日本でISILのテロは防げるか? |
さて、来月出る新刊のゲラチェックやテストの採点に追われていてまともに更新できておりませんでしたが、相変わらずISISあらためISILにたいする関心が高いようですね。
この辺の話題は私の専門外ですが、たまたま来月出る新刊や、私がいままで出してきた訳書の中に、日本でISILによるテロの発生を防ぐためのヒントのようなものが書かれておりましたので、そのエッセンス的なものを、以下に軽く書いておきたいと思います。
まずテロというか、反乱、革命戦争などと呼ばれるものは、それこそ人類の歴史が始まったのと同じくらい古くから行われております。
ところがそのメソッドというか、それをまとめて分析する形になってきたのは「最近」と呼んでもよいほど近年になってから。
もちろん初期のものとしては、両世界大戦の間の、いわゆる戦間期に、「アラビアのロレンス」ことT.E.ロレンスが『知恵の七柱』に至る様々な論文などで「アラブ(というかベドウィン)人とどうやってトルコを倒すべきか」ということを反乱勢力の立場からまとめて書いたものが目立ちます。
そして「革命戦争」という形で文献をまとめたのは、あの毛沢東。
ところが対反乱について本格的な著書が出てきたのは、元植民地が宗主国から独立を果たしはじめてからの60年代から。
たとえばアルジェリア戦争からフランスの士官のガルーラが、後に「油のシミ」と呼ばれるようになった、徹底した現地住民の懐柔を提唱する対反乱戦の四つの原則を提唱しておりますし、英陸軍の士官であったトンプソンも同じように対反乱側の正統性(レジティマシー)の重要性を強調してます。
また、CSBAの代表で、あの「エアシーバトル」というコンセプトの生みの親としても名高いクレピネヴィッチは、ガルーラたちの議論を80年代にあらたに復活させて、「今後の紛争は低強度のものになる」と言っております。
また、クレフェルトやリンド、それにハメスなどは、それぞれ「非三位一体」戦争や「第四世代」の戦争、つまり軍同士ではなく、正規の軍と非国家主体などの非対称的な戦いが今後はメインになってくることを述べております。
また、キルカレンやペトレイアスなどの実務担当者たちも2000年代に入ってからドクトリンやマニュアルを発表(FM3-24など)しましたがこれらでほぼ共通して述べられているのが、テロリストや反乱勢力側にたいしてあらゆる社会的な手段を使って「現地住民の安全の保護」をすべきだということ。
ところがこれらはあくまでも「敵国」というか、自国ではないところで行われている反乱にたいするものなので、実際に自国でテロをどのように防ぐのかというところまでは理論化できていません。
「なんだよ、結局国内でのテロは防げないのか」
というツッコミもわかるのですが、ここでは逆にわれわれの考え方を変える必要があります。そしてその際に役に立ちそうなのが、私が以前に翻訳した、あのワイリーの議論。
すでにご存知のように、米海軍の士官であったワイリーは、戦略論の傑作である『戦略論の原点』という本の中で、「戦略の総合理論」なるものを提唱しております。
まあ「理論」といっても、これは単なる原則のようなものでしかないのですが、これが日本でのテロを防止する考えに応用が効くわけです。
論より証拠、まずはワイリーの「戦略の総合理論」を見てみると、以下のようなものになります。
1)いかなる防止手段が講じられようとも戦争は起こる
2)戦争の目的は、敵をある程度コントロールすることにある
3)戦争はどう発展するのか予測不可能
4)戦争における究極の決定権はその場に立ち、銃を持っている兵士が持つ
「なんじゃこりゃ、こんなシンプルなものでいいのか」という声も聞こえてきそうですが、これはかなり有益なものです。なぜならこれはそのままテロ防止対策にも(それ以外のものにも)応用できるからです。
ではテロ対策に応用してみましょう。「戦争」の部分を「テロ」に変えてみるとこうなります。
1)いかなる防止手段が講じられようとも(日本国内でISILによる)テロは起こる
2)テロ対策の目的は、テロの発生、もしくはその影響を、ある程度コントロールすることにある
3)テロはどう発展するのか予測不可能
4)テロ対策における究極の決定権は(警察や公安のような)現場の人間がもつ
となります。なるほど。
ワイリーの戦略理論というのは、戦争だけでなくテロ、さらには原発事故や感染症のように、万が一でも起こる可能性のある「最悪なもの」にわれわれの社会が対処していくための、ひとつの心構えを提供していると言えます。
もちろんやや無理はあるのかもしれませんが、このように一つの原則を他の分野に応用して考えてみるのも、思考実験としてはなかなか興味深いものです。
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