戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ISISに「悪」というレッテル貼りはやめておけ

今日の目黒は朝から小雨が降っております。

さて、久しぶりに記事の要約を。オバマ政権の使っている言葉についての議論です。

===

「悪」というラベルづけの問題:ISISを「ガン」と呼んでしまうことのモラル・ハザード
By マイケル・ボイル

●ISISによるアメリカのジャーナリスト、ジェームス・フォーリー氏の「首切り処刑」は、世界中からこの反乱グループとその恐ろしい手段に対する非難を巻き起こしているが、これは当然であろう。

●ところがこれは同時に、911の連続テロの直後のパニック状態の中でアルカイダを示す際に使われた道徳判断を含んだ言葉を復活させることにもつながった。

●ブッシュ前大統領が「テロとの戦争」を「悪を行う者」たちに対するキャンペーンであると表現したことは有名だが、奇妙なことに、オバマ大統領もISISのことを、中東に広がる「21世紀に存在してはいけないガン細胞」であると表現している。

●ジョン・ケリー国務長官もISISのことを「残忍」で「価値の無い悪」であると非難。イギリスのキャメロン首相もこのグループのことを「野蛮である」と呼んでいる。

●もちろんISISがイラクやシリアにおいて無数の人権侵害や、フォーリー氏の処刑のように戦争犯罪のようなことを犯しているのは間違いない。

●少しでも良心のある人間であれば、フォーリー氏に行なわれたことだけでなく、イラクやシリアの一般市民が殺されたりレイプされたり、さらには生き埋めにされたりしていることに対して、激しい嫌悪感を覚えるはずだ。

●ところが「テロとの戦争」の教訓として挙げられることが一つあるとすれば、それは「その道徳的な言葉を使用した人間にその結末を見えなくしてしまう効果がある」ということだ。

●つまりあるグループのことを、ケリー国務長官のように「理解し難い」とか「無政府主義的だ」と言い切ってしまえば、そのグループの戦略的な狙いを見えなくしてしまい、さらなる分析を不可能にしてしまうのだ。このようなレトリックは、敵のことを勘違いして理解させてしまい、大きな失敗につながることもある。

●911事件の後、ブッシュ政権は繰り返し「悪と善」という言葉をアルカイダに対して使っているが、これは逆に相手にとって直接利益になっていた。なぜなら彼らは「自分たちはキリスト教の西洋に対して戦っており、アメリカはイスラム教徒の土地を侵略する意図を持っている」と喧伝していたからだ。

●ブッシュ氏のイスラム過激派に対する「十字軍」は、イラクを占領したこともあって、アルカイダ側の資金集めや人材集めに有利に働き、このグループを十年近くも存続させることになった。

●このような道徳的観念が込められた恐ろしいほどの単純化というのは、ここではとりわけ重要である。なぜならISISは単なる「新しいタイプのアルカイダ」ではないからだ。シリアの内戦から出てきたISISはより洗練され、実際の戦闘にも強く、領土を獲得する効果的なプランを持つ、野心的な組織として登場してきた存在だ。

●カリフ国をつくる夢が単なる誇大妄想に近いアルカイダとは違って、ISISは実際にシリアとイラクの中の大きな領土を占拠しており、自分たちの主張する「イスラム国」の中で社会サービスを行い、イスラム教の律令にもとづく初歩的な司法裁判システムも持っているのだ。

●いいかえれば、ISISは中東全域を制覇したい革命的テロリストのムーブメントというよりは、むしろテーブルに自分たちの席を確保したい、成功した反乱グループなのである。アルカイダのリーダー層が今年の2月にISISを追い出した理由は、まさにこの根本的な戦略や戦術の違いにあるのだ。

ISISを、単なる「アルカイダ式の悪である」として描き出してしまうと、これらの違いや、ISISの戦略や、資金源、支持基盤などの違いから目を外らせることになってしまう

