ポーゼン:アメリカはイラクで何もするな1
2014年 06月 24日
さて、メルマガのほうでも触れた、バリー・ポーゼンのイラクに関する意見記事を。
彼の新刊が出たちょうどいいタイミングで、イラクへの再介入問題が浮上してきました。

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「イラクで何もするな」論
byバリー・ポーゼン
●「またか」である。世界のどこかで危機が起こると、アメリカの知識人たちは必ず政府に何らかの「行動」を促すものであり、それは大抵の場合が軍事的なものだ。そしてその声は「ただ黙って見ているだけじゃなくて何か爆撃しろ!」となる。
●二〇年以上間続いたアメリカの圧倒的な覇権状態のおかげで、ワシントン中のパソコンのキーボードは、まるで「地球の裏側まで介入せよ」とプログラムされているように見える。
●そして今回はイラクなのだが、ここの政府は、スンニが多数派を占める地域において実質的なコントロールを失っている。ISISはイラクの中で不満を持つスンニをまとめる勢力から、特定の地域では軍備も優れたイラク政府軍を圧倒するような勢力になってきている。
●このような状況を、アメリカの知識人たちはイデオロギーの左右関係なく「米国の致命的な国益が脅かされている」と見ており、オバマ大統領に「戦闘機や爆撃機を飛ばせ」と要求している。
●ところがイラク侵攻から11年がたって現在の泥沼に直面している今、われわれはこのような事態をどのように考えればいいのだろうか?
●われわれは2003年に戦争開始を叫んで大災害を及ぼした時と同じ人々が主張する「攻撃すべき論」を聞くべきなのだろうか?
●イラクでの内戦の激化と事実上の分断化の確率の上昇は、第一の原則から検証されなければならない。アメリカは莫大な資金と人命を費やしてイラクを民主的な多民族国家として機能するように努力したのだが、この試みは失敗したのだ。われわれはまず現状分析からはじめなければならない。
●では現状はどういったものかというと、我々が新たなコストと新しい責務を負うように求められているということだ。ではこれで本当に成功する見込みはあるのだろうか?
●アメリカの学者、政策家、そして政治家の中には、私が出したばかりの著書の中で示した「抑制」(restraint)というアメリカの新しい大戦略についての見方に賛同する人々が、数は少ないながらも確実に増え続けている。
●われわれはアメリカが対外政策において「規律」を取り戻す必要があると考えている。この規律とは、優先順位をより厳格に設定し、さらに批判的な目でコストと成功のチャンスを計算するということだ。
●大戦略という用語については様々な議論がなされているが、私はこれを「不確実な世界においてアメリカの領土保全、主権、安全、そしてそれらを維持するために必要となる、パワーポジションを守るためのもの」と定義している。
●ではこれがイラクの場合にどう当てはめられるのだろうか?
●ISISが悪い奴らであることは間違いない。ところが「分断したイラク」は最悪の場合にはアメリカへの攻撃を考えるテロリストたちに「聖域」を与えることによって、アメリカの安全を脅かすことになる。
●世界というのは、悪い奴や「聖域」で溢れた場所なのだ。
●アメリカはこのようなテロリストたちをパキスタン、イエメン、そしてアフリカ中で様々な諜報機関などを通じて監視しており、時には彼らを急襲することもある。
●さらに重要なのは、アメリカがテロリストの脅しに対して「強靭化」したことだ。防御的な手段と監視、そして必要な時の急襲などの組み合わせによって、アメリカはかなりの量の「安全」を確保することができている。
●アメリカはイラクのマリキ首相に肩入れするべきではない。彼は権力欲にまみれたシーア派の優越主義者で、この派の人々の利害や安全しか頭にないからだ。
●マリキ首相が監視や投獄、そして暴力を激しく使っているために、スンニ派の中の中立的な立場の人々までISISの狂信主義者に傾かせることになっている。つまり、彼は問題を解決する人物ではなく、むしろ問題の原因そのものになっているのだ。
●このため、われわれはイラクの国内政治に干渉することについては慎重にならざるをえない。「抑制」戦略から考えれば、他国の国内政治へ介入するコストや、それが失敗する確率が高いという点に留意しなければならないからだ。
●そもそも問題なのは、そのタイミングや原因は不明ながら、「アイデンティティ政治」(identity politics)が世界中のほとんどで急増しているということだ。そしてこの現象は、おそらく冷戦終結の前から始まっていたとみられる。
●「アイデンティティ政治」というのは政治的な指導者が国家、民族、そして宗教的なアイデンティティを中心にして支持を集めるというものだ。
●ところがこの種の政治のやりかたというのは政治面での妥協をかなり難しくしてしまうものだ。政治的につくられたアイデンティティというのは、他集団に対する不信感や恐怖を植え付けるのだ。
●そして彼らは銃を持って自分たちにどのように生きるべきかを説く外国人(=アメリカ人)にはとくに抵抗を示すのだ。
●アメリカは他国の政治に介入してかなりのエネルギーを注いでいるのだが、その努力のほとんどは失敗に終わっている。それでもタイミングのよい小規模の介入はうまくいくこともある。
●「アイデンティティ政治」はアメリカにとって分断統治の政治を実行可能にしてくれるのだが、これが成功させるためには、アメリカが忍耐強く待ち、自分自身が問題にならないようにしながらチャンスをうかがう必要が出てくる。
●つくられたアイデンティティというのはたしかにある集団の統一感を生み出すのだが、その反対に集団間に深い分断状態をつくりだすこともある。そしてこれこそがチャンスをもたらすのだ。
●イラクを考えてみよう。スンニとシーアは互いに嫌っているのだが、同時にアメリカの保護も嫌っている。ところが彼らだけで放置されると、簡単に内紛を始めるようになる。
●イラクの「サージ」の伝説の中には、アメリカがうまくスンニを「覚醒」させて、彼らの多くをアメリカ側につかせたという話が含まれている。頭の良い外交官や司令官であったら、残存する分裂を利用することを考えるものだ。
●イラクのスンニは外国のジハード系の人々(イスラム教によって地元の事情を越えられると考えている人々)と手を結んだ。これが今日の状況では何を意味するのだろうか?
●バグダッドのシーア派政権に積極的に参加することを考えている人々にとって賢明な戦略とは、スンニ側の市民とジハード側との一時的な同盟関係が崩壊するのをじっと待つというものだ。
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この続きはまたのちほど。
明日の夜は2000時からまた放送します。


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