戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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補給艦を削減するな

今日の横浜北部は昨日に比べればほんの少しだけ暑くないですね。それにしても真夏です。

さて、次に出す本の追い込みが続く中で、久々の更新は、米海軍の国防費削減に関する話題です。

記事はもちろんアメリカのシーパワー関連の分野で最近積極的な発言を続けている米海軍大学のジェームス・ホームズ教授。

これは純粋に自分のシーパワー用語に慣れるための勉強のために訳したものですので、お読みになった方の中でより正確な定訳や用語などをご存知の方は、ぜひ私にコメント欄で教えてください。

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アメリカは海軍のロジスティクスの優位を明け渡した
by ジェームス・ホームズ

●もしアメリカが中国との戦略的紛争において危険な場所から逃れたいと思うのなら――北京政府の西太平洋を支配できるという空想を打ち砕きたいと思うのなら――、米海軍の最速・最大の高速戦闘支援艦を退役させるのはまずい。

●これを実行してしまうと、アメリカが北米から離れた地域で長期間にわたって戦うことを本気で考えていないというシグナルを潜在的な競争相手に送ってしまうことになる。

●ところがワシントンの予算削減の推進者たちは、米海軍のリーダーたちにこの競争面での優位を諦めるように迫っている。そして彼らは中国が長年軽視してきた自らの戦闘支援艦をようやく整え始めようとしている時に削減しようとしているのだ。

●ディフェンス・ニュースのクリス・キャヴァス氏は、米海軍の高官たちはサプライ級のT-AOEを退役――もしくは現役と退役の中間の状態――にすることを考えているという。

●高速戦闘支援艦というのは巨大で高速の船だ。これは実質的には移動可能な倉庫であり、燃料、弾薬、そして海での任務に必要となるさまざまな物資を届けることができる。

●彼らは新しく就航したアメリカ級強襲揚陸艦と同じくらいの大きさだ。低速で小型の補給艦だと、その規模の小ささのため、米海軍の最速の原子力型の艦船には追いつけないことになる。

●サプライ級の前の型であるサクラメント級は、一九九一年の湾岸戦争の時にアイオワ級の戦艦二隻に同時に補給を行うことができたのだ。このような事実から、その艦船のサイズが想像できるだろう。

●もちろんこれはそれほど魅力的に見える能力とはいえない。しかしこれはかけがえのないものだ。現在進められている洋上補給システム――UNREP、つまり寄港せずに補給する能力――というのは第二次大戦以来米海軍の優位の中核をなすもので、これによって行動範囲の制限がなくなるのだ。

●このような能力の揃っていなかった時代にマハンが述べていたのは、前進基地のない戦艦は「陸の鳥」のようであり、巣から遠くへ飛べないということであった。このたとえは、ロジスティクスの分遣隊を自ら持たない洋上部隊にも当てはまる。

●洋上補給群は、平時には便利な存在であり、戦時のとくに友好国の港が近くにない場合には決して欠かせないものとなる。補給艦がなければ機動部隊は配置場所から抜けて倉庫を探しにいかなければならない。

●紛争地帯から離れるということは、その海域の支配を諦めるということであり、もしくは水兵や海兵隊たちを海上から火砲や航空支援なしに戦闘地域の沿岸に取り残すということだ。結果は火を見るよりも明らかであろう。

●東條大将は処刑される前に、大日本帝国軍の凋落を決定づけた三つの要因のうちの一つとして、米海軍の洋上補給群の存在を挙げている。これは敗北した敵からの高い評価である。

●戦闘ロジスティクスというのは、戦略の重要性を支配する作戦的なテクニックである。マハンはシーパワーの三本柱として、海上輸送と海軍の輸送、そして前方基地を挙げている。洋上補給艦はそのマハンの三本柱の一つではなく、二つを構成しているのだ。つまり物資を運ぶだけでなく、基地を補完するものなのだ。

●つまり補給艦を加えると米海軍の機動部隊の戦闘力と警備行動の期間を上げることになるのだが、その反対にそれを少なくするとアメリカのシーパワーの柱の二つを減らすことになる。

●これと同じことは、基地によらずに洋上補給や修理などを可能にする、駆逐艦母艦や潜水母艦にも言える。米海軍にはたった二隻の潜水母艦しかない。

●サプライ級高速戦闘支援艦を削減するかどうかという話題は国防費に関する議論で過去にも何度か浮上したが、ここ数年のものは奇妙な展開になっている。政府や議会は、海軍部隊の戦闘継続能力の必要性が上がっているのに、海軍への費用を減らそうとして感覚が鈍ってしまっているからだ。

●リーダーたちはまるでウォルター・リップマンが第二次大戦直前に述べたような「とほうもない軽率さ」と呼ばれたような状況を再現しているように見える。つまり太平洋へのコミットメントを上げると言っておきながら、同海域で展開するための手段をけちっているようなものだからだ。

