへの関心
ドイツは法律大好きなので、派兵が問題になったときも憲法裁判所に判断を仰いで正統性を確保しております。一番重要なのは1994年の判断で、これによってドイツは旧ユーゴというNATOの域外で初めて活動できるような根拠を得ることになり、これ以降は憲法問題はそれほど争いになっておりません。
アフガニスタンへの派兵は国連安全保障理事会決議1386などを根拠にしてOKとしております。
▼戦略がない
基本的にアメリカに追随した戦いをしているので「戦略が必要なかった」といえばそうなのかもしれませんが、驚いたことにアフガニスタン派兵後の数年後、アメリカのイラク侵攻の失敗が目に見えてくるまで、ドイツ国内ではOEFやISAFの達成目標などはほとんど議論されておりません。その問題意識が出てきたのは、ようやく2007年くらいになってから。
▼本質的な議論ができない
これは上の議論ともつながりますが、歴史的な背景(第二次世界大戦の敗者)という関係もあるのか、自分たちの軍隊が戦争、もしくは戦闘を行うということについて、極力話題を避けようという傾向が強く見られます。
そもそもアフガニスタン介入を決めたのがリベラル・左派連合のシュレーダー政権の時代であり、その時は緑の党のフィッシャー外相。そういう意味からも、左派が責任を担っていたわけですから、本格的に「戦争反対」という言説が出てこなかった代わりに、政権担当者たちもあえて厳しい現実を議会に伝えていなかったという点もあります。
また、軍人に対して支持を与えようとして、政治家のほうがいわゆる「マイクロマネージメント」を行う傾向も多く見られました。とくにひどかったのは、装備や派遣する兵士の数の上限に関する議論で、細かいところに異様なこだわりをみせるわりには、政治・戦略レベルの話はまったくしなかった点など、まるでイラク派遣の時の日本を議論を見ているよう。
▼カネを出さない(ケチ)
実際のところ、ドイツは現在の財政規律に関する強気の姿勢を見てもお分かりの通り、アフガニスタンに派兵するとなっても国防予算はそれほど増えておらず、GDP比で1%代半ばくらいで、NATO諸国の中でも低い水準を保ったままです。
逆にこのような厳しい予算の制限があるため、2011年には徴兵制度を事実上廃止しており、その時に廃止を推進したのは、なんと軍の上層部と国防大臣(グッテンベルグ氏)。
理由は、徴兵制度だと大量の素人を一年かけて訓練するほうに時間がかかってしまい、海外派遣をするほうに人員と予算を回せないから。志願制でも、少ない数の専門家やプロを有効活用するほうが、徴兵制で烏合の衆を教育するよりははるかにマシ、という判断です。
また、武器の調達も予算の関係で遅れ、その削った費用を派遣した人員の手当に回すということをやっております。

詳しくは火曜の夜にぜひ。
▼奴隷の人生からの脱却のために
「戦略の階層」を解説するCD。戦略の「基本の“き”」はここから!

▼奥山真司の地政学講座
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/geopolitics.html



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by masa_the_man
| 2015-08-30 20:46
| 日記

