戦略文化の本:その1 |
さて、次の週末に2度ほど研究発表をすることになっているのですが、そのうちの一箇所で「戦略文化」について話をしなければいけないので、それに使う参考文献を先にここで紹介して行きたいと思います。
とりあえずこれから数日間にわたって何冊か紹介していくつもりですが、今日はその1冊目。

Reconsidering the American Way of War: US Military Practice from the Revolution to Afghanistan
by Antulio J., II Echevarria
タイトルを直訳すると、『アメリカ流の戦争方法の再考:独立戦争からアフガニスタンまでの米国の軍事の実践』という感じでしょうか。
著者はクラウゼヴィッツ関連の著作も多い、米陸軍大学のアントゥリオ・エチェヴァリア教授であります。
そのタイトルかもお分かりのかもいらっしゃるかもしれませんが、戦略文化系の文献としては古典的なラッセル・ウェイグリーの『アメリカ流の戦争方法』を当然ながら意識してつけられたものでありまして、ある意味ではこの本を批判するために書かれたような本です。
「戦略文化」(strategic culture)というのは1977年にジャック・スナイダー(Jack Snyder)という学者が、当時のソ連の行動を純粋なリアリスト的な合理的な行動主義的解釈では理解できないとして、そこに「文化」という要素を入れながらRAND研究所の発行している政策文書として発表してから議論が活発になった概念です。
ところがそれ以前から、古くはツキュディデスからリデルハート、もっと最近(といっても40年ほど前から)では上述のウェイグリーのような人物が、いわゆる「戦争方法」(way of war)という形で、ある国の軍隊の独自の風習というか文化のようなものがあるのじゃないか、という議論を行ってきました。
つまりここで大雑把にわけてしまえば(わけていいのかという議論もありますが)、軍事関する文化・風習を議論する派閥として、社会科学系の色彩が強い「戦略文化派」(startegic culture)と、軍事史の色が強い「戦争方法派」(way of war)の2派の伝統があることになります。
そして今回紹介する『アメリカ流の戦争方法の再考』という本は、どちらかといえば後者の伝統に属するものといえるでしょうか。
本書の結論だけいえば、ウェグリーの本などで一般的に認知されている「アメリカ流の戦争方法」、つまり大規模な量の部隊を一気に、しかも大量に使うようなやり方というのは、細かく見てみると全くウソで、まさにクラウゼヴィッツのいうような政治的な配慮というものが大いに作戦行動に制限をかけていたというもの。
それを証明するために、原著者のエチェヴァリアは、アメリカの独立戦争から最近のアフガニスタンの戦争まで、アメリカが関わってきた大規模な戦争だけでなく、国内や中南米への介入を含む、小規模な戦争や紛争まで細かくとりあげており、アメリカの伝統と思われていた「殲滅戦」的なものよりも、むしろ政治的なリスクの忌避が多く見られるとしております。
本全体の構成はかなりしっかりとしており、第1章のliterature review的なスタイルからはじまり、その後に理論的な章がつづいて、後半に事例研究に入るなど、まるで博士号論文のような書き方をしているのですが、驚くのはその文章の明快さと読みやすさ。
もちろんミアシャイマーほどの明快さではないのですが、文章がこなれているというか、伝えたいメッセージは比較的伝わりやすく、なかなか好感のもてる書き方してます。
ただし理論的な面では、「戦略文化派」のものと比べるととくに目新しいことを言っているわけではないのでやや物足りない印象が。まあこっちは戦史研究なので、仕方ないといえば仕方ないですが。
本全体では170頁ほどでそれほど分厚いわけではないですが、1頁あたりの文量がやや多目ですし、まあテーマがテーマだけに翻訳されるとは思いませんが、アメリカの戦史研究の簡易版としてはかなり参考になるものかと。

▼ビジネスと人生に活かす『クラウゼヴィッツ理論』
※詳細はこちらから↓
http://www.realist.jp/clausewitz-business.html


http://ch.nicovideo.jp/strategy

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal