2015年 05月 04日
スパイクマンと「アジアの地中海」 |
今日の横浜北部はまたしてもよく晴れました。しかし思ったよりは涼しい感じでした。
さて、またまたスパイクマンに関する話題です。
以前に本ブログでも触れたことがありますが、スパイクマンの予測した「アジアの地中海」についての興味深い論考がありましたので、その要約を。
現在私が日経ビジネスオンラインで行っている連載(http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150327/279273/)ですが、たしかにスパイクマンというのは実に面白い地政学的な予測をいくつも行ったことで有名です。
・日経BPオンライン
「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150420/280168/
さて、またまたスパイクマンに関する話題です。
以前に本ブログでも触れたことがありますが、スパイクマンの予測した「アジアの地中海」についての興味深い論考がありましたので、その要約を。
現在私が日経ビジネスオンラインで行っている連載(http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150327/279273/)ですが、たしかにスパイクマンというのは実に面白い地政学的な予測をいくつも行ったことで有名です。
・日経BPオンライン
「ソ連封じ込め」の原型を作ったスパイクマン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150420/280168/
そしてその予測のうちの一つが、今回の記事でも話題になっている「アジアの地中海」(Asiatic Mediterranean)というもの。
スパイクマン自身は70年以上前の本の中で「シンガポール、香港、そしてオーストラリア北岸」という3辺に囲まれた島だらけの海域を「アジアの地中海」と呼んでいるわけですが、たしかにここは現在、「南シナ海」を含んだ一大係争地となっております。
これについて書いたのは、本業は弁護士を務める、地政学好きな半分学者のセンパという人です。
===
ニコラス・スパイクマンと「アジアの地中海」をめぐる争い
by フランシス・センパ
●イエール大学で国際関係論の教授を務めていたニコラス・スパイクマンは、第二次大戦中に、アメリカの国家安全保障の土台を成す根本的な地政学的要因を探る2冊の本を書いており、彼自身が「アジアのリムランド」と呼んだ場所のコントロールをめぐる米中間の争いをすでに予見していた。
●この2冊のうちの最初の本は、1942年に出版された『世界政治における米国の戦略:アメリカと勢力均衡』(America’s Strategy in World Politics: The United States and the Balance of Power)である。
●これはほぼ500頁になる力作であり、世界におけるアメリカのポジションを、「地理と権力政治から」詳細に検討したものであった。
●スパイクマンによれば、すべての国際政治には勢力争いというものが含まれており、これは「生存競争とほぼ同じで、相対的なパワーのポジションの上昇が国家にとって内外における最大の目的となっている」というのだ。
●彼は西半球や大西洋間、そして太平洋間地域におけるアメリカのパワー・ポジションを「旧世界vs. 新世界」という視点から分析している。
●彼は自分の分析に、経済・人口・そして軍事的要因を含めており、「アメリカの安全保障は、ヨーロッパと極東における優位な勢力均衡の上に成り立っている」と結論づけている。
●2冊目の本である『平和の地政学』(The Geography of the Peace)は、それよりもはるかに薄いものであり、彼の死後の1944年に出版された。
●この中でスパイクマンは地理的に世界のパワーの中心地となる場所を指摘する地政学的な地図を描いており、これにはユーラシアの「ハートランド」(これはマッキンダーがユーラシア大陸の北部・中部を示した言葉)やユーラシアの「リムランド」(ハートランドを囲む半月形の領域で、西欧、中東、東南アジア、極東の国々を含む)、そして北米が含まれていた。
●それぞれの重要な地域のパワーの潜在力を比較した後に、スパイクマンは「リムランドをコントロールしたものがユーラシアを制し、ユーラシアを制したものが世界の運命をコントロールする」という印象的な言葉を残している。
●日本がまだアメリカの敵国で、中国が同盟国であった時に、スパイクマンは根本的な地政学的な要因を見越しつつ、第二次大戦後にはアメリカに対する日本と中国の立場が入れ替わると予測していた。
●スパイクマンは1942年に「中国」が「アジアの地中海」と呼ぶ「ユーラシア大陸沿岸部の大部分を制すことになる」と記している。彼は「アジアの地中海」を「とりわけすぐれた島嶼世界」であると説明しており、日本海や東シナ海、そして南シナ海によって構成される「周辺海」であるとした。
●これらの周辺海は中国の太平洋へのアクセスや、インド洋と太平洋をつなぐ海上交通路をコントロールしている。
