戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

地理はどのタイミングで重要になる?

今日の横浜北部は、梅雨の中日なのか、朝から晴れておりました。さすがにもう半袖ですね。

さて、昨日に引き続き地政学に関連したことを少し。

地政学というか、国際政治における戦略的な関係における地理的な要素の果たす役割について、当然ながら、それを矮小化するというか、無視したがる人が多いのは嘆かわしいことです。

ところが地理という要素は、人間がこの物理世界に存在する限り、いかにサイバー空間が拡大しようとも、それが無関係になるということは絶対にありません

もちろん昨日述べたように、「第三の波」的な、いわゆる情報や金融などの分野では、地理という要素は消滅したように思えるのは間違いありません。

それでも人間は物理世界に生きているわけですから、その物理世界が「地理」という形で人間に制約している部分は、好むと好まざるとにかかわらず残ってしまっているのです。

これをちょっと学問的に説明してみましょう。

マイケル・ハワードという人物がおります。イギリスの保守党の党首に同姓同名の方がおりましたが、こちらのハワードはイギリスの戦争学の権威でありまして、ロンドン大学のキングス・カレッジを創設しただけでなく、「ミリタリー・バランス」を毎年発行しており、つい先日もシンガポールで開催された「シャングリラ・ダイアローグ」を主催しているシンクタンクである、IISSの創設者であります。

また、世界的にはクラウゼヴィッツの『戦争論』の英訳版(1976年)の訳者の一人としても知られた歴史家です。

彼の著作は日本でも数冊出ておりまして、つい最近も非常に短い『第一次世界大戦』が出たばかり。

この人がまだ現役バリバリであった頃に書いた論文で、「これを知らなかったらクラウゼヴィッツ研究者としてはモグリだ」と言われるものが、フォーリン・アフェアーズ誌の1979年の夏号に掲載されました。

そのタイトルは「忘れられた戦略の次元」(The Forgotten Dimensions of Strategy)という一発ではよくわからないものなのですが、ここでハワードが言いたかったのは、クラウゼヴィッツは戦争や戦略を考える際に「社会」という次元に注目したことで特徴があるのだが、アメリカはソ連との冷戦を考える際に「テクノロジー」の要素だけに注目しすぎて偏りすぎている、というものです。

別の言い方をすれば、クラウゼヴィッツは戦争や戦略には

1,精神、2,物理、3,数学、4,地理、5,統計

の5つの次元があると『戦争論』で述べたのに対して、ハワードは上記の論文の中で、

1兵站、2作戦、3社会、4テクノロジー

の4つを区別し、そのうちの3の重要性を強調しております。

このハワードの議論のインスピレーションを受けたのがコリン・グレイという人物なのですが、この人は戦略を考える際にどれだけの要素があるのかを、アメリカの国防大学などで行ったゼミで学生たちと考えるうちに、「戦略には17個の次元がある」という答えに至った(最大は21だったらしいのですが重なっていたので減らした)らしいのです。

それをすべて列記してみますと、その17個は3つのグループに分かれることになりまして、

A:国民と政治
1国民、2社会、3文化、4政治、5倫理

B:戦争の準備
6経済・兵站、7組織(国防計画)、8軍事行政,9情報と諜報,10軍事理論とドクトリン,11テクノロジー

C:戦争そのもの
12軍事作戦、13指揮、14地理、15摩擦と偶然性、16敵の存在、17時間

となります(ちなみにルトワックが『戦略論』の中で最も強調しているのは16と17)。

その結果が以下の図です。
b0015356_0375011.jpg
本来はこれは横向きなのですが、戦略の階層の上下関係をわかりやすくするために政治をトップ、軍事作戦を下に持ってきて作成してもらったものです。

ここから私が何を言いたいのかというと、私がテーマにしている地政学的な問題というのは、国際政治を含むすべての「戦略関係」というもの中では、数ある次元(要素)のうちのたった一つのものでしかないということです。

ところがやっかいなのは、たった一つのものでしかなく、その働きが普段は見えないものであっても、要素としては残っていて確実に存在しており、それがいざという時に決定的な役割を果たすこともある、ということなのです。

もちろん問題は「ではいつ重要になるのか」というタイミングの問題ですが、これはまさに「イザという時」としか言えず、その重要性は(グレイのたとを使えば、レースカーのパーツやカレーの個々の具のように)普段から交じり合っているものであり、その表れ方は「時と場合による」としか言えないのです。

ただし現在の日本周辺を見ても、安全保障関連の問題が出てくるときというのは環境がきわめて「地政学的」になってきてしまうのであり、安保法制の話には実は地政学的な問題が背景にあるという点は、まさにこのような部分にあるわけです。

地理的な要素、そして地政学的な次元というのは、国際政治には常に存在しております。ただしそれが決定的な重要性を持つかどうかは「状況による」としか言えないのです。

戦略における地理という要素の恒久的な働きについてさらに知りたい方は、『胎動する地政学』の最初の章に収められているグレイの「逃れられない地理」という論文を参考にしてみてください。

ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』CD


ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』

※詳細はこちらから↓

http://www.realist.jp/clausewitz-business.html



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



Commented by 待兼右大臣 at 2015-06-23 22:18 x
とりあえず、ここにレスします。
GAO(Government Accountability Office)の最新レポートで「Arctic Planning:
DOD Expects to Play a Supporting Role to Other Federal Agencies and Has Efforts Under Way to Address Capability Needs and Update Plans」
www.gao.gov/mobile/products/GAO-15-566

というものが出ています。
経営工学的に見た米国の北極政策の票かとなっていますので、お暇ならどうぞ。
by masa_the_man | 2015-06-14 00:34 | 日記 | Comments(1)