戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28

南シナ海の埋め立てを知るための本

今日の横浜北部は一日曇りでして、午後は強烈なにわか雨がありました。梅雨まっただ中です。

さて、現在大きな注目を集めている南シナ海について少し。

私がいま住んでいるところにはテレビがないのですが、聞くところによると、本日のNHKの1900からのメインの報道番組であう「ニュース7」で、南シナ海埋め立て問題について、海外取材も交えて扱われたとか。

本ブログや生放送などをご覧の方にとっては、この中国の埋め立て問題というのは取り立てて珍しい話ではないかもしれませんが、個人的には(まだ足りないながらも)大手メディアがここまで取り上げるようになったかというのは、なんというか不思議な気持ちになります。

もちろんこの問題は、今後の国際政治の流れだけでなく、日本の今後の安全保障環境にも決定的な影響を与える可能性が大きいので目を離せないわけですが、日本のメディアは(その善し悪しは別として)総じて安全保障問題には関心が低めです。

そのような中で、当然ながらこの問題に最も関心をもつべきであろう防衛省から、非常に参考になるプレゼン資料(PDF)が公開されました。そのいくつかのキャプチャ画像は以下の通りです。

b0015356_21354790.png
b0015356_2136854.png

b0015356_21363134.png


この資料を見て最初に感じることは、なんというかその独特なプレゼンのスタイルの「匂い」でしょうか。一枚に情報が凝縮されて「テンコ盛り」という感じが(笑

このような資料はとくにこれまでの経緯を知る上で重要なのですが、孫子の頃から言われているように、戦略を考える上で重要なのは「相手がどのようなことを考えているのか」という点です。

ご存知の方は「いまさら」と感じるかもしれませんが、私は昨年の10月末に、この南シナ海問題について、とりわけ中国側の視点を教えてくれるような本を、ほぼ同時に2冊出版しております。
b0015356_22191240.jpg
一冊目はもちろんシカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーの『大国政治の悲劇』(改訂版:脚注付き)でありまして、この中の最終章となる第10章の中で、「中国の台頭は平和的にはならない」という自らの主張を論じる中で、中国にとっての南シナ海の問題について触れております。

ところがそれよりもさらに中国の南シナ海についての見解を教えてくれるのが、もう一冊のロバート・カプランというジャーナリストの書いた『南シナ海:中国海洋覇権の野望』という本です。
b0015356_21455065.jpg
この本は日本版のタイトルがテーマそのものずばりを言い表しているのですが、南シナ海周辺国の安全保障問題を旅行記のような形で説明しつつも、その歴史的な経緯や現地の政府高官へのインタビューなども交えるという、独特のスタイルで書かれております。

その中で、実際にカプランが北京の安全保障セミナーに参加した時の様子が書かれていてとても参考になる部分があります。以下にその部分を要約した形で書き出してみます。

===

●北京には怪しい「特効薬」があふれていた。それは「中国は守りに徹している間に、アメリカは侵略している」というものだ。その核心にあるのが南シナ海の問題だ。

●北京では、タカ派もハト派も関係なく「中国が近代に入ってから西洋の列強に大きな被害を受けた」という感情が深く共有されており、彼らは南シナ海の問題を、例外なく「国内問題である」とみなしている。

●なぜなら彼らは単純に「南シナ海は、海洋に伸びた中国の領土である」と認識しているからだ。

●ある晩、私が中国の学生向けに開催したセミナーでは、緊張に震えながら恥ずかしそうにしていた若者が、「なぜアメリカは我々の調和と慈愛に対して覇権で対抗しようとするのですか?アメリカの覇権は中国の台頭に直面すれば混乱を招くだけです!」と吐き捨てるようにコメントしていたほどだ。

●北京の理屈からいえば、アメリカの権益はまたして「覇権的なもの」と映る。北京の理屈から言えば、アメリカこそが「アジアを支配下におさめて、その莫大な戦力投射能力を、野蛮な形で発揮している」ということになる。

●つまりワシントン政府こそが南シナ海の紛争を「煽る」存在であり、中国ではなくアメリカこそが「抑止されるべき存在」であることになるわけだ。

●結局、中国は東アジアにおいて儒教の価値観を基礎とした冊封体制を2000年近くも維持してきたのであり、ヨーロッパの勢力均衡体制よりはるかに調和がとれて、戦争の少ない状態を維持してきたということになる。

●したがって平和の維持に関して言えば、「欧米諸国は中国に何も教える資格はない」というのが彼らの言い分なのだ。このような独特な感覚は、彼らの地理観によってもうかがい知ることができる。これについては究極の解決法のようなものは存在しないといえよう。

●したがって、われわれは再び「封じ込め」という概念に戻ってしまう。

(pp.234-35)

===

うーむ、なんというか、彼らにとっては南シナ海の問題というのはただ単に(国家の神話によって)「取り返しにきている」という感覚があるわけですから、彼らにとっては「完全に正義」な問題となってしまっているわけです。

もちろん彼らの狙いは、この海域で戦争を起こすことにあるわけでなく、あくまでも地政学的なパワーバランスを修正するためのポジションの修正にあるわけですから、必ずしも周辺国との軍事衝突を必要としているわけではありません。

ただ問題なのは、それを実現するためには軍事衝突が手っ取り早い、と勘違いしてしまう人間が北京や軍人たちの中に出てくる可能性を否定できない部分かと。

まあとにかくこれからもこの問題はダラダラと続きそうです。


ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』CD


ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』

※詳細はこちらから↓

http://www.realist.jp/clausewitz-business.html



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



Commented by だむ at 2015-06-18 22:37 x
中国の強硬な南沙諸島へのこだわりや、いわゆる九段線がその前の11段線時代の古くから言い続けてる原動力にあるのはどうも「中国南部の漁業民の行動範囲内」という点がありそうな感じ。中国の出方を考えるに、福建省から海南島あたりの漁民について調べた方がいいかも
Commented at 2015-06-19 13:04 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by (^o^)風顛老人爺 at 2015-06-19 21:03 x
拝啓、奥山様久しぶりで御座います。
週刊文春確か先週号の宮崎哲弥氏のエッセイに

「 なせ、リーダーは嘘をつくのか 」が紹介されていました。
取り急ぎ書き込みます。付記URLより元北京語通訳捜査官 坂東忠信氏サイトへ
m(__)m乱文にて 敬具
Commented by yomo-uni at 2015-06-20 12:27
  自分を弱者・被害者と認識する人間は凶暴です。
 自分を強者と認識すれば、弱者を相手にする時には自分の力を抑制しなければならないと考えて行動します。 しかし弱者と認識すればそういう自分からの抑制は働きません。
 そして被害者と認識すれば相手は加害者ですから、自分の行動は全て「正当防衛」と考えます。
 自分を弱者被害者と認識する敵凶悪で始末の悪い敵はいないでしょう。
Commented at 2015-06-24 14:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by masa_the_man | 2015-06-18 22:15 | おススメの本 | Comments(5)