●さらにスパイクマンは、マラッカ海峡とパナマ運河がそれぞれの地域における戦略的・貿易的な通路でありチョークポイントである、という地政学的な類似性を指摘している。
●スパイクマンは、「四億人の人口を抱え、近代化し、活発化し、軍事化した中国は、日本にとってだけでなく、アジアの地中海にいる西側諸国のポジションにとっても脅威となるだろう」と書いている。
●彼は将来いつかの時点で、中国のシーパワーとエアパワーが「アジアの地中海」をコントロールするかもしれないと警告しており、現在の日中間の緊張や、中国と小規模な地域各国、それにアメリカのアジア太平洋地域への「ピボット」へと駆り立ててているのは、まさにこの安全保障上の脅威なのだ。
●したがってスパイクマンは、戦後の極東における勢力均衡を回復して維持するために、日米同盟の結成を進言したのである。
●ここで覚えておかなければならないのは、スパイクマンがこれを書いていた時に、日本とアメリカの兵士たちは互いに太平洋の血みどろの戦いで殺しあっていたという事実だ。
●その2年後の『平和の地政学』の中で、スパイクマンは極東では戦後に中国が支配的な勢力になると明確に宣言しており、アメリカの国家のリーダーたちに日本やフィリピンなどの場所に基地をつくり、アジアの地中海に戦力投射可能にすることによって中国がその地域で圧倒的な勢力になることを阻止すべきだと説得したのだ。
●「アメリカは・・・戦時/平時を問わず、アジアが自国にとって永続的な関心を呼ぶ場所であること認識しなおすべきであり、しかもそれを永続させなければならない」と書いている。
●スパイクマンが70年以上まえに予見したこの「アジアの地中海」は、中国、アメリカ、日本、そして地域の小国たちの間で、地政学的戦場となっている。ここ争われているのはエネルギー資源であり、経済的影響力であり、重要な海上交通路のコントロールであり、領土の政治的なコントロールであり、アジア太平洋地域における全体的な勢力均衡なのだ。
●『平和の地政学』の結論部分で、スパイクマンは当時のアメリカのリーダーたちや、現在、そして将来のアメリカのリーダーたちにも参考となる、最後のアドバイスを行っている。
●それは、アメリカのアジア太平洋地域やその他の地域における安全保障上の利益は、国際制度機関や世界共同体のようなものによって保護されたり維持されることはない、ということだ。
●「われわれは今後も、自らの国力に頼っていかざるをえない。今まで存在したすべての大国は、常につかの間の休息を求める不用心さにそそのかされて没落していったのであり、歴史はこれを実証している」(p.130)
===
おりしも上述した連載を書くときにスパイクマンについて調べてみましたら、数年前に較べて新しい情報がネット上にいくつも掲載されておりまして、あらためてスパイクマンの地政学的な予見の鋭さに対する関心が高まっていることを実感しました。
私が翻訳した「平和の地政学」も合わせて、リアリズムから国際政治を冷徹に見ることの重要性を感じてもらえれば幸いです。
▼ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/clausewitz-business.html
http://ch.nicovideo.jp/strategy
https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal
スパイクマン自身は70年以上前の本の中で「シンガポール、香港、そしてオーストラリア北岸」という3辺に囲まれた島だらけの海域を「アジアの地中海」と呼んでいるわけですが、たしかにここは現在、「南シナ海」を含んだ一大係争地となっております。
これについて書いたのは、本業は弁護士を務める、地政学好きな半分学者のセンパという人です。
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ニコラス・スパイクマンと「アジアの地中海」をめぐる争い
by フランシス・センパ
●イエール大学で国際関係論の教授を務めていたニコラス・スパイクマンは、第二次大戦中に、アメリカの国家安全保障の土台を成す根本的な地政学的要因を探る2冊の本を書いており、彼自身が「アジアのリムランド」と呼んだ場所のコントロールをめぐる米中間の争いをすでに予見していた。
●この2冊のうちの最初の本は、1942年に出版された『世界政治における米国の戦略:アメリカと勢力均衡』(America’s Strategy in World Politics: The United States and the Balance of Power)である。
●これはほぼ500頁になる力作であり、世界におけるアメリカのポジションを、「地理と権力政治から」詳細に検討したものであった。
●スパイクマンによれば、すべての国際政治には勢力争いというものが含まれており、これは「生存競争とほぼ同じで、相対的なパワーのポジションの上昇が国家にとって内外における最大の目的となっている」というのだ。
●彼は西半球や大西洋間、そして太平洋間地域におけるアメリカのパワー・ポジションを「旧世界vs. 新世界」という視点から分析している。
