戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ジェームス・ホームズ:「中国に沖縄取られたら」論③

昨日のホームズ論文の終わりの部分です。

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中国は日本の南西諸島を奪うかもしれない
BY ジェームス・ホームズ

●ところがファーネル氏が示しているように、北京政府は琉球諸島全部ではなく、その一部を確保しただけで講和したいと考えている可能性もある

彼らは外洋へのアクセスを熱望しており、諸島のすべてを獲得するよりは、戦略的に決定的に重要になる島を一つか二つ確保するほうがよいと考えているかもしれないのだ。

●航行可能な海峡の両側を占拠できれば、人民解放軍は太平洋と東シナ海をつなぐ航路を確保できるのだ。北京政府にとってはたった一つの通路さえ確保できれば満足かもしれないのであり、人民解放軍にとっては、日米同盟の包囲網に穴を空けることができれば大目標の達成となるかもしれない。

●また、これによって台湾のすぐ北側の地域に新しいポジションを得ることになり、北京政府にとっては「ならず者の省」である台湾に対して、大陸棚の海底に眠っている天然資源へのアクセスを確保しつつ、さらなる影響力を発揮できるようになるかもしれないのだ。このような動きから得られる戦略的面でのゲインは重大だと言えるかもしれない。

●このような展望は実に暗いものかもしれないが、私は何も「絶望しろ」と言いたいわけではない。日本とアメリカはただ座視しているだけの何もできない存在というわけではないからだ。

●戦略の「先生」であるカール・フォン・クラウゼヴィッツが言ったように、戦争というのは巨大なスケールで行われるレスリングの試合のようなものなのだ。そしてこのケースの場合、二人の力士が琉球諸島での優位を得ようとしている姿を想像してみてほしい。

●戦っている双方の側にとってはかならず「選択肢」というものがあり、地理と技術はどちらにも有利になったり不利になったりするものだ。たとえば海洋面での地理が中国の南側での優位を与えるものであるとすれば、東シナ海の海の地理は日本とアメリカにとって有利に働くものだ。

●実際のところ、人民解放軍が琉球諸島に侵攻するということは、同時に人民解放軍の部隊を、さらに強力な部隊のいる、沖縄や日本の本土に近づけることになる。つまり北の方に近づけば近づくほど、軍事バランスは逆に中国側に不利になっていく

●つまりこの時点で、日本とアメリカ側に有利になる。

●さらに言えば、人民解放軍の司令官は、マッカーサーとその仲間たちが、トラック諸島やラバウルのような大日本帝国の要害を通過したような形で、沖縄を通過することはできない。

●また、戦中の米軍の優秀だった人々がその困難さを証明したように、沖縄そのものを奪取することも簡単ではない。補給も少ない暑い敵地に上陸して戦うということは本当に厳しいことなのだ。

●HBOの「ザ・パシフィック」というテレビドラマを見れば、その厳しさがわかるかもしれない。
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●将来についていくつかの推測をさせて欲しい。琉球諸島の南部、つまり沖縄県南部というのは重大な危機にさらされている。中国沿岸部の陰にあり、人民解放軍と沖縄を守る側の間は等距離であり、防衛施設のようなものはほとんど存在しない。

●ここは日米同盟の防御地としては微妙な場所にあり、中国側の戦術家はこの点についてよく知っている。

●琉球諸島の北部というのはまた別の話だ。沖縄にある日米両軍の基地は、人民解放軍の北上を阻止することになる。そしていかなる北部への侵攻は日本の本土からの日米両軍の攻撃にさらされることになる。

●このような想定から考えると、日米同盟側が考えなければならないのは、沖縄を島伝いにくる人民解放軍の侵攻にたいする堤防としていかに機能させるかということであり、琉球諸島南部やその周辺の海域を人民解放軍の艦船や戦闘機などにとっての進入禁止区域にするということだ。

●ハードウェアの観点からすれば、これはミサイル駆逐艦のような華やかな艦船やヘリ空母よりは、潜水艦、そして対艦ミサイルを満載した敏捷で捉えられにくい警戒機のような、平凡にみえるプラットフォームに投資すべきであることになる。

●戦術面では、日米同盟がそのような攻撃をかわすことを主眼において設定されるべきであり、大規模な艦船を好むような傾向に引きずられてはならない

●もちろん中国の琉球諸島への突然の侵攻はまだ起こりそうもないことは確かだ。このような攻勢は軍事的にはたしかに成果をもたらすものになるのかもしれないが、北京政府は政治面での準備工作はほとんど行っていない。

まだ沖縄に対しては南シナ海で行っているような「紛うことなき主権」を宣言していないし、武力侵攻の可能性をちらつかせる台湾に対して行っているような「核心的利益」であるとも言っていない

●また、沖縄周辺には尖閣周辺に行っているような海警の艦船の派遣は行っていない。しかしそのような作戦は突然行われるようになる可能性も否定できない。

●さらにいえば、尖閣とは違って、琉球諸島には人が住んでいるのだ。そのような場所に侵攻することは非戦闘員を殺めることになり、国際社会からも強烈な反発を引き起こす可能性が大きい。