●また、このような道徳的なレトリックは、このようなグループの目的ではなく、彼らの戦術をベースにした定義を行ってしまうという間違いにもつながる。

●たしかにこのグループの行動には衝撃を受けるところはあるが、われわれの目的は常に「敵を知ること」であるべきなのだ。つまり今回のケースでは、特定の戦略的な目標を持った、かなり高度に組織化された反乱グループの実態を知らなければならないのだ。

彼らの実態を知るという部分はとりわけ重要である。なぜなら「悪」という言葉を使って論じてしまうと、この脅威を止めるためであればどのような手段でも許されるということになってしまうという怪しい状態に陥ってしまうからだ。

●今週に入ってからケリー国務長官はISISのことを「破壊されるべき存在であり、つぶされる運命にある」ということをツイッターに書いていた。ところがアメリカは「悪を行う者」たちに対する戦いによってはじめられた十年以上におよぶ戦争の莫大なコストや評判の欠落からまだ完全には立ち直っていないのだ。

●このような理由から、オバマ政権は何も考えずにISISという「ガン細胞」を「破壊する」というような言葉を、それが本当に意味することを熟慮せずに使わないよう注意すべきである。

●これらの道徳的な言葉によって生まれた戦略の迷走はすでに目立っており、これはすでに人道的災害を阻止するために行なわれた空爆が、段々とISISに対する巻き返しや、さらにはその打倒にまでシフトしてきていることからも見てとれる

●オバマ政権は、フォーリー氏の「処刑」やISISのその他の悪行に対する嫌悪感がそのまま無計画な終わりなき紛争につながらないよう用心しなければならない。

●「善悪」に関する言葉はたしかに敵味方を明確にしてくれるという意味では気休めにはなるが、それが「良い政策」を生み出すことは、絶対とはいわないが、ほとんどないのだ。

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いい記事ですね。ただしこれを鵜呑みにするのも問題かと。

というのも、政治では「大衆」を動かすためにはある程度の「わかりやすさ」や「単純化」というものが必要であり、実態の細かい分析や相手の正確な理解とのバランスが、それこそ政治の「永遠のテーマ」となっているからであります。

上の記事の分析はたしかに正しいです。

しかしそれだけでは政治の「術」の部分が逆に理解できなくなってしまうという矛盾があることも、われわれは知っておくべきなのかもしれません。

昨日の生放送でこのトピックについて触れております。タイムシフトで見ることができますので、まだご覧になっていない方はぜひ。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal



Commented by だむ at 2014-08-27 12:27 x
敵を悪だと罵ってもいいが、悪だと信じ込んではならないということか
Commented by T2 at 2014-08-27 16:40 x
世間的には悪でいいんだよ
軍部や政府は相手の具体的目標や行動を分析してるんだから
Commented by 774 at 2014-08-27 19:10 x
オバマのスマートパワー戦略は、今のアメリカにとっては必要でも、オバマ自身にとっては不都合
というか、だんだんとそうなってきた

オバマは戦争がしたいんじゃないかな
セオドア・ルーズベルトと同じ理由で
誰だって”悪い大統領”として名を残したくはないからね
一部の人達からでも英雄と称えられることは、凡百の政治家にとって最高のハッピーさ

で、国内プロパガンダが上手くいくかどうか
真珠湾の利用は上手くいったけど、これはどうかな
Commented by 通りすがり at 2014-08-27 23:32 x
まー曲がりなり法と裁判と選挙のある法治国家で、軍事力に物を言わせて無理筋通す連中を悪人と判断するのは妥当だとは思う。それを殲滅出来るのか出来ないのかは別だし、まー「悪は滅ぼさなければ!」なんて頭の悪い発想にとらわれないないよう気を付けるべきではあるけど。
Commented by sdi at 2014-08-28 00:44 x
逆にISと対立するアクターを「悪」と断じて、ISの本質から目を背けてしまうというパターンもありますね。というか、TLで目にします。
Commented at 2014-08-29 09:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 待兼右大臣 at 2014-08-29 23:05 x
ISは女性しか・・・
(節子、それIS(インフィニット・ストラトス)とちゃうイスラム国や)
というボケはおいておいて、

