2014年 06月 26日
ポーゼン:アメリカはイラクで何もするな2 |
今日の横浜北部は朝から曇っておりました。日中少し晴れましたが、なんだか梅雨空でしたね。
さて、一昨日のエントリーの続きを。

(The Atlantic より)
===
「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン
●「抑制」戦略を進める戦略家たちは、現地の政治家たちのことを、自らの持つ「武器」と共に知的に国益を追及する「戦略的アクター」だと考える。
●このような時に使われる「武器」の一つが「ウソ」である。
●「サージ」が行われている時期に、アメリカはマリキ政権がスンニ派と手打ちをするために多くの障害を越えなければならないと主張していたのだが、マリキ自身はこれらのことに「努力する」と言っていた。つまり彼は、アメリカ側が聞きたいことを言ったのだ。
●米国防省は連邦議会からイラクの状況における「進展」を年四回報告するように義務付けられていたのだが、これらを読んでみると、政治・経済の部分の報告の内容はひどいもので、ほとんど進展などはなく、さらには米軍がイラクから2011年12月に撤退してからは、その報告書さえ出なくなっている。
●多数派であるシーア派の支援を受けているマリキ首相は、なぜスンニ側に歩み寄ろうとしないのであろうか?彼にとって話し合いの場ができることは理に叶うのに、
●ところがイラクでは「アイデンティティ政治」が強烈であるために、話し合いを実行することはできないのであり、彼は言ったことを実行するつもりはない。彼にとっての最高の戦略はアメリカに「安乗り」(チープライド)することだ。
●アメリカは、彼らをスンニと戦わせて和解させ、イラク軍を強化してインフラを再構築し、イラクに国としてのまとまりをつけさせて国力を上げさせるべきである。
●私を含む何人かの人々は、アメリカの撤退後にマリキ首相はアメリカへの「安乗り」を止めて、スンニ側に近寄り、アメリカが抜けた穴を埋める働きをしてくれるのではないかと考えていた。ところがものごとはその通りに行かなかった。
●もちろん証明はできないのだが、私は「状況が悪くなればアメリカかイランが助けに来てくれる」とマリキ首相が考えていたのではないかと疑っている。
●たしかにこれはありえそうな話だ。もしそうだとしたら、現在「マリキはイラク国内をまとめる努力をすべきだ」と考えている人々は完全にナイーブであることになってしまう。マリキ首相は外からの援助を受けるためだったらでまかせでも何でも言う、ということだ。彼自身は何もできないのである。
●また、彼の過去の行動パターンを見てもわかるように、「少しは妥協の用意がある」という声明を発表しても、スンニ派にとってはまったく信頼できない。
●他にも、「抑制」戦略の人間は、軍事力に対して一定の敬意を払っていることが挙げられる。彼らは無人機や精密兵器、飛行機などについては他の人々と同じように尊重している。
●もちろんたった一回の攻撃を映した映像――ミサイルが建物に命中して火花を上げ、悪い奴を排除している様子――というのは奇妙なほど安心感を与えてくれるものだが、それでも戦争は戦争であり、それはメスの一切りではなく、斧を振り回す戦いなのだ。ひとたび斧が振り回されはじめると、そこには意図しなかった結果が生じる可能性が出てくる。
●もしアメリカがイラク軍がモスルやその他の都市の奪還を航空支援を提供することによって援助すれば、そこに住むスンニ派の人々のアメリカに対する感情は悪化するだろう。またもしアメリカがこのような航空支援や情報を提供すれば、イラク軍自体も成長することはないのだ。
