戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ウクライナ危機が世界に及ぼす10の変化

今日の横浜北部は昼すぎまでスッキリ晴れておりましたが、午後から雲が出てきました。けっこう気温が低めじゃないですか?

さて、ロイターの記者がウクライナ危機が今後の世界に及ぼす影響の可能性についてうまくまとめておりましたので、この要約を。

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ウクライナ危機が世界に及ぼす10の変化
BY ポール・テイラー

●クリミア併合によって東西の対立は深まっているが、これが世界各国の政策に及ぼす影響はいかなるものだろうか。以下に10のポイントにまとめてみた。

ロシアの影響力低下:一時的にせよ、少なくともロシアの国際政治における影響力は低下する。G8から外され、OECDとIEAへの参加は凍結される。モスクワ開催のサミットも未定になった。

プーチン大統領はBRICSの新興国を使って西側による孤立化を防ごうとしたが、中国とインドが「クリミアはチベットとカシミールでの前例になってしまうのではないか」と恐れているために態度を明確にできていない。BRICS諸国は西側の経済制裁にたいして共同声明を発表したが、クリミアやウクライナのことについては何も触れていない。

NATOの復活:アフガニスタンのおかげで