ザカリア:習近平の「モンロー宣言」とサイバー戦争 |
さて、元オフェンシブ・リアリストで現在はCNNの国際政治ニュース番組のホストを務めておりますファリード・ザカリアが面白い記事を書いておりましたので、その要約を。
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中国のネット上でのスパイ活動は21世紀の新しい問題か
Byファリード・ザカリア
●プーチン大統領は、伝統的な国力を押し出して望みを実現する、いわゆる「19世紀型」の国家のリーダーかもしれない。それに対して中国の習近平国家主席は、19世紀型と21世紀型の両方の戦術を使うことにたけていることが段々と明らかになってきた。
●まず19世紀式の観点から見てみよう。今週締結された中露間での天然ガスの取引に関する条約は、レアルポリティーク(権力政治)という観点からは完全に理解できるものだ。
●北京はエネルギーの供給を確保しようと長年努力しているし、ロシアのクリミア併合や国際社会の侵略には反対するという規範よりも、自国の国益を優先させたのである。
●実際のところ、中国はロシアが経済制裁に直面しつつあり、ヨーロッパの顧客にこれ以上依存せずに供給を分散したいと熱望していることをしっかりと見極めていた。だからこそ北京はよい条件で締結できたのだ。
●この天然ガス取引の合意はたしかに注目を集めているが、習近平がその締結と同じ日に上海で行ったスピーチについても注目すべきであろう。このアジアの国々を集めた地域会合にはトルコ、イラン、そしてロシアの代表が招かれていたが、アメリカは招かれていなかった。
●ここでの彼のメッセージは「アジア人は自らの手で安全保障を支えるべきだ」というものだった。彼は大陸に干渉してくる「外部の勢力」に対してやんわりと脅しを表明した。
●彼は「他人のランタンの火を吹き消そうとするものは、自分のヒゲを燃やすことになる」と言っている。
●彼はこの地域における中国の視点を表明しており、アメリカが好む「アジア太平洋」ではなく、「アジア」と呼んでいる。これによって示唆されたのは、「外部の勢力」であるワシントンは、大陸の事に関して大きな役割を果たすべきではない、ということだった。
●また、習近平はアジア諸国に対して「第三者を狙うような軍事同盟を強化すべきではない」と述べている。これは明らかにアメリカと軍事協力を拡大しているフィリピンを指摘したものだ。
●これはまさにパワー・ポリティクスだ。ところがわれわれが今週目撃したのは、新たな大国の陰謀の世界である。
●米司法省は中国軍の五人の高官を訴追して、彼らが米国の企業に対して8年間行っていたとされる経済スパイを公表したのだ。このような動きは、とくに彼らが逮捕されることはないし、さらには中国を離れることもないという意味においては、全く前例のないものである。
●ではなぜ米政府はわざわざこのようなことを行ったのだろうか?今週の水曜日に外交評議会で行われた講演の席で、前国防長官であるロバート・ゲーツは、この狙いは3つあるとしている。
1,米国の企業に対して「ネットからの秘密漏洩を気をつけるように!」と警告する。
2,中国側に対して「米政府はこの件に関して本格的に問題視し始めたぞ!」と警告する。
3,米国民に対して「政府はこの問題に真剣に取り組み始めましたよ!」と知らせる。
●ここで問題なのは、これに効果があるとは誰も考えていないことだ。
●中国側はまずこれを全否定しており、これに関しては「中国軍はいかなるサイバースパイ活動は行っていない」という全く信頼性のないコメントを出しただけだ。
●指摘された軍の高官たちは、いかなる制裁にも直面することはないと見られており、むしろこの指摘を名誉であると考えることもありえるほどだ。
●何人かの専門家は、中国のサイバースパイ活動の規模は、他の国のものとスケールが違いすぎると指摘しているほどだ。ブルッキングス研究所のピーター・シンガーは、私のインタビューに対して「人類史上最大の窃盗ですね」と答えてくれた。
●その一例として、彼はアメリカが最先端の兵器システムであるF-35の開発に一兆ドルをつぎ込むことになっているにもかかわらず、「その部分のいくつかは、中国の似たような兵器の開発に使われています。そのため、15年分の戦場での優位は完全に意味がなくなりました」と述べている。
●そして彼は、中国側のターゲットは、国防関連企業から、椅子のデザインが盗まれて一年以内にコピーされてしまう家具の製造会社まで、実に多岐にわたることを指摘している。
●サイバー攻撃は、グローバル化と情報革命によって加速化されている新しいカオス的な世界の一部である。ネットワーク化された世界では、政府と民間人、国家・国際、窃盗と戦いの間の垣根をあいまいにする活動を遮断するのはかなり難しい。
●そしてこれは、伝統的な国家安全保障のメカニズムの使用だけでは実行できないことが確実だ。ここで注意してもらいたいのは、本来なら国家安全保障の問題について、ワシントンが司法的な手段をとっているという点だ。しかもこれには効果がなく、主にシンボル的なものでしかない。
●米中の天然ガスのニュースでもわかるように、伝統的な地政学はまだ生き続けていることがよく分かる。ただし米政府は同盟国と共に世界をどう動かしていくかはわかっているが、サイバーによるスパイ活動というのは全く新しいフロンティアであり、誰もこの領域の問題をどう解決していけばいいのかわかっていない。
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ゲーツ前国防長官やピーター・シンガーのコメントは、アメリカ側がいよいよ中国を問題視してきたという意味で注目すべきものですね。
しかし習近平がここまであからさまな「モンロー宣言」しているとは思いませんでした。
http://ch.nicovideo.jp/strategy