●「ジャスト・イン・タイム」のカンバン方式の哲学は、現在の産業だけでなく軍や議会にまで浸透してきてしまったようだ。つまりコストを抑えるために在庫などを極力減らして、お客さんからの要請があったときに細かく対応して部品などをつくるというのだ。これはたしかにビジネスの世界では目指すべき姿であろう。

●ところが軍事の世界では平時に需要が低くても、戦時にはそれが飛躍的に高まるのだ。

●では賢い敵が洋上補給艦を狙ってきた場合はどうなるだろうか?もし私が中国やイランのA2(接近拒否)部隊を指揮させてくれるなら、私は迷わずこれを実行する。つまり、戦闘部隊を狙うのは難しいから、補給艦や空母、巡洋艦、そして駆逐艦たちを破壊したり沈めたりすることによって、作戦行動をできないように飢えさせてしまえばよいのだ。

●そうなると米海軍はその場を離れるし、断続的に現場に姿を見せるのが精一杯なのだ。守る側のA2部隊は時間と選択肢を得ることになるし、勝利することもできるのだ。

●よって、補給艦が足りなくなるよりは多すぎのほうがよいということだ。ワイリー提督が指摘しているように、議会は予算の作成過程を通じて、常に戦略的な決定をしているのだ。

●そして今回のケースでは、アジアのリムランドで作戦を行うために必要な手段に制限を加えてしまうことにより、たとえば日米同盟の保持やホルムズ海峡のオープンな状態を維持すること、もしくは公海で法の支配を支えるような「些細なこと」が不可能になってしまうのである。

●平時の航行に最適化された「ジャスト・イン・タイム」艦隊は、戦時に大きな困難にぶつかることになる。

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「戦略にはドルマークがついている」とはブロディの有名な言葉ですが、やはりこのような大戦略レベルに関わることという、最後はマネーの話に集約されてきますね・・・

明日の夜も生放送します。ご期待ください。



奥山真司のアメリカ通信LIVE


http://ch.nicovideo.jp/strategy
奥山真司のアメリカ通信LIVE

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Commented by WIZARD03 at 2014-07-29 19:20 x
1、国家の行動に善悪という基準を当てはめない
2、国際関係を考慮する時、信用という概念を持ち込まない。
というのが、リアリストのものの見方であると私は思っているのですが、これで正解でしょうか?
Commented by FOO at 2014-07-30 23:07 x
>>WIZARD03さんへ
通りすがりのものですが、2の「信用」は外交では重要な前提条件になります
1はおっしゃる通りですね

外交における信用とは、日本人の考える「信用=愛=絶対に裏切らない」というものとは違います
外交をゲームと考えると分かりますが、必ず裏切る相手はある一定以上は大きくはなれず、最後には共通の敵として包囲網の中で滅びます
それゆえ、覇権国は戦略や哲学や正義の一貫性で、ルールを提示し、そのルールに従うことで信用を出来る限り担保します
神が一人で戦うのではなく、人間の集団が戦うので、そこにはプロトコル(手続き、儀式)としての信用が必要になるのです

人間の力というのは小さく、信用なしに世界を覆えるほどのものではありません
人知の結晶と思われている科学で滅ぼせる世界とは、所詮人間の作った箱庭のことにすぎないのです
たとえ人類が全滅しようが、です
Commented by WIZARD03 at 2014-07-31 19:56 x
>>FOOさんへ
国家とはわがままな存在であり、いついかなる時でも自らの相対的パワーを最大限に高めようとする。
共通の敵と同盟を組んで戦っている最中でも、同盟の相手国が自分より強くなりすぎないように注意する。
国家は基本的に自分の利益しか考えない。
そのような存在が他国と結びつく要因は安全保障か利害の一致のみであり、それがなければ敵対することに躊躇はない。
私は、国家という存在をこのようなものだと思っています。
ゆえに外交とは利害関係やパワーバランスのコントロールであり、覇権国の敷いたルールとは自らの覇権を固定化することを目的としたプロパガンダにすぎない事は、覇権国自身がそのルールを逸脱することがある歴史を見ればあきらかです。
日本人は誠実を重んじ、信用という概念を大切にします。
しかし、国家の対外姿勢は利害関係の変化やパワーバランスの変化によってコロコロ変わってあたりまえ。
という意味で外交においては、信用という概念は捨てたほうがいいのではないかと、思った次第です。
Commented by FOO at 2014-08-02 22:41 x
>>WIZARD03さんへ
確かにリアリストとしては、ルールを用意するのではなく
ルールが自然な要求として生まれるようなパワーバランスを考えるべきかもしれませんね

パワーが先かルールが先か
リアリスト的にはパワーですからね

ただし、そもそも国家自体が、人と人が手を組んだものであり、国内をまとめるにもルールが必要と考えると、大戦略の上にある哲学などとも密接に関係してくるので、一概に考えなくていい、ということではない気がします
Commented at 2014-08-05 14:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by masa_the_man | 2014-07-28 13:05 | 日記 | Comments(5)