ペルシャ湾で米海軍のプレゼンス低下 |
さて、先週の放送(http://www.nicovideo.jp/watch/14401622)でも触れた、米海軍の地政学に関する話です。ペルシャ湾のプレゼンスに関する意外に重要な記事の要訳です。
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米海軍、ペルシャ湾でのプレゼンス低下へ
Navy reducing presence in Persian Gulf
By Kristina Wong
15-8/16 The Hill
http://thehill.com/policy/defense/251197-navy-reducing-presence-in-persian-gulf#.VdGCq1_X1hg.twitter
●世界の海におけるアメリカの国力や抑止力を表す最も強力なシンボルは、近い将来ペルシャ湾には存在しなくなるかもしれない。
●米海軍は過去七年間においてペルシャ湾やその近辺において少なくとも1隻の空母を維持してきたが、それが全く存在しなくなる期間を伸ばす計画を立てている。
● このプレゼンスの減少は、アメリカがイランとの核合意を準備し始めたのと同時に始まったものであり、ホワイトハウスや米軍関係者たちは、議員や批評家、それに同盟国たちに対して、米軍がイラン政権に対して圧力を与え続けると説いている。
● その証拠に、もし核合意が連邦議会で承認されれば、ペルシャ湾に二ヶ月間米空母が存在しない期間ができることになる。空母セオドア・ルーズヴェルトは10月あたりにこの地域を離れる予定であり、その代わりの空母ハリー・トルーマンは、来年の1月まで到着しないことになる。
● このギャップは、ISと戦っている間に発生するものだ。空母ルーズヴェルトは、同盟国側がISに対して行っている空爆の20%を担っているが、米軍関係者はトルコの航空基地が使用できることになるためにこのギャップは解消されるという。
● 米政府関係者によれば、プレゼンスの低下は要求の低下によるものではなく、単に使用可能な空母が少なくなったことや、優先順位がアジア太平洋地域に移っていることが挙げられるという。
● 「短期的には継続的なプレゼンスが必要です。よって需要はあり、戦闘指揮官たちも要求しており、アジア太平洋地域の司令官も要求しているのです。ところがその要求に応えるだけのものがないんですよ。そうなると、大統領や国防長官の指示にしたがって準備するしかないんですよね」とはその政府高官の話だ。
● この空母の空白期間は、ペルシャ湾地域のアメリカの同盟国たちが「核合意によってイランの国力と影響力が増す」と心配しており、アメリカがイランに対する対抗力となってくれるのかを懸念している最中に行われるものだ。
●アリゾナ州選出の共和党上院議員で軍事委員会の議長を務めるジョン・マケインは、7月30日の公聴会で 「空母がいなくなると、この地域へのコミットメントの証拠を失ってしまう」と述べている。新しく海軍作戦本部長となる米海軍のジョン・リチャードソン提督も、「空母がないと、れわれの能力にとっては損失だ」と述べている。
● ところが米海軍は、プレゼンスの低下によって空母をより自由に動かせるようになると言っている。「2016年の会計年度では、いくつかの場所で空母のプレゼンスを継続できなくなったことはたしかだが、全体的に見れば世界での空母のプレゼンスは上がったと言えます」とは米海軍の報道官の弁だ。
●アジア太平洋地域では、空母ジョージ・ワシントンがメンテナンスを行うために4ヶ月という長い期間にわたる空母ナシの状態があるのだが、基本的に将来にわたって空母のプレゼンスを継続させる方針であることは変わりない。 米政府と海軍の関係者たちは、司令官たちの空母のプレゼンスの要求は他の艦船などで代替できると言っている。
●ところが米海軍研究所の所長のピーター・ディリー元海軍中将は、ペルシャ湾に空母を駐留させることができる能力というのは、同盟国たちに安心を提供し、潜在的な敵を抑止して諦めさせる上での特殊なアセットになるという。
●「イランとペルシャ湾をはさんで反対側にいる人間たちにとって、米海軍が真ん中にいるとわかっていたら、夜も安心して寝れるはずです」とはデイリー所長の弁だ。さらに加えて、空母は高い能力を持った駆逐艦と巡洋艦を引き連れてくるという点も重要だという。
●所長によれば、たとえばイランには短距離・中距離弾道ミサイルが多くあるが、空母打撃群にはかなり高い弾道ミサイル防衛能力が備わっているという。
●「ペルシャ湾周辺国というのは、米海軍の艦隊が来ているかどうかに非常に敏感です。私はあえて言いますが、ホルムズ海峡を常に通行可能にして貿易が自由に行われている状態を保つことは極めて重要なことなのです。米海軍はこの海域に過去50年間常にプレゼンスを継続しておりますが、来なくなったら彼らも絶対に気づくでしょう」とは所長の弁。
● 米政府の関係者たちは、空母のプレゼンスの低下は、ここ数十年間に派兵が何度も繰り返されてきた結果であり、何度も引き伸ばしにされてきたために、長期のメンテナンスが必要になってきているという。
●さらに加えて、議会による財政緊縮の煽りを受けたおかげで、メンテンナンスと再配備の予算が削減されて、不確実性が生まれてきたのだ。
●もちろんアメリカにはまだ10隻の空母があるが、1隻は日本に常駐して、2隻はメンテンナンスに入っているため、任務遂行可能なのは7隻だけであり、しかも指令が出てからすぐに任務につける数はさらに少なくなる。
●たとえば1隻が展開するためには、それを支えるために3隻が必要であるとされており、ここからわかるのは、アメリカは世界中の脅威に対処するためには2隻の空母しか使えないということなのだ。
●デイリー所長は、数年前と比べて状況が「大きく違う」と指摘している。「4年前の米海軍は3隻の空母を前進展開できたし、30日以内にもう2隻、そして90日以内にもう1隻を追加できたはずだ。ところが現在はたった2隻しか前進展開できないのだ」と述べている。
米海軍が艦船のメンテナンスという点から、以前のレベルでは物理的にプレゼンスを維持できなくなったという内容です。
この(一時的な?)真空地帯を中国海軍がどのように埋めてくるのか、世界のシーパワー体制の将来を考える上では非常に気になるトピックです。
スローンの『軍事戦略入門』の第一章の「シーパワー論」や、マハンの100年ちょっと前の議論でも説明されていたように、実はシーパワーという概念には、単なる「一国の海軍力」だけではなく、もっと広い「グローバルな海上貿易体制」という意味も含まれることがあります。
それを支えているのが米海軍なわけですが、この力が今回のように「衰えた」(と感じられた)となると、なんらかの形で世界政治に影響は出てくるわけで。
誰かが弱体化すると、それは別の側のパワーの相対的な増加を意味するわけですから。
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