ウクライナ危機が世界に及ぼす10の変化
2014年 04月 02日
さて、ロイターの記者がウクライナ危機が今後の世界に及ぼす影響の可能性についてうまくまとめておりましたので、この要約を。
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ウクライナ危機が世界に及ぼす10の変化
BY ポール・テイラー
●クリミア併合によって東西の対立は深まっているが、これが世界各国の政策に及ぼす影響はいかなるものだろうか。以下に10のポイントにまとめてみた。
①ロシアの影響力低下:一時的にせよ、少なくともロシアの国際政治における影響力は低下する。G8から外され、OECDとIEAへの参加は凍結される。モスクワ開催のサミットも未定になった。
プーチン大統領はBRICSの新興国を使って西側による孤立化を防ごうとしたが、中国とインドが「クリミアはチベットとカシミールでの前例になってしまうのではないか」と恐れているために態度を明確にできていない。BRICS諸国は西側の経済制裁にたいして共同声明を発表したが、クリミアやウクライナのことについては何も触れていない。
②NATOの復活:アフガニスタンのおかげで忘れ去られていたが、航空警戒と軍事演習、そしてポーランドやバルト三国への支援などのおかげで復活している。ポーランドはミサイル防衛システムの配備を急いでほしいと表明。
アメリカからの圧力によって、ヨーロッパ諸国は国防費の増加を再検討することになるかもしれない。中立のフィンランドとスウェーデンは新たにロシアを潜在的な脅威と感じはじめており、NATOと安全保障面で協力しはじめる可能性あり。
③エネルギーの多角化:ロシアへの依存を減らそうとしてヨーロッパではエネルギーの勢力図の変化が加速しそうだ。EU諸国はLNGのターミナルやパイプライン網の更新、それにグルジアやトルコを通るガスパイプラインをさらに南欧や中欧に拡大しそうだ。
EUは3分の1の石油とガスをロシアから調達しており、そのガスの40%はウクライナ産だ。ヨーロッパは自分たちのシェールガスを採掘しようとする可能性があり、環境面で問題があることを承知で原発建設を推進するかもしれない。
④中国という要素:安保理でよく同じ投票を行うロシアと中国の同盟関係だが、これは今後、二つのうちのどちらかの方向に行く可能性がある。
一つは中露の親密化。ヨーロッパで拒否されたエネルギーが新しいパイプラインなどで中国に流れることで実現する。
もう一つは、中露関係の危機。中国が経済的に弱体化して孤立化を強めるロシアと同盟を組む意味を見いだせなくなった場合に距離を置くことになる。実際に習近平は公式の場でどちらの立場をとるかを表明していない。
⑤アメリカのリーダーシップの強化:オバマ大統領の元で弱体化していた世界政治におけるアメリカのリーダーシップが、部分的にせよ復活する。イラク・アフガニスタンやアジアの「軸足移動」からの撤退も、東欧での危機のおかげで「自由主義陣営のアメリカ」というブランドの復活につながる。この危機によってヨーロッパにあったアメリカの盗聴への懸念は吹っ飛び、協力関係が復活する。
先週EUはオバマ大統領に対してシェールガスを売るように求めており、大西洋間の自由貿易交渉を加速化することを合意している。
ところがアメリカの戦略家たちは中国の台頭のほうが重要なので、アジア方面の優先順位が高いと言っている。そうなるとヨーロッパはさらなる自助努力を求められることに。
⑥ドイツのリーダーシップ:ウクライナ危機はヨーロッパにおけるドイツのリーダーシップを強化することになった。すでにドイツの経済力は圧倒的だが、今回の危機でメルケル首相がプーチンのヨーロッパ側の対話相手となっている。
彼女の態度は当初は不明確であったが段々と硬化している。ドイツがどこまでロシアとのエネルギー依存状態を減らせるかが今後の動きを見る上で参考になるだろう。メルケル首相はティモシェンコ女史との関係を管理することによって彼女の大統領選の動きまで左右することになる。
⑦EUの団結強化:EUは一時的かもしれないが共通の外敵のおかげでまとまりを見せており、これによって長期化したいくつかの問題を解決できるかもしれない。レベッカ・ハルムズ欧州議会議員は、EUに共通の戦略を与えてくれたという意味で、今年のヨーロッパ統合に貢献した人物に与えられる「カール大帝賞」の受賞者にプーチン大統領をノミネートしてはどうか、と冗談を言ったほどだ。
EU関係者の中には歩みの遅かったポーランドのユーロ参加が加速するかもしれないと分析している。
⑧中央アジアをめぐる争いの激化:プーチンと西洋諸国は、共にエネルギーの豊富な中央アジアの独裁国に歩み寄っている。アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、そしてウズベキスタンがその国々であるが、彼らの人権侵害については目をつぶっている。
もしロシアが経済的に弱まると、彼らは少なくとも西側陣営に擦り寄ることになる。
⑨アメリカとロシアの協力:ロシアは極度な孤立化を避けたいと思うため、いくつかのグローバルな安全保障の分野では引き続きアメリカに協力することになる。
ところがシリア、イラン、アフガニスタン、そして北朝鮮などについては緊張が高まることも予測される。また、シリアやイランにS300対空ミサイルを供給するという契約をすることも懸念材料だ。
⑩プーチンの未来:現時点ではクリミア併合によって国民の人気が頂点になっているプーチン大統領だが、ロシア人のビジネスの価値が低下し、海外からの投資が止まり、海外渡航に制限が出て、西側諸国におけるロシア人の資産の凍結などがに直面して不満が高まれば、彼の人気が半年後にはどうなっているかわからない。
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基本的に欧米中心の分析ですが、それでもなかなか興味深いところを突いているかと。たしかに中国は経済的な面を考えれば、いつまでもプーチンの肩を持つのは不利になるわけでして。
それにしてもロシアという「共通の脅威」によってEUがまとまったというのは皮肉ですな(苦笑
しかしマッキンダーが、「ヨーロッパ」という概念を現在のヨーロッパ諸国に植えつけたのがこのような「脅威」であると指摘したのは、やはり正しかったわけで。



その点からすると「NATO」という枠組みの再評価は十分ありえると、私は思いますね。EU諸国もこのままドイツの独走を為すすべなく見守るのは避けたい国はあるでしょう。自分たちだけでドイツを押さえ込めないなら、よその力を借りてなんとかしようと考えるのは自然なことではないですかね。

中国という共通の脅威によって結びつきを強めるASEANも触れてほしかった。
NATOはロシアの東を抑えるために中国においしい取引を申し出るだろうから日本とASEANは厳しいことになりそう。