●彼は自分の分析に、経済・人口・そして軍事的要因を含めており、「アメリカの安全保障は、ヨーロッパと極東における優位な勢力均衡の上に成り立っている」と結論づけている。
●2冊目の本である『平和の地政学』(The Geography of the Peace)は、それよりもはるかに薄いものであり、彼の死後の1944年に出版された。
●この中でスパイクマンは地理的に世界のパワーの中心地となる場所を指摘する地政学的な地図を描いており、これにはユーラシアの「ハートランド」(これはマッキンダーがユーラシア大陸の北部・中部を示した言葉)やユーラシアの「リムランド」(ハートランドを囲む半月形の領域で、西欧、中東、東南アジア、極東の国々を含む)、そして北米が含まれていた。
●それぞれの重要な地域のパワーの潜在力を比較した後に、スパイクマンは「リムランドをコントロールしたものがユーラシアを制し、ユーラシアを制したものが世界の運命をコントロールする」という印象的な言葉を残している。
●日本がまだアメリカの敵国で、中国が同盟国であった時に、スパイクマンは根本的な地政学的な要因を見越しつつ、第二次大戦後にはアメリカに対する日本と中国の立場が入れ替わると予測していた。
●スパイクマンは1942年に「中国」が「アジアの地中海」と呼ぶ「ユーラシア大陸沿岸部の大部分を制すことになる」と記している。彼は「アジアの地中海」を「とりわけすぐれた島嶼世界」であると説明しており、日本海や東シナ海、そして南シナ海によって構成される「周辺海」であるとした。
●これらの周辺海は中国の太平洋へのアクセスや、インド洋と太平洋をつなぐ海上交通路をコントロールしている。
●さらにスパイクマンは、マラッカ海峡とパナマ運河がそれぞれの地域における戦略的・貿易的な通路でありチョークポイントである、という地政学的な類似性を指摘している。
●スパイクマンは、「四億人の人口を抱え、近代化し、活発化し、軍事化した中国は、日本にとってだけでなく、アジアの地中海にいる西側諸国のポジションにとっても脅威となるだろう」と書いている。
●彼は将来いつかの時点で、中国のシーパワーとエアパワーが「アジアの地中海」をコントロールするかもしれないと警告しており、現在の日中間の緊張や、中国と小規模な地域各国、それにアメリカのアジア太平洋地域への「ピボット」へと駆り立ててているのは、まさにこの安全保障上の脅威なのだ。
●したがってスパイクマンは、戦後の極東における勢力均衡を回復して維持するために、日米同盟の結成を進言したのである。
●ここで覚えておかなければならないのは、スパイクマンがこれを書いていた時に、日本とアメリカの兵士たちは互いに太平洋の血みどろの戦いで殺しあっていたという事実だ。
●その2年後の『平和の地政学』の中で、スパイクマンは極東では戦後に中国が支配的な勢力になると明確に宣言しており、アメリカの国家のリーダーたちに日本やフィリピンなどの場所に基地をつくり、アジアの地中海に戦力投射可能にすることによって中国がその地域で圧倒的な勢力になることを阻止すべきだと説得したのだ。
●「アメリカは・・・戦時/平時を問わず、アジアが自国にとって永続的な関心を呼ぶ場所であること認識しなおすべきであり、しかもそれを永続させなければならない」と書いている。
●スパイクマンが70年以上まえに予見したこの「アジアの地中海」は、中国、アメリカ、日本、そして地域の小国たちの間で、地政学的戦場となっている。ここ争われているのはエネルギー資源であり、経済的影響力であり、重要な海上交通路のコントロールであり、領土の政治的なコントロールであり、アジア太平洋地域における全体的な勢力均衡なのだ。
●『平和の地政学』の結論部分で、スパイクマンは当時のアメリカのリーダーたちや、現在、そして将来のアメリカのリーダーたちにも参考となる、最後のアドバイスを行っている。
●それは、アメリカのアジア太平洋地域やその他の地域における安全保障上の利益は、国際制度機関や世界共同体のようなものによって保護されたり維持されることはない、ということだ。
●「われわれは今後も、自らの国力に頼っていかざるをえない。今まで存在したすべての大国は、常につかの間の休息を求める不用心さにそそのかされて没落していったのであり、歴史はこれを実証している」(p.130)
===
おりしも上述した連載を書くときにスパイクマンについて調べてみましたら、数年前に較べて新しい情報がネット上にいくつも掲載されておりまして、あらためてスパイクマンの地政学的な予見の鋭さに対する関心が高まっていることを実感しました。
私が翻訳した「平和の地政学」も合わせて、リアリズムから国際政治を冷徹に見ることの重要性を感じてもらえれば幸いです。
▼ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/clausewitz-business.html
http://ch.nicovideo.jp/strategy
https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal
by masa_the_man
| 2015-05-04 00:52
| 日記