2014年 05月 25日
ルトワックによる米艦船カウペンスのニアミス事件分析 |
今日の横浜北部は朝晴れておりましたが、午後に入ってから雲が出てきました。
さて、中国軍機が自衛隊機へ異常接近した事件が発生しましたが、これに関して参考になる米艦船カウペンスと中国軍の艦船のニアミス事件について、戦略家ルトワックが分析したものを要約します。
ちなみにこの記事は今年の最初にウォールストリートジャーナル紙に掲載されたものです。
===
中国のリスクある軍事冒険主義
byエドワード・ルトワック
●米国防省長官のチャック・ヘーゲルは、すでに大々的に報道されている、去年12月5日に発生した米艦船カウペンスと中国の軍艦とのニアミス事件――これは中国側が意図的に90メートル近くまで接近して行く手を妨げようとしたもの――があったことを認めた。
●ちなみに90メートルというのは、船同士では衝突寸前の超危険な距離である。
●この事件は明白な疑問を投げかけるものだ。その疑問とは、「中国側の指揮官は、米艦船との事故を引き起こすような行動をよいアイディアだと思ったのだろうか?」というものだ。
●ここから明白なのは、現在の中国海軍の士官たちには、「たとえそれが人命に至る事故を起こすようなものであっても挑発的に行動したい」というインセンティブを持っているということだ。
●これと同じことは他の場所でも見られる。たとえば陸軍は蘭州軍管区の指揮官は今年の4月にジャンムー・カシミール州のラダック地方の要害を占領しているが、インド側が公式訪中をキャンセルすると警告してから撤退している。
●また、中国の海警が、日本の実効支配している尖閣諸島に侵入を繰り返していることも同じだ。
●冷戦時代はこのようなことは起こらなかった。たしかに米ソ間では航空機や艦船は互いに何度も遭遇しているし、ベルリン中央部の有名な「チェックポイント・チャーリー」では、兵士がにらみ合いをしているが、それが事故につながった例は少なかった。
●その理由は、ソ連の士官にとって「冒険主義」というのはキャリアを終わらせるほどの厳しい処罰を課せられるものであったからだ。
●ところが中国の場合はそれが正反対で、党のリーダーたちが軍事的な冒険主義を積極的に勧めているのだ。政府にコントロールされたメディアはこれを賞賛しているのであり、われわれはこの理由を問うべきだ。なぜなら、これは結局中国のリーダーたちにとって、リスクの大きいことだからだ。
●米艦船カウペンスは中国の最初の空母である遼寧を公海から監視していたのだが、この船団は強力な米空母や潜水艦たちにとって狙いやすい単なる標的にすぎないものだ。今回のニアミス事件の当事者のカウペンスも、排水量一万トン近くの巨大なミサイル巡洋艦である。
●さらに中国側にとって危険なのは、海上自衛隊がその気になれば、尖閣周辺に侵入してくる中国側の海警の艦船や軍艦、さらには遼寧の船団全部も簡単に沈められるという点だ。
●最も頭の悪い10代の少年でも、大きなトラックにむかって子供用のスクーターに乗りながらチキンレースをしかけて遊ぶようなことはしないものだ。
●ではなぜ中国のリーダーたちは屈辱的な敗北を冒すようなリスクを軍人たちに認めているのだろうか?
●この答えは、これよりも遥かに大きな文脈、つまり1978年に鄧小平によって進められた「平和的台頭」が2008年に破棄されたということの中にある。
●ちなみに「平和的台頭」は、2003年に鄭必堅(Zheng Bijian)によって説明されるまで公式には表明されなかったと考えられている。
●「平和的台頭」についての彼らの議論はシンプルだった。誰にも脅威を与えず、静かに行動して、経済的な台頭の環境づくりのために台湾を攻撃せず、これによって貿易関係に害を与えなければ、海外からの投資も呼びこむことができる、というものだ。
●この政策は目覚ましい成功を収めた。なぜならアメリカが中国の経済発展を積極的に推し進めてくれたからであり、これに他国も続いたからだ。
●ところが2008年にすべてが変わった。
●金融危機のおかげで、アメリカのパワーがすぐに崩壊すると読み違えた中国は、長年主張するのをやめていた突然インド領内のアルナチャル・プラデシュ州内のほとんどの領有権の主張を復活させ、 日本の親中派の政治家たちを拒絶して、尖閣を要求しはじめたのだ。
●また、南シナ海の広大な海域において「九段線」を主張しており、これはフィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、そしてベトナムなどの排他的経済水域にかぶるものであった。ちなみにこれらの要求は現在の中国のパスポートにも反映されており、ここに印刷されている地図には、韓国の水域も含まれているほどだ。
●中国側からの圧力を感じている7つの国々は、当然のように反中で(少なくとも外交的には)まとまっており、いくつかのケースでは、そのまとまりかたが決定的なものもある。たとえばインド・日本・ベトナムという非公式の同盟関係が、ベトナムに近代的な潜水艦を供給するというものだ。
●中国の突然の防空識別圏(日本と韓国のそれと重なっている)の主張は、困難な状況にあった日韓関係を改善させる方向に向かわせているのだ。
