戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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再掲:COINの保守派と十字軍派、その1

今日の横浜北部は朝から小雨が続いております。

午前中に某幹部学校で講演してきましたが、三時間連続だったのでさすがに疲れました。明日も三時間がんばります。

さて、以前のイギリス留学時代のエントリーを、自分の勉強がてらにここに再掲します。ランドパワーの理論について参考になるものがありましたので。

肩書などはいずれも当時(2008年10月)のものであることをご留意いただければ。

===

すでにお知らせしたように、ここ二日間は、うちの大学の学部がイギリス国防省と共催した「対暴動」(Counter Insurgency: COIN)の戦略についてのセミナーに参加しました。

参加者はなかなか豪華で、現役の英陸・海軍のジェネラル(将軍)や、キングスカレッジの教諭たち、そしてアメリカから数人の国防知識人が来ておりました。

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(会場の様子)

中でも個人的に注目だったのは、ここでも先日ご紹介したジョン・ネーグル(John A. Nagl)です。

このネーグルという人物は、世界の戦略学の生徒たちの間では名前を知らない人はいないと言われるほど有名人なんですが、その理由は彼が現在のイラク戦争におけるペトレイアス将軍のブレーンだからです。

彼は陸軍士官でありながらローズ奨学生としてオックスフォード大学でイギリスのマレー半島の対暴動の活動を詳細に研究した博士号論文を書きました。

その論文を本にしたのがこれ↓であり、すでに世界中の戦略学の生徒や国防計画作成関係者たちにとって必読文献となっております。

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Learning to Eat Soup with a Knife: Counterinsurgency Lessons from Malaya and Vietnam
by John A. Nagl

本ブログでは、今月号のアトランティック誌でアンドリュー・ベイセヴィッチが書いた米陸軍周辺で行われている議論における一方の論客(クルセーダース)、と言えばおわかりいただけるでしょうか。

二日目の今日は、この人が午前中のセミナーの最後の発表者だったわけですが、面白いことに私の先生がこのネーグルに質問して噛み付くような場面があったのです(笑

これはどういうことかというと、ネーグルに代表される「クルセーダース」と、ジェンティールに代表される「保守派」の、いわば「代理論争」が、運の良いことに私の目の前で繰り広げられたということなのです。
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(代理論争勃発の決定的瞬間)

もちろんネーグルは色々なところで発表しているので、パワーポイントを使っての説明には非常に手慣れた様子です。ただしあまりジョークを使わないので、若干湿った感じの発表になるのがやや気になりました。
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(発表を行うネーグル)

彼は発表開始直後から、自分とジェンティールとの論争が今月号のアトランティック誌でまとめて紹介されていることを指摘しつつ、現国防長官であるロバート・ゲーツのことを高く評価しながらその言葉を何度か引用して発表を進めました。

ネーグルは特にゲーツが陸軍に対して「もっと準備せよ」と厳しい表現を使った最近のスピーチを使いつつ、

「学習する組織としての米陸軍」(The U.S. Army as learning institution)

という概念を盛んに主張します。

そういえばビジネス戦略などでは日本の組織は戦略的に「学習派」(learning school)であるという指摘がありましたが、ネーグルはアメリカの陸軍こそがこうしなければならない、と言いたいらしいのです。

ここで彼が強調したのは、「適応」(adaptation) と「学習」( learning) は決定的に違う概念である、ということです。

なぜなら前者は瞬間的なものであり、過ぎてしまえば元に戻ってしまうことを示しているのに対して、後者のほうはその効果が恒常的で、その後の流れを完全に変えてしまうものだからです。

もちろんネーグルが目指しているのは、アメリカ陸軍が「学習」することなんですね。

ここからネーグルは米国空軍の天才パイロットであったジョン・ボイド(John Boyd)の概念である「OODAループ」は実は組織にも使えるものであるとして、やはり組織も学習すべきなのだと論じます。

そういえば欧米の戦略学の文献を読んでいると必ず見かける「作戦のスペクトラム」というのがあります。
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ネーグルはこれと全く同じような図をスライドで使いながら、

「現在の軍事作戦における戦闘(コンバット)の比率は少なくなった」

と主張しました。たしかにこの図だけ見ると、軍隊が戦うという機能は五つの柱の内の一つだけになってしまいます。

しかも彼はここで、この図でもわかるように、これらの全体のオペレーションを包み込む役割を果たしている「情報作戦」(information operation:大きい灰色の矢印)が決定的に重要である、と説いたのです。

ここですかさず会場からコメントが出たのですが、それは、

「情報作戦という名前はどうかねぇ」

というものでした。

ネーグルはつい先日も同じような指摘を受けたということを認めて「影響作戦」(influence operation)という名前にしたほうがいいかも知れない、と回答。

しかしここでまた大きな問題に直面します。それはこの「情報・影響作戦」を一体誰が行うのか、という問題なんですね。

このように問題のある概念が含まれていることを認めつつも、彼は自分の最も重要な主張を行います。それは

軍事的に勝つのではなく、総合的に勝たなければならない

というものです。

たしかに戦争では、軍事的に勝っていても政治的に負けているという例はいくらでもあります。だから最近の戦略学でも「正統性」(レジティマシー)の重要性がさかんに言われてきたわけです。

最後にネーグルは、現在のアフガニスタンの紛争で米陸軍は学んでいる最中であることを強調しつつ、

1、これからは対暴力(COIN)が陸の戦いの中心になる
2、陸軍は学習する組織にならなければいけない
3、陸軍は「長期戦争」にトランスフォーメーションさせていくべき

という三つの結論にまとめて話を終えております。

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この続きは明日掲載します。


Commented by えんき at 2014-04-21 22:06 x
『学習』と言えば、南オセチア紛争の時と比べて、クリミア介入でのロシア軍・報道機関の動きは実に効率的でしたね。
by masa_the_man | 2014-04-21 18:30 | 日記 | Comments(1)