●このような状況は、アメリカの国益にとっても致命的だ。スンニ派のすべての人々は、アメリカがイラクにおけるシーア派の覇権を助けていると知ることになるから。もしアメリカ市民の安全に関心があるのであれば、アメリカがこのような役割を果たすのは賢明だとはいえない。
●イラクとシリアにまたがって存在するISISの「国家」は、西側のターゲットを攻撃することを目論んでいるイスラム系のテロリストに「聖域」を与えることになるかもしれない(ただし現時点ではこれがISISの計画に入っているという兆候はほとんどないが)。
●実際のところ、「ISISスタン」はよい根拠地にもならないし、安全を確保できるものでもない。彼らには国際的な空港や港もないし、その隣国である、ヨルダン、アサド政権のシリア、トルコ、イラン、クルド自治区、シーア派が中心のイラクなどから協力を得ることは難しいだろうし、彼らとは実際に敵対しているのだ。また、それらの国々の間を行き来するのも難しいだろう。
●地域におけるISISの野望を考慮すれば、これらの隣国たち(それぞれ国境を往来する過激を警戒している)との関係がさらに悪化することが予測される。
●さらにはスンニ派も孤立してしまえば自滅する運命にあるし、その中にはさらに過激な勢力と手を組もうとする勢力が出てくる可能性がある。
●アメリカはこれらのどの勢力にも肩入れすべきではない。どこかに肩入れして、たとえばインテリジェンスを提供してしまえば、その情報が世界中に知れ渡ることになり、逆にアメリカに対してその情報が使われてしまうことにもなりかねないのだ。
●もちろんアメリカはイラクのために戦って血を流したために、その戦闘を支持する人々の中には、以前と同じ達成不可能な目標をさらに追及しようとする人がいることは理解できる。
●このような目標にはリベラルな民主制の、宗教派閥で分裂していないイラクの建設などが含まれるのだが、これは海外で改革計画を推し進めようとする情熱を共有しているアメリカの民主・共和の両党の対外政策担当者たちにとっては好ましいものとなる。
●ところがこのような目標は、アメリカにとっての「致命的に重大な国益」とはならない。これをいいかえれば、これらはアメリカが多数の命を奪ったり失なったりしてまで達成したい国益ではないということだ。
●しかもこれらは何をしてもおそらく実現不可能なものばかりである。事実上の分断状態こそが、唯一受け入れ可能な結末だからだ。
●最後に、われわれがアメリカ国民の意見としてわかるのは、オバマ大統領が選ばれた時の民意はイラクから撤退することにあったということだ。彼はイラク撤退を公約して大統領になったのだ。
●「抑制」を推進する人々の議論は、イラクで新たに軍事介入をするのは不要であり、賢明でもないというものだが、その他にも、われわれは「これが民主的な形で表明されたアメリカ国民の考えに沿ったものかどうか」という点を考慮しなければならない。
●国内の民主制から生まれた意見を無視して、海外の分断された暴力的な社会で無駄な目標を追い求めるのは実に奇妙なことと言えるからだ。
===
このポーゼンの「抑制」という大戦略の考え方は、基本的に「オフショア・バランシング」に近い考え方ですね。
ただし新刊のほうを読むと、オフショア・バランシングの「オ」の字も書いていませんが(苦笑
そういえば新たに「イラク3分割案」も出てきておりますし、米国の中でもこれくらいの撤退だったらOKという雰囲気が出てきていることは注目ですね。なんだかベトナム末期化してきました。