この人の分析は正しいと思いますが、その正しさは、現実世界で意味を持つとは思えません。

というのが私の感想です

この文脈で「悪」とは「異教徒である」という以上の意味は無いでしょう。
このブログに即して言えば「世界観が違う」というだけの意味です
旧約聖書を起点とする3つの一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)において

異教徒は「悪」であることの十分条件です。
また、それらの一神教世界にとって、十字軍のように、異教徒は「抹殺されても仕方の無い」存在です。
Commented by 待兼右大臣 at 2014-08-29 23:06 x

さらに言えば、異教徒の論理を理解する必要も無い。異教徒の論理を理解する必要があるのは、その異教徒と【共存】する必要性か可能性がある場合です。

したがって、イスラム国と共存する必要性を認めない限り、イスラム国を「悪」とレッテルをはって、それ以上の分析の停止(≒思考停止)は

政治の費用対効果では最適に近い

ということになります。
この人の分析が意味を持つとすれば

イスラム国を殲滅するのに相手の論理を理解するのが一番の近道

であると認識した場合でしょう。で、三十年戦争に匹敵する荒廃を体験しない限り、一神教の世界に住む当事者同士の争いでは恐らくそのような認識には到達し得ない。
Commented by 無花果 at 2014-09-02 17:16 x
イスラム国に「悪」のレッテルを貼るのを危惧するより、現在彼らが名乗っている「イスラム国」という名称そのものを危惧すべきじゃないでしょうか。といっても、他の呼称を使うのも難しいのでしょうが。
これが「アルカイダ」など独自の名称や既存の国名であれば、世界のムスリムの心象は他人事でしょうが、イスラム国という名称そのものが状況を誤認させることを狙っていると思われてなりません。
Commented at 2014-09-02 18:49 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ぽぽぽ at 2014-09-21 11:25 x
ブッシュ君の置き土産。
イラクのフセインとともに支持基盤のバース党を壊滅したら、そこからあぶれた高官と軍人(高級将校)がISISに参加しています。
わざとやっているのかと思ったら最近は制御不能になっているようです。空爆だけではどうにもならない。
あのイラクを治めていたフセインは偉大だった。
Commented by WIZARD03 at 2014-09-27 19:27 x
私見ですが、イスラム国とは米が作り出したマッチポンプではないでしょうか。
イスラム国の台頭により、私が思いつくだけでも米は以下の3つの利益を得ています。
1、アラブの敵意をガザ地区で大勢の死者を出したイスラエルからそらすことができる。
2、イスラム国の弱体化は中東の頭痛の種だったイランやシリアとの共通の利益になり、コントロールが容易になった。
3、世界に散らばっている「潜在的」イスラム過激派を炙り出すことができる。
もし私の言うとおりなら、米はイラク崩壊による混乱という危機を逆用し、多くの利益を得られる現在の状況を作り上げたことになります。
新たな脅威を創造する事で、勢力均衡を図るこの手法はシーパワー戦略の真骨頂、オフショアバランサーの面目躍如です。
以後、イスラム国は制御された危機として、米が必要としなくなるその時まで潰されず生かされ続けると予想します。
やはり、米という国はきちんとした国家戦略をもったすごい国なんだなと思います。
日本政府にも、このような戦略的手法を取れるようになって欲しいものです。
Commented by monmonabc at 2015-11-15 17:33
フランス。
Commented by α at 2017-02-11 17:10 x
>> WIZARD3
ウィキリークスを見てくるといい。
実際にそうであるような物証が見つかったらしい。
米国は、中国よりも最も信用のならない国と思っておく方がいいだろう。
by masa_the_man | 2014-08-27 12:01 | 日記 | Comments(14)