結局のところ、中東問題とは経済問題だ |
さて、前々回の生放送で簡単に紹介した記事の要約です。「中東問題の本質は経済にあり」とするものです。
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中東の本当の危機は「経済」にあり
By マイケル・シン
●オバマ大統領は最近、イラクの危機を経済的なものであり、同国のスンニ派が「グローバルな経済から切り離されて」おり、彼らの望みを達成できないために不満を感じていると分析して話題になった。
●もちろんイラクの混乱の原因はいくつもあるのだが、オバマ氏の分析は決して的外れというわけではない。そしてそれは単にスンニ派だけの問題ではなく、中東全域がグローバル経済から切り離されているところに本当の原因があるのだ。
●たとえばこの地域は世界の輸出量のたった4%しか占めておらず、しかもその割合は1983年頃よりも落ちている。ドイツはたった一国で6・4%を占めており、アジアの国々と比較してもその差は圧倒的だ。
●世銀の調査によれば、1965年でのエジプトの一人あたりの国内総生産(GDP)は406ドルであり、中国は110ドルであった。
●今日ではエジプトのGDPはその4倍の1566ドルだが、中国はその30倍である3583ドルまで増えている。同様に、イランと韓国も1965年当時はほぼ同じGDPだったのが、現在では韓国が2万4000ドルに増えたのに対して、イランはたった3000ドルだ。
●中東の経済は世界経済から切り離されているだけではなく、他の地域経済からも離れている。たとえば北米、ヨーロッパ、そしてアジアのほとんどの輸出は域内向けのものがほとんどであり、たとえばヨーロッパへの3分の2は輸出はヨーロッパ内からのものだ。
●ところが中東は、輸出全体のたった16%が中東の国々からのものなのだ。
●欧米の専門家たちは中東の政治的な問題を見がちであるが、その地域にいる人々は主に経済的な面ばかりを心配している。最近の意識調査では、ガザ地区の住民たちは圧倒的にイスラエルとの和平を望んでおり、彼らは仕事を求めているという結果が出ている。
●また、別の調査ではイランが「雇用機会の拡大」を政治に求める最優先事項として挙げており、これは「核純化計画の継続」よりもはるかに高い数値を出していた。
●ところがガザ地区の住民の望む封鎖の終焉や、イラン人が望む経済制裁の終わりは、実現したとしても問題が劇的に解決するわけではない。経済の失敗はこの地域で慢性的なものであり、これは制裁を受けていない地域でも状態はほぼ同じだ。
●これは西側の政策家たちを心配させている。経済と政治の問題を区別するのは間違いだ。世界中のどこでも共通する話だが、経済と政治というのは密接に結びついているものだ。そして中東におけるアメリカの国益を慢性的に脅かす問題を解消するために最も必要なのは「経済の進歩」なのだ。
●石油を輸入している国々にとって、効率の悪い政府組織は、社会経済的な害の中心だ。たとえばエジプトという国では雇用の30%が公務員だが、「アラブの春」以降のカイロ政府は、経済の急激な回復を求めて公共事業と公務員の給料をさらにアップしている。
●とくに政府は、燃料費への補助金をふんだんに出しており、これが消費効率の悪化やエネルギー関連に変調した産業をますます増長させている。これによって政府の財務状況は悪化し、資金繰りも悪化している。
●このような政策は、ビジネス環境の悪さと相まって、本当の経済成長と雇用を生み出す民間の企業活動を阻害している。中東では(とくに若年層の)失業率の高さは「アラブの春」以前よりも現在のほうが悪化しており、経済成長のスピードはその流れを変えるほど速くない。
●このような問題は石油の輸入国だけに限ったものではない。IMFが警告しているのは、石油の輸出国が利益を稼げていた時代は公共投資と人口爆発でもうすぐ終わる、ということだ。原油以外の外貨を稼ぐ手段がないため、原油価格が下がると厳しいからだ。
●しかしこれらの経済問題は解決可能なものである。この地域の政治面での深刻ジレンマとは対照的に、西側諸国は経済問題については彼らを助けることが可能だけでなく、この地域のリーダーたちも助けを受けることに関してはオープンなのだ。
●たとえばヨルダンだが、この国は「アラブの春」という混乱のさなかにアメリカとIMFの助けを借りてかなり思い切った改革を断行している。
●石油の輸入国たちは多額の燃料補助金の代わりに貧困層の社会保障に割り当てる必要がある。また、外国からの援助を断ち切って汚職を減らし、規制緩和によって民間企業の成長を促すべきだ。
●石油輸出国のほうは財政支出を減らして経済構造を多角化しなければならない。また両国とも公共事業を減らして教育システムを近代化する必要がある。
●米国やその同盟国たちはこれらの国の問題の克服のためのアドバイスを与えるだけでなく、その政府にそれを受けさせる動機付けをすべきだ。つまり彼らの経済構造の近代化や政治システムを含む改革を進めるということだ。
●アメリカは豊かな産油国と協力してその周辺の非産油国に対する投資や、中東諸国をとりわけEUのような西側のマーケットへのアクセスを高めることによって、中東経済のさらなる統合を促すべきだ。
●アメリカに海外で「もっと〜をやれ」と忠告することは軍事力の行使のための「隠れ蓑」として批判されることが多い。ところが経済面での外交はアメリカの安全圏を広げて長期的な平和と安定を促進するため、アメリカの国際的な役割を拡大することにもつながる。
●もちろん経済成長によって中東の強烈なジレンマを解消できると考えるのはナイーブかもしれない。それでもそれなしに解決できると考えるのも、それと同じくらいナイーブなのだ。
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政治の安定はまず経済から、という原則は基本的にどこでも通じる話ですな。中国の歴代王朝だって、それが交代してきた根本的な原因は「国民を食わせられなくなったから」ですし。
それにしても最後のマーケット推進の部分は、アメリカの大戦略に関して述べたレインの『幻想の平和』の中の分析と重なる部分があって興味深かったです。
このテーマに関する記事については、今後も色々と要約していくつもりです。


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石炭の場合、採掘にも輸送にも莫大な人手を必要とし、必然的にそれが近代的組織も経済のために必要な社会的モラルも育成する。
石油の場合、採掘にはごく少数のエリート技術者だけが必要で輸送もパイプラインで効率的に行ってしまえる。つまり、莫大な石油収入に対して雇用を産まず、油田が稼いだカネはバラマキに使われるのみ。
つまり中東の不幸は、「石油があったこと」以上に「石炭がなかった事」なんじゃ無いかと


きちんと働ける場所があって、まじめに働きさえすれば家族を養って食べていける、という希望がテロを減らす、と。
非情に廉価で空腹を満たせる即席麺の存在が、貧困国での政治不安を和らげている、という話も根っこは同じだと思います。
9条はともかく、インスタントラーメンにノーベル平和賞が贈られるなら私は賛成しますw

豊かになった後、頭をもたげてくる自意識の方がはるかに恐ろしいかも。
強力な思想統制と低賃金で工業化などされると、一番怖いかも。
ただ、現段階で社会制度にメスを入れられる国民とは、
お付き合いしておいていいかもしれないとは思います。