戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ジョン・ナグルの回顧録の書評

今日の横浜北部はよく晴れてますが、いやはや真冬並みの気温ですね。

さて、ここ数日は訳者「特権」を発動してミアシャイマーに帯同させていただき色々と刺激を受けているわけですが、今回は久々に戦略学に関する話題を一つ。

COINの中心人物だったジョン・ナグルの回顧録が新しく発売されて話題になっておりますが、さっそくその書評が出ておりましたのでその要約を。

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書評:‘Knife Fights: A Memoir of Modern War in Theory and Practice,’ by John A. Nagl

By ローザ・ブルックス

●ファッションの世界と同様に、米軍にもトレンドや流行がある。開始からまだ十年もたっていないが、対反乱作戦のドクトリン(COIN)は軍事関係の識者たちの間では大流行していた。

●ところがイラクとアフガニスタンにおける結果の見えない紛争のおかげで、COIN――これは現地の住民を保護し、正統性のある効率良い政府組織の構築を強調するもの――はまるでベネトンのセーターやゲスのジーンズと同様に、高くてスタイリッシュではなく着てて恥ずかしいようなものになってしまったのだ

●ジョン・ナグルの『ナイフ・ファイト』という回顧録はCOINを必死に擁護しているが、このような状況のために、本書が出版されたタイミングとしてはなかなか厳しいものがある。

●ハーヴァーフォード学院の校長で米陸軍の退役中佐であるナグルは、COINが出てきた当初から熱心に提唱していた人物である。

●一九八〇年代初めに陸軍士官学校(ウェストポイント)に入学した後、彼は二度とベトナム戦争のような複雑で曖昧な紛争は戦わないことを決心していた米陸軍に入隊している。

●ナグルは湾岸戦争では戦車中隊の少尉として従軍しているが、彼は米軍がイラク軍をあまりにもあっさりと片付けてしまったことに驚いており、当時のブッシュ(父)大統領も「われわれはベトナム症候群にとうとう打ち勝った!」と宣言したほどだ。

●ところがナグルにとってその高揚感は長続きしなかった。湾岸戦争の一年後に、彼はカリフォルニア州の米陸軍トレーニングセンターで、アラスカ州兵の歩兵中隊との戦闘のシミュレーションを行っていた。

●ナグルは自分の戦車部隊が方言も強い英語をしゃべる弱小アラスカ州兵に楽勝できると思っていた。ところがナーグルによれば、アラスカ州兵たちは「思いがけぬところか侵入し、われわれの両脇や背後を守っているはずの山を越えてきて、たった一年前に世界四位の規模を持つ陸軍に敵地で圧勝したわれわれのM1A1戦車を、わずかな数のなまりの強い、しかしわれわれの脆弱性をよく知っている兵力によって撃退したのである」と記している。

●この経験によって、ナグルは反乱軍や非通常戦をもっと理解しなければならないと決心した。彼はオックスフォード大学に入学し、彼が九七年に書きあげた博士号論文は『ナイフを使ってスープを飲むのを学習する』(Learning to Eat Soup with a Knife)という本として後に出版された。これはマラヤとベトナムにおける対反乱戦について書いたものだ。

●ところがアメリカでは原稿を本にしてくれる出版社を探すのに苦労した。彼によれば「どの出版社も、陸軍がどのように対反乱を学べばよいのかというトピックについては興味を持っていなかった」という。

●ところがイラク戦争のさなかにこの状況は一変した。米軍はイラク軍を簡単に打破できると思っていたところで思わぬ抵抗にあったために、多くに米陸軍の幹部たちはナグルがアラスカ州兵に負けた後に悟ったことを自分なりに解釈しはじめたのだ。

●対反乱作戦は突如として流行の概念となり、彼の書いた論文はとうとう出版されて、発売開始早々にCOINの「古典」となったのである。

●二〇〇六年にナグルはディヴィッド・ペトレイアス大将に米陸軍初となる対反乱戦マニュアルの作成に協力するよう求められている。本もNYタイムズ紙で綿密な書評が掲載され、ジョン・スチュワートの「デイリーショー」という人気のニュースエンターテイメント番組にも出演した。

●ところがCOINの人気は湾岸戦争後の勝利の高揚感と同じように、長続きはしなかった

●二〇〇八年の金融危機によって米軍の長期介入は財政的にも困難に見えてきたのであり、オバマ大統領もイラクとアフガニスタンにおける自身の目標が米軍の撤退にあり、対反乱作戦を続けて現地でのプレゼンスを永続させるところにはないことを明確にしたのである。