●結果として、島伝いの作戦というのは外交的にも経済的にも大きなコストを伴うものであり、それは人民解放軍の部隊が被る被害よりもはるかに大きくなるはずだ。これらの要因は中国指導部をためらわせることになるかもしれない。

●それでも勝利の熱狂の力を過小評価してはならない。もし中国が尖閣侵攻を成功させることができれば、軍事的勝利の勢いのまま、指導部が海上部隊に南西諸島を侵攻させて、中国の海洋面でのアクセス問題を一気に解消しようと考えないとはいえないのだ。

●北京は最小限のコストで大きな利益を得られる、「劇的で小規模な戦争」を実行できると勘違いしてしまうかもしれないのだ。

●日米両政府はそのような考えが誤りであることを、北京政府に対して指摘しなければならない。そして琉球諸島の海と空の守りを固めることにより、中国側が支払う島伝いの作戦を行うコストを莫大なものに引き上げることができるのだ。

●「先の用心」によって、琉球諸島を「まずそう」に見せることができる。そして注意深くなった中国というのは、全世界の人々にとっての利益になるのだ。

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なんというか、非常に「アメリカ式」な考え方ですよね。直線的というかなんというか。

北京政府が本気だったら、もう少し「超限戦」というか、プロパガンダ的なところをもっとプッシュしてくるかと。

まあそれでも「最悪のシナリオを考える」という作業は、国防にはどうしても必要になってくるわけで。


Commented by 読者f at 2014-04-12 20:59 x
常に事前にプロパガンダがあると思わせておくことは、
逆に奇襲の助けになりそうにも思います。
確かに、なんの目立つ準備もいらない、
少数の部隊で制圧できる状態が放置されていれば、
中国なら何かのきっかけで仕掛けてくるかもしれません。
世界が日本に構っていられないような出来事もきっとあるでしょうし・・
311の時、平常なら大変な騒ぎになるあちこちの巨大災害が、
殆ど報じられることすら無かったように。
奪還作戦も、時間とコストが上がれば上がるほど世界は現状を認めてしまうのは、
ウクライナでも明らかになったことですしね。
問題を複雑にされればされるほど、遠い国のことなら分からないで済まされてしまうでしょう。
ありもしない揉め事を作り出す事を得意にする、巨大な軍事力をアイデンティティとする隣人に狙われているというのは、
世界でも歴史的に見ても最悪の状態ではないでしょうか。
Commented by 仲村覚 at 2014-04-14 11:58 x
奥山先生
基調な論文の日本語訳ありがとうございました。
この論文の存在を知ったのですが、有料記事のためやっとで原文の記事を入手したところだったのですが、先生のこのブログにたどり着きました。

この論文は、軍事的観点からみると非常におもろいのですが、自分がずっとウォッチして警戒している琉球独立工作の観点が欠落しているので中国共産党の沖縄侵略すれば、ひとつの側面に関する情報という位置づけで大変参考になりました。

実際には、沖縄のマスコミ工作、政治工作はかなり進んでいて、沖縄への侵略の危機が高まると、沖縄からあがる声は、「防衛力強化!」「日米同盟強化!」ではなく、「米軍基地撤去」「東アジア共同体創設」や「尖閣諸島共同管理」そして、「琉球独立」の声が上がる環境が準備されています。敵はその仕上げを今年秋の知事選挙で実現し、沖縄県知事が政府を通り越して、2元外交するシナリオが描かれています。(既に名護市長は今月訪米予定。)

このような動きと、この論文を合わせて見ると、沖縄・日本が非常に危険な状態にあることが見えてきます。
Commented by 北村綾子 at 2014-04-23 09:06 x
はじめまして。
中国による沖縄の世論工作についてですが、確かに沖縄の2大新聞や
TVは中国のプロパガンダをそのまま流しているように見えます。
また、コアな「市民集会」も中国独立論を叫ぶ人間はいます。
しかし、私自身沖縄に長期間住んでいたのですが、地元の人の感覚は
もちろん日本政府に不平不満はあるとしても、中国に対する好感は
あまり見られません。
日本政府に対する不平不満も、「日本の一部としての沖縄」を前提として
子どもが親に文句を言っているような印象です。
ですので、中国が沖縄までを狙っているということを地元の人が理解すれば
世論は大混乱し、地元の人の意識は一気に反中になるように思うのです。
実際、尖閣に遠い本島は、尖閣問題にもどこかヒト事のような感じですが
離島世論は戦々恐々としていますし…
世界情勢や地政学的な正しい理解が普及すれば、沖縄からあがる声は
変わると思います。
Commented by 中山太郎 at 2014-04-24 10:30 x
北村さんのような冷静なコメントに大賛成です。世界情勢や地政学的な正しい理解がより普及してゆくことが、今の日本にはますます必要です。
by masa_the_man | 2014-04-11 10:54 | 日記 | Comments(4)