戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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プロパガンダ映画が信じられてしまう理由

今日の目黒は快晴です。昼間はもう春らしくなってきましたね。

さて、先日の生放送(http://ch.nicovideo.jp/strategy/live)でご紹介したトピックについての元記事を要約しました。

次回の放送は臨時で日曜日の夜http://live.nicovideo.jp/gate/lv211610422)に放送ですが、このような興味深いトピックをまたご紹介して議論していきたいと思っております。

===

なぜ映画で描かれた「事実」が広まるのか
by ジェフリー・ザックス(NY Times)

●今年のアカデミー賞候補作の中には4本の「実話を元にした」ものがあった。

1,クリス・カイルという射撃の名手の話を元にした「アメリカン・スナイパー」
2,英国の数学者アラン・チューリングの話を元にした「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」
3,1965年までのアメリカの公民権運動の話を題材とした「セルマ」
4,物理学者ホーキング博士の話である「博士と彼女のセオリー」

である。

●この4本はすべて描いた事実に間違いがあると批判されている。

●たとえば「セルマ」では、リンドン・ジョンソン大統領が黒人の選挙権獲得を熱心に進めていたことを無視しているし、「イミテーション・ゲーム」や「博士と彼女のセオリー」はチューリングはホーキンぐ博士の業績やの本質をねじ曲げているし、「アメリカン・スナイパー」は描き出そうとした軍の紛争を浄化しすぎていると批判されている。

●もちろん「そんなの関係ないだろう」と考える方も多いだろう。映画は現実の世界と切り離して考えるべきだからだ。

●ところが実際はそうはいかない。数ある実験から示されているのは、われわれが映画をみると、とくにそれが歴史的な出来事であった場合、われわれの信念が真実ではない「事実」によって形成される可能性があるということだ。

●2009年に心理科学ジャーナルで発表されたある研究によれば、研究グループが大学生をあつめて歴史に関する小論文を読ませ、その後にわざとその小論文とは違う事実の間違いを含んだ歴史映画を見せている。

●映画の前には事実の間違いが含まれている可能性を知らされながら、なんと3分の1の学生たちが、映画を見たあとに受けたテストで間違った事実を事実だと答えている

●2012年に「応用認知心理学」という専門誌で発表された別の研究でも全く同じ実験が行われており、「誤情報効果」(misinformation effect)を排除するために、学生たちに「不正確な情報に気をつけるように」とわざわざ知らされたほどだ。

●それでも学生たちには効果がなく、むしろ事実とは違う情報を「歴史的事実だ」と認識する割合が増えたほどだ。しかもより熱心に映画を見ようとしていた学生たちの記憶のほうが、間違った情報に染まっていたという事実も判明したのだ。

●ではわれわれはなぜここまで「映画の事実」と、現実の世界の「事実」をわけることができないのであろうか?

●一つの可能性としてあるのは、われわれの脳が見たり聞いたりしたことを覚えることには長けているのに、その記憶の情報ソースを覚えるのが苦手であるということだ。

●たとえば以下のような進化論的な説明を考えるとわかりやすい。

●われわれの祖先は事実を言葉によってコミュニケーションできるようになり、それを記憶にとどめておくことができるようになったおかげで自然界で生き残れるようになってきた。

●もし草原でハンターが泉に近づいたとして、そこではライオンに襲われた人がいるという記憶が共有されていれば、それで助かる命があるというものだ。

●ところがその記憶の情報源(それを教えてくれたのは自分の親戚か兄弟か)を知ることは、それほど重要なことではない

●結果として、われわれの記憶の情報源についての脳のシステムはそれほど強固ではなく、間違いを犯しやすいのだ。

●もちろんこのような話は単なる推測的なものだが、それでも記憶の情報源についてわれわれが知っていることと一致している。

●認知科学的に、情報源についての記憶というのは人間の生育段階で比較的遅れて発展するものであり、神経学的に見ても前頭前皮質という脳の領域で発展するのが遅い場所に左右されるという。

●また、情報源についての記憶というのはもろいものであり、加齢や怪我、それに病気などに大きく影響を受けやすい。

●たとえば前頭前皮質にダメージのある患者は、情報源についての記憶に疾患があり、われわれが起こす日常的な間違いを拡大解釈することがある。

●ある研究では、前頭前皮質に傷を受けた人物が近所のあるビルが何か良からぬ不気味な目的なために使われていることを信じていたということが報告されている。のちに判明したのは、彼のビルに関する被害妄想的な解釈が、およそ40年前に見たスパイ映画によって作られたものであったということであった。

●1997年の研究では、同じような障害をもった患者たちがいくつかの言葉や文章を提示されており、それぞれ男性と女声のナレーターに読んでもらっている。

●彼らはその文章を聞いたことがあるかどうかという点については良い成績を残したのだが、男性と女性のどちらのナレーターによって読まれたものかという問題についてはほとんど正解できていない

●ところがここで重要なのは、この任務は健常者にとっても難しかったということだ。われわれの誰もが、情報源についての記憶が曖昧なところがあるのだ。この情報源についての記憶の弱さによって、われわれは不正確な映画に影響を受けてしまう可能性をもっていることになる。

●ではこれに対処するための良い方法はないものだろうか?