対反乱は、アメリカの敵を迅速で安価、そしてリスク無し(と思える形)で排除できる対テロ無人機攻撃にとって代わられることになった

●2012年にはCOINの流行が完全に終わった。批判的な人々は、その作戦が費用がかかりすぎて効果も出ないものだとしており、COINが強調する「現地住民の保護」と「能率的な統治機構の構築」というものが「敵の撃滅」という軍の本来の任務の危険な妨げになっていると見なしていた。

●2013年には米陸軍大佐のジアン・ジェンティール(Gian Gentile)が「作戦的な手段としても対反乱は・・・惨めな形で失敗した。対反乱作戦は終わったのだ」と結論づけている。

●今回紹介する『ナイフ・ファイト』の中で、ナグルはCOINの中心的なアイディアを擁護しつつ、これを軍の中の単なる流行だけでは終わらせてはいけないと厳しい警告を発している。

●ナグルは「今後の紛争の流れが、反乱や対反乱から通常戦に向かい続けているような兆候はまったくない」と宣言しており、もし軍が対反乱戦のスキルを失ってしまえば自らの首を締めることになると述べている。

●これについてトロツキーが語った戦争についての有名な言葉を借りれば、「あなたが反乱に興味を持っていなくても反乱側はあなたに興味を持っている」ということになる。

●ナグルにとって、イラクとアフガニスタンでの経験というのは「米軍がチャンスを失った、初期に犯した取り返しのつかないミス」であり、COINの失敗はCOINそのものというよりも、米軍の非効率的な文化にあるというのだ。

●アメリカはイラクとアフガニスタンの両方で対反乱的なアプローチを採用しているが、これも戦いを始めた後になってようやく実行し始めたものであり、その後もCOINは訓練や実践の面で表層的なものにとどまっていた

●つまり米軍には対反乱作戦を成功させるために必要となる「文化的な能力、言語スキル、そして組織的な訓練」に本気で投資したわけではないのであり、柔軟性の欠けた頑固な兵員や隊の中での出世システムがあったために、いままでの慣習を打ち破ろうとしたり、新しいアプローチを採用しようとした将校たちは閑職に追いやられることになったと述べている。

●ナグル自身の運命がそれを物語っている。2006年にCOINのマニュアルが発売されようとしている時に、米陸軍は派兵されないケンタッキー州のフォートリレーの戦車部隊の駐屯地に配備されたのだ。

●この派遣は彼の陸軍のキャリアにとって終わりを意味しており、「実戦でカンザス州を離れることはないと悟った」と悔しそうに記している。「実戦で指揮というのはそれまでの3年間での唯一の願いだったのに、それが失われてから私の中での米陸軍への忠誠心は失われてしまったのです」

●2008年に彼は米陸軍の最も創造的な若い将校たちの多くがすることと同じことをした。退役したのである。

●ナグルの警告は明快だ。今よりもさらに自省的で順応的にならなければ、米軍はこれまでの紛争から最も表層的で誤った教訓を得ることになる、ということだ。

●ベトナム戦争を経て米軍は対反乱戦や非通常戦から背を向けており、湾岸戦争は通常戦における能力についての誤った自信を発生させてしまったのだ。

●イラクとアフガニスタンではたしかにCOINや非通常戦のほうに揺れが戻っているが、それも拒否されて現在は主にエアパワーやハイテクのインテリジェンスや監視に頼るような「スタンドオフ・アプローチ」が採用されつつある。

●結局のところ、『ナイフ・ファイト』という本は嘆願書である。米軍は不確実で危険で変化しつづける世界においてその岐路に立っている。米軍は本物の順応的な組織に変わることもできるし、変わらずに一時的な流行にまどわされながらさまようかのどちらかなのだ。

===

うちの学校にもナグルが講演したことは本ブログでもかなり以前に報告させていただきましたが、このような本を読むたびに、私は『戦略の格言』の中でグレイが述べている

今日の流行の戦略コンセプトは明日になると陳腐化するのだが、それもいつかは再発見、再利用されて“新しい真理”として啓示される」(格言15)

という格言を思い起こさずにはいられません。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



Commented at 2014-12-19 18:27 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2014-12-27 22:18
!さんへ

>本を出しているので読んだ感想をお願いします。

私も忙しいですし、ボランティアではないので、できません。本を送っていただければやりますが。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2014-12-18 12:02 | 日記 | Comments(2)