戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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国家安全保障局の人々に読んでもらいたい本

今日の横浜北部は朝から晴れましたが、なんというか、けっこうホコリっぽかったというか。

さて、すでに「戦略研究」という学会誌をご覧になった方はご存知でしょうが、今回のものの中に、私が論文と文献紹介を一本ずつ掲載しております。

そこでこの文献紹介で取り上げた本について、ここでも紹介してみたいと思います。

いつもよりも文体は固いかもしれませんが、とりあえず参考まで。

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Strategy For Action: Using Force Wisely in the 21st Century
[行動のための戦略:21世紀における賢明な軍事力の行使]
by Steven Jermy
(London: Knightston Publishing, 303pp, 2011)

軍事系の戦略理論についての著作というのは、たとえば対暴動作戦(COIN)やエアパワーの理論のような、いわゆる「部分的な理論」(partial theories)は数多く出版されているが、戦略についての総合理論(general theory)においては、その絶対数が極めて少ない。もちろん国防関係者の間ではそのような試みは何度かなされてきたが、そのトピックの難しさから、満足な成果を残しているものはほとんどないと言っていいだろう。

 そのような事情の中で、イギリス人の元軍人によって書かれた今回紹介する本は「行動のための戦略」というタイトルからもわかるように、実務者が戦略の総合理論を構築しようとした試みとして注目に値する。

 原著者のスティーヴン・ジャーミーは、英海軍の将校として長年にわたって実戦にかかわってきた経験を持つ人物である。彼は2010年に退役しているが、最後の大きな任務は2007年からのアフガニスタンでのものであり、ここで得た英軍での戦略の無さに失望した経験が本書を書く契機になったという。本書はイギリスの軍人がそのような実務で得た知識や経験が反映された理論書という位置づけから、かなり貴重な研究書となっている。

 本書の特徴は、以下の3つが挙げられる。まず第1に、原著者が歴史からの知見というものを重視している点だ。彼は産業革命以前、第一次大戦以前まで、両大戦から冷戦、そして現代と、時代を大きく4つにわけて章ごとに分析しており、それぞれの時代から得た教訓を、各章の最後でまとめている。これらを自身の総合戦略を考えるにあたってジグソーパズルの各ピースであるととらえており、それらを後半の章でまとめていくという合理的なステップを厳格に踏んだ議論を展開している。

 第2は、戦略の複雑性というものを深く意識している点である。たとえば原著者は、序章の時点から、戦略の形成の難しさは「人間の集団、戦争、未来」という3つの要因に関係するものであるために、きわめて複雑で予測不可能なものであるという点を強調している。

 第3は、戦略にはそのような複雑性に対処する際に柔軟性や創造性が必要とされることを踏まえて、この種の本には珍しく、経営戦略の分野の叡智も積極的に活用しようとする姿勢をみせている点である。そこで引き合いに出されているのは、ミンツバーグらの記した『戦略サファリ』などで展開されている「ラーニングスクール」の知見であり、それを自身の専門である軍事戦略と比較している部分は、学際的な分析を行っているものとして興味深い。  

 あえて批判点を挙げるとすれば、インテリジェンス関連のトピックをほとんど扱っていないことや、冒頭でも触れた、個別の軍種に関する「部分的理論」などにどう活用していくのかという点についてほとんど述べていないことであろう。しかしこれは逆に戦略というものの政治的な性質を正面からとらえているという意味で、評価できるとも言える。

 日本で戦略に関わる研究者にとって、本書のように軍事だけでなく経営戦略の理論にまで(それが成功しているかどうかは別として)議論の幅を広げた一冊は、極めて示唆に富むものである。また、本書は推薦の言葉を書いた人物が「イギリスのNSC関係者たちにぜひ読んでほしい」という主旨のことを書いていることからもわかるように、先ごろ創設された日本の国家安全保障会議(日本版NSC)の関係者にとっても参考になるはずだ。

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ちなみに日本語で読めるNSCものとして優れている本は、私が見た限りでは春原さんのこの本が最も優れた解説本かと。

明日はいよいよ生放送やります。


Commented by 田中 at 2014-04-11 10:51 x
生放送を楽しみにしています。メモの準備はおkです。
by masa_the_man | 2014-04-10 21:38 | 日記 | Comments(1)