http://ch.nicovideo.jp/strategy

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal
さて、一昨日のエントリーの続きを。

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「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン
●「抑制」戦略を進める戦略家たちは、現地の政治家たちのことを、自らの持つ「武器」と共に知的に国益を追及する「戦略的アクター」だと考える。
●このような時に使われる「武器」の一つが「ウソ」である。
●「サージ」が行われている時期に、アメリカはマリキ政権がスンニ派と手打ちをするために多くの障害を越えなければならないと主張していたのだが、マリキ自身はこれらのことに「努力する」と言っていた。つまり彼は、アメリカ側が聞きたいことを言ったのだ。
●米国防省は連邦議会からイラクの状況における「進展」を年四回報告するように義務付けられていたのだが、これらを読んでみると、政治・経済の部分の報告の内容はひどいもので、ほとんど進展などはなく、さらには米軍がイラクから2011年12月に撤退してからは、その報告書さえ出なくなっている。
●多数派であるシーア派の支援を受けているマリキ首相は、なぜスンニ側に歩み寄ろうとしないのであろうか?彼にとって話し合いの場ができることは理に叶うのに、
●ところがイラクでは「アイデンティティ政治」が強烈であるために、話し合いを実行することはできないのであり、彼は言ったことを実行するつもりはない。彼にとっての最高の戦略はアメリカに「安乗り」(チープライド)することだ。
●アメリカは、彼らをスンニと戦わせて和解させ、イラク軍を強化してインフラを再構築し、イラクに国としてのまとまりをつけさせて国力を上げさせるべきである。
●私を含む何人かの人々は、アメリカの撤退後にマリキ首相はアメリカへの「安乗り」を止めて、スンニ側に近寄り、アメリカが抜けた穴を埋める働きをしてくれるのではないかと考えていた。ところがものごとはその通りに行かなかった。
●もちろん証明はできないのだが、私は「状況が悪くなればアメリカかイランが助けに来てくれる」とマリキ首相が考えていたのではないかと疑っている。
●たしかにこれはありえそうな話だ。もしそうだとしたら、現在「マリキはイラク国内をまとめる努力をすべきだ」と考えている人々は完全にナイーブであることになってしまう。マリキ首相は外からの援助を受けるためだったらでまかせでも何でも言う、ということだ。彼自身は何もできないのである。
●また、彼の過去の行動パターンを見てもわかるように、「少しは妥協の用意がある」という声明を発表しても、スンニ派にとってはまったく信頼できない。
●他にも、「抑制」戦略の人間は、軍事力に対して一定の敬意を払っていることが挙げられる。彼らは無人機や精密兵器、飛行機などについては他の人々と同じように尊重している。
●もちろんたった一回の攻撃を映した映像――ミサイルが建物に命中して火花を上げ、悪い奴を排除している様子――というのは奇妙なほど安心感を与えてくれるものだが、それでも戦争は戦争であり、それはメスの一切りではなく、斧を振り回す戦いなのだ。ひとたび斧が振り回されはじめると、そこには意図しなかった結果が生じる可能性が出てくる。
●もしアメリカがイラク軍がモスルやその他の都市の奪還を航空支援を提供することによって援助すれば、そこに住むスンニ派の人々のアメリカに対する感情は悪化するだろう。またもしアメリカがこのような航空支援や情報を提供すれば、イラク軍自体も成長することはないのだ。
●このような状況は、アメリカの国益にとっても致命的だ。スンニ派のすべての人々は、アメリカがイラクにおけるシーア派の覇権を助けていると知ることになるから。もしアメリカ市民の安全に関心があるのであれば、アメリカがこのような役割を果たすのは賢明だとはいえない。
●イラクとシリアにまたがって存在するISISの「国家」は、西側のターゲットを攻撃することを目論んでいるイスラム系のテロリストに「聖域」を与えることになるかもしれない(ただし現時点ではこれがISISの計画に入っているという兆候はほとんどないが)。
●実際のところ、「ISISスタン」はよい根拠地にもならないし、安全を確保できるものでもない。彼らには国際的な空港や港もないし、その隣国である、ヨルダン、アサド政権のシリア、トルコ、イラン、クルド自治区、シーア派が中心のイラクなどから協力を得ることは難しいだろうし、彼らとは実際に敵対しているのだ。また、それらの国々の間を行き来するのも難しいだろう。
●地域におけるISISの野望を考慮すれば、これらの隣国たち(それぞれ国境を往来する過激を警戒している)との関係がさらに悪化することが予測される。
●さらにはスンニ派も孤立してしまえば自滅する運命にあるし、その中にはさらに過激な勢力と手を組もうとする勢力が出てくる可能性がある。
●アメリカはこれらのどの勢力にも肩入れすべきではない。どこかに肩入れして、たとえばインテリジェンスを提供してしまえば、その情報が世界中に知れ渡ることになり、逆にアメリカに対してその情報が使われてしまうことにもなりかねないのだ。
●もちろんアメリカはイラクのために戦って血を流したために、その戦闘を支持する人々の中には、以前と同じ達成不可能な目標をさらに追及しようとする人がいることは理解できる。
●このような目標にはリベラルな民主制の、宗教派閥で分裂していないイラクの建設などが含まれるのだが、これは海外で改革計画を推し進めようとする情熱を共有しているアメリカの民主・共和の両党の対外政策担当者たちにとっては好ましいものとなる。
●ところがこのような目標は、アメリカにとっての「致命的に重大な国益」とはならない。これをいいかえれば、これらはアメリカが多数の命を奪ったり失なったりしてまで達成したい国益ではないということだ。
●しかもこれらは何をしてもおそらく実現不可能なものばかりである。事実上の分断状態こそが、唯一受け入れ可能な結末だからだ。
●最後に、われわれがアメリカ国民の意見としてわかるのは、オバマ大統領が選ばれた時の民意はイラクから撤退することにあったということだ。彼はイラク撤退を公約して大統領になったのだ。
●「抑制」を推進する人々の議論は、イラクで新たに軍事介入をするのは不要であり、賢明でもないというものだが、その他にも、われわれは「これが民主的な形で表明されたアメリカ国民の考えに沿ったものかどうか」という点を考慮しなければならない。
●国内の民主制から生まれた意見を無視して、海外の分断された暴力的な社会で無駄な目標を追い求めるのは実に奇妙なことと言えるからだ。
===
このポーゼンの「抑制」という大戦略の考え方は、基本的に「オフショア・バランシング」に近い考え方ですね。
ただし新刊のほうを読むと、オフショア・バランシングの「オ」の字も書いていませんが(苦笑
そういえば新たに「イラク3分割案」も出てきておりますし、米国の中でもこれくらいの撤退だったらOKという雰囲気が出てきていることは注目ですね。なんだかベトナム末期化してきました。


http://ch.nicovideo.jp/strategy

https://www.youtube.com/user/TheStandardJournal
by masa_the_man
| 2014-06-26 00:13