●今回紹介した実験では、ひとつの手法によって、このような誤解の発生を防ぐことができることが示唆されている。

●それは、間違った情報が提示されたその瞬間に、それが間違いであること指摘することである。これによって悪影響は大きく避けられるという。

●ところがこの戦略の実行はかなり難しい。映画の最中に事実の間違いを指摘するようなコメンタリーを挿入したり、常に歴史家を映画館に一緒に連れて行くことは無理だからだ。

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「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、むしろ人間はその情報を誰が発信していたのかというよりも、とにかくそれを目や耳で体験したインパクトのほうに左右される、ということですね。

たしかに上記されているように、誰にその情報を聞いたのかということよりも、その情報のインパクト(泉にライオンが出て殺された)のほうが、自分たちの命に関わるという意味では重要なわけで。

このような傾向に対する対抗策というのは、映画のプロパガンダだけでなく、「歴史問題」などにもそのまま適用できる話ですね。

その一例を考えると、日本に対する歪んだ歴史観を描いた映画は、公開された直後から日本側からの抗議が必要であるということになります。

ただしこういうのは、日本が一番苦手とすることなのでは・・・



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Commented by kjzrat at 2015-02-27 15:28 x
ゲーム、アニメ、マンガ、小説でも同じ事が起きているんでしょうね。
戦略が理解出来て実行できる人材の育成が今の日本の教育機関で出来るようになれば良いですね。
Commented by 無花果 at 2015-02-27 16:09 x
それはどうでしょうか、例の「日本民族は歴史的に人肉食を常習的に行っていたから捕虜も食べた」という映画には即時反論しています。
米大使の靖国批判発言にも国民はすぐさま直接噛み付きました。
反論を苦手としたのは現在の日本というより、つい数年前までの日本ではないかと思います。
元々、日本人は名誉を傷つけるような噂や挑発に対しては、一切自重を行わない傾向がある、と分析されていたのもそう遠い昔の話ではありません。
そういえば、奥山さんは昔、中国人女性を恋人にしたアメリカ人に日本軍は残虐で~と中国の受け売りそのまま罵られた直後にあっけに取られて反論できなかったと仰ってたことがありましたが、あれも突き詰めればこの記事と同じ問題に行き着く根っこなのでしょう。もし次があれば即時しっかり反論をお願いしますw

ただ、これまでは日本の名誉を傷つけるような根も葉もない噂、がメディアのフィルターで大半の日本人の耳まで届いていなかった、という状況がネットやツイッターにより変化したのではないでしょうか。
あらゆる史料の中から、必要な情報を見つけ出すための労力が劇的に軽減されたため、情報(真偽問わず)の共有が猛スピードで広まっていることも影響していると思います。
ニセ情報を掴まされて踊らされる危険性も増していますが、トータルで見れば+の方が大きいと考えてます。
デマを蒔くのは簡単ですが、それにもっとも効果があるカウンターが「即時の否定である」、という情報が共有されれば、方針はハッキリしているわけですからより戦いやすくなりますので、是非この知識を広めて頂きたいです。
悪質なプロパガンダと戦いたいが、戦い方が解らない、という人にとってとても有用な情報ですから。
Commented by masa_the_man at 2015-02-28 16:13
suolanさんへ

誤字のご指摘ありがとうございました!
Commented by 待兼右大臣 at 2015-02-28 23:25 x
1 そのことに対する知識が白紙
2 「プロパガンタ」の内容が世界観に合致
の二つの条件が揃った場合に、人は容易に騙されると思います。で、「世界観」に合致しない限り、「即時の否定」も効果がないでしょう

『人を見て法を説く』という仏陀の言葉もこの文脈にあると思います

歴史認識問題、特に慰安婦問題における日本側の反論が受け入れられないのは、

当時の日本がは「野蛮な敗戦国」

という欧米の「世界観」に合致しないからでしよう
Commented by sdi at 2015-03-02 00:55 x
一度、一般社会が歴史上の人物や事件に対してイメージを固めてしまうとそれを訂正するのは容易なことではありません。
例えば、日本史の有名人として織田信長を例にあげてみましょうか。織田信長に対する一般社会のイメージは「革命児」「古い中世社会の破壊者」「既存概念に囚われない革新的な戦法、制作を打ち出した天才」といったところでしょう。
ところが現在の日本史研究、特に中世・近世研究の成果として現れてきたのは、これらの革新性を否定する研究成果です。
織田信長が同時代のほかの大名に比べて飛びぬけた先進性を有していたわけではない、というものです。「最後の中世戦国大名」という評価もあります。(人物叢書「織田信長」)
しかし、これらの研究成果が日本人一般が持つ織田信長像の訂正につながっているかというと、当然のことですが影響をあたえていないのが現状です。最近出版された本を読んだ人が首をひねりつつも「うーん、言われてみればそうかなあ」というところです。
一度固まってしまったイメージというか先入観念を取り除くのは膨大な時間と手間を要します。
by masa_the_man | 2015-02-27 13:47 | 日記 | Comments(5)