戦略文化の本:その2 |
久々にブログ更新です。実はここ一週間くらいたまった疲れから体調を崩しておりまして、先週山梨に行った時などは実家でただ寝ているだけという悲惨な状況でした(苦笑
さて、すでに某学会で紹介した戦略文化に関する最近の本の内容のつづきを。

Strategic Cultural Change and the Challenge for Security Policy: Germany and the Bundeswehr's Deployment to Afghanistan
by Carolin Hilpert
タイトルを直訳しますと、『戦略文化の変化と安全保障政策への課題:ドイツと連邦軍のアフガニスタン派兵』となるでしょうか。
著者は新人のドイツの女性学者でして、どうやらこの本は彼女がスイスに留学した後にドイツの国防大学で書いた博士号論文を著書にした、デビュー作のようです。
内容はもちろん「戦略文化」(strategic culture)という概念を近年のドイツの事例に当てはめて分析したものなのですが、むしろ国際関係論でいうところのコンストラクティビズムのアプローチに近いかたちで、「規範の変化」に焦点を当てております。
彼女がこの中で最も注目しているのが、ドイツが911事件以降にアフガニスタンに介入を決定し、しかもその中でバージャーやカッツェンスタインらに指摘されているようなドイツの「反軍事的戦略文化」を変化させた、そのプロセスそのもの。
ご存知のかたもいらっしゃると思いますが、コンストラクティビズムというのはそもそもその出自が「冷戦終結を予測できなかったリアリズム&リベラルの穴を埋める形で状況の変化の理由を説明した」というところにあるために、これはむしろ得意分野と言えるところでしょう。
ところが戦略系のいわゆる「戦略文化」に注目していた人間たちには、この「変化」という部分に注目している学者が少なかったので、あえて私が踏み込んでみました、というのがこの著者の「売り」であります。
結論としては、戦略文化を用いた分析というのは決してリアリズムなどを越えることはなく、むしろ「外からの圧力」というものがドイツの戦略文化の変化に大きく貢献したと分析しており、「なんだかリアリズムの理論の結論と同じになっちゃった!」というもの。
必見なのは、ドイツ連邦軍がアフガニスタンで対反乱作戦を行うときに、最初は「平和維持活動」(ピース・キーピング)という名目で介入しながらも、すぐ現場の激烈な状況に現実的になってその姿勢を変え、最終的には「平和創作活動」(ピース・メイキング:つまり戦闘)へと変えていく様子を細かく追っている第六章などでしょうか。
日本が今後海外にどこまで派兵するかはまだ何もわかりませんが、ドイツがアフガニスタン派兵を通じて戦死者が発生する状況とどう向き合い、どのように国内政治の言説を変化させ、そしてどのような人物たちがキーマンとなってその変化を促したのかを克明に描いているという意味でも、いわば「先行事例」として参考になるもの(なって欲しくはないですが)と思われます。
本書は平易な英語で書かれていて読みやすいのですが、最大のネックはその値段。そもそも積極的に売ることは考えていないようで、強気の1万5千円越え、さらにはキンドルでも1万円を余裕で越えてます(涙
万人受けする内容とは思えませんが、戦略文化についての最新研究としてはなかなか優れたものではないでしょうか。金銭的に余裕のある方々にはおすすめ。
明日にはもう一冊紹介します。

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