●中国のリーダーたちは、韓国からインドまで続く反中同盟の台頭に直面していることに不満を述べており、この原因はアメリカにあると非難している。
●ところが有名な「アジアへの軸足移動」(ピボット)にもかかわらず、この原因は周辺国を反中に仕立て上げた米国務省の悪意にあるわけではなく、中国自身がそれぞれの国々に対して要求してきたことにあるのだ(ただし防空識別圏の一件の後でも、たとえば日本は中国の日常的な脅しに対抗する意味で国防費を上げるべきではないだろう)。
●専門家の中には、「中国が長期的な視点で賢い体系的な脅しを行っている」と見ている人もいる。
●ところが別の人々は「1カ国ずつではなく、7カ国も同時に喧嘩を売るのは賢いとはいえない」と主張している。
●また、相対的な国力が上がっているためみんなを警戒させている国が、わざわざ早い段階から反中同盟を作らせてしまい、しかも彼らに中国からの輸入製品をボイコットさせるような行動するというのはどう考えても合理的ではない。
●中国の共産党の指導者たちは大規模で活力のある経済を管理する能力があることを証明してきたし、彼らの民衆の抑圧は上手く、目に見える残虐さは最小限に留められてきた(少数民族のものは除く)ため、彼らが対外政策においても同じくらい上手く立ちまわるはずだという想定はたしかにできる。
●ところがこれまでの証拠でわかっているのは、役に立たないナショナリズムと軍国主義の勃発の長期化であり、不吉なことに、これは第一次大戦前のドイツの姿と重なるところがある。
●当時のドイツは最高の大学と最も先進的な産業と、最高の銀行を持っており、唯一欠けていたのは、「平和的台頭」を続けるという戦略の知恵だけだったのだ。
===
ルトワックのこの分析が本当だとすると、今回の中国軍機の異常接近事件も「北京中央政府の統制のとれていない現場の暴走」ということになりますね・・・・。
「戦術は巧みだが大戦略がまったくなっていない中国」というのは、最近のフィリピンやベトナムの一件でもなんとなく実感されつつある今日この頃。


http://ch.nicovideo.jp/strategy
さて、中国軍機が自衛隊機へ異常接近した事件が発生しましたが、これに関して参考になる米艦船カウペンスと中国軍の艦船のニアミス事件について、戦略家ルトワックが分析したものを要約します。
ちなみにこの記事は今年の最初にウォールストリートジャーナル紙に掲載されたものです。
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中国のリスクある軍事冒険主義
byエドワード・ルトワック
●米国防省長官のチャック・ヘーゲルは、すでに大々的に報道されている、去年12月5日に発生した米艦船カウペンスと中国の軍艦とのニアミス事件――これは中国側が意図的に90メートル近くまで接近して行く手を妨げようとしたもの――があったことを認めた。
●ちなみに90メートルというのは、船同士では衝突寸前の超危険な距離である。
●この事件は明白な疑問を投げかけるものだ。その疑問とは、「中国側の指揮官は、米艦船との事故を引き起こすような行動をよいアイディアだと思ったのだろうか?」というものだ。
●ここから明白なのは、現在の中国海軍の士官たちには、「たとえそれが人命に至る事故を起こすようなものであっても挑発的に行動したい」というインセンティブを持っているということだ。
●これと同じことは他の場所でも見られる。たとえば陸軍は蘭州軍管区の指揮官は今年の4月にジャンムー・カシミール州のラダック地方の要害を占領しているが、インド側が公式訪中をキャンセルすると警告してから撤退している。
●また、中国の海警が、日本の実効支配している尖閣諸島に侵入を繰り返していることも同じだ。
●冷戦時代はこのようなことは起こらなかった。たしかに米ソ間では航空機や艦船は互いに何度も遭遇しているし、ベルリン中央部の有名な「チェックポイント・チャーリー」では、兵士がにらみ合いをしているが、それが事故につながった例は少なかった。
●その理由は、ソ連の士官にとって「冒険主義」というのはキャリアを終わらせるほどの厳しい処罰を課せられるものであったからだ。
●ところが中国の場合はそれが正反対で、党のリーダーたちが軍事的な冒険主義を積極的に勧めているのだ。政府にコントロールされたメディアはこれを賞賛しているのであり、われわれはこの理由を問うべきだ。なぜなら、これは結局中国のリーダーたちにとって、リスクの大きいことだからだ。
●米艦船カウペンスは中国の最初の空母である遼寧を公海から監視していたのだが、この船団は強力な米空母や潜水艦たちにとって狙いやすい単なる標的にすぎないものだ。今回のニアミス事件の当事者のカウペンスも、排水量一万トン近くの巨大なミサイル巡洋艦である。
●さらに中国側にとって危険なのは、海上自衛隊がその気になれば、尖閣周辺に侵入してくる中国側の海警の艦船や軍艦、さらには遼寧の船団全部も簡単に沈められるという点だ。
●最も頭の悪い10代の少年でも、大きなトラックにむかって子供用のスクーターに乗りながらチキンレースをしかけて遊ぶようなことはしないものだ。
●ではなぜ中国のリーダーたちは屈辱的な敗北を冒すようなリスクを軍人たちに認めているのだろうか?
●この答えは、これよりも遥かに大きな文脈、つまり1978年に鄧小平によって進められた「平和的台頭」が2008年に破棄されたということの中にある。
●ちなみに「平和的台頭」は、2003年に鄭必堅(Zheng Bijian)によって説明されるまで公式には表明されなかったと考えられている。
●「平和的台頭」についての彼らの議論はシンプルだった。誰にも脅威を与えず、静かに行動して、経済的な台頭の環境づくりのために台湾を攻撃せず、これによって貿易関係に害を与えなければ、海外からの投資も呼びこむことができる、というものだ。
●この政策は目覚ましい成功を収めた。なぜならアメリカが中国の経済発展を積極的に推し進めてくれたからであり、これに他国も続いたからだ。
●ところが2008年にすべてが変わった。
●金融危機のおかげで、アメリカのパワーがすぐに崩壊すると読み違えた中国は、長年主張するのをやめていた突然インド領内のアルナチャル・プラデシュ州内のほとんどの領有権の主張を復活させ、 日本の親中派の政治家たちを拒絶して、尖閣を要求しはじめたのだ。
●また、南シナ海の広大な海域において「九段線」を主張しており、これはフィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、そしてベトナムなどの排他的経済水域にかぶるものであった。ちなみにこれらの要求は現在の中国のパスポートにも反映されており、ここに印刷されている地図には、韓国の水域も含まれているほどだ。
●中国側からの圧力を感じている7つの国々は、当然のように反中で(少なくとも外交的には)まとまっており、いくつかのケースでは、そのまとまりかたが決定的なものもある。たとえばインド・日本・ベトナムという非公式の同盟関係が、ベトナムに近代的な潜水艦を供給するというものだ。
●中国の突然の防空識別圏(日本と韓国のそれと重なっている)の主張は、困難な状況にあった日韓関係を改善させる方向に向かわせているのだ。
●中国のリーダーたちは、韓国からインドまで続く反中同盟の台頭に直面していることに不満を述べており、この原因はアメリカにあると非難している。
●ところが有名な「アジアへの軸足移動」(ピボット)にもかかわらず、この原因は周辺国を反中に仕立て上げた米国務省の悪意にあるわけではなく、中国自身がそれぞれの国々に対して要求してきたことにあるのだ(ただし防空識別圏の一件の後でも、たとえば日本は中国の日常的な脅しに対抗する意味で国防費を上げるべきではないだろう)。
●専門家の中には、「中国が長期的な視点で賢い体系的な脅しを行っている」と見ている人もいる。
●ところが別の人々は「1カ国ずつではなく、7カ国も同時に喧嘩を売るのは賢いとはいえない」と主張している。
●また、相対的な国力が上がっているためみんなを警戒させている国が、わざわざ早い段階から反中同盟を作らせてしまい、しかも彼らに中国からの輸入製品をボイコットさせるような行動するというのはどう考えても合理的ではない。
●中国の共産党の指導者たちは大規模で活力のある経済を管理する能力があることを証明してきたし、彼らの民衆の抑圧は上手く、目に見える残虐さは最小限に留められてきた(少数民族のものは除く)ため、彼らが対外政策においても同じくらい上手く立ちまわるはずだという想定はたしかにできる。
●ところがこれまでの証拠でわかっているのは、役に立たないナショナリズムと軍国主義の勃発の長期化であり、不吉なことに、これは第一次大戦前のドイツの姿と重なるところがある。
●当時のドイツは最高の大学と最も先進的な産業と、最高の銀行を持っており、唯一欠けていたのは、「平和的台頭」を続けるという戦略の知恵だけだったのだ。
===
ルトワックのこの分析が本当だとすると、今回の中国軍機の異常接近事件も「北京中央政府の統制のとれていない現場の暴走」ということになりますね・・・・。
「戦術は巧みだが大戦略がまったくなっていない中国」というのは、最近のフィリピンやベトナムの一件でもなんとなく実感されつつある今日この頃。


http://ch.nicovideo.jp/strategy
by masa_the_man
| 2014-05-25 15:06
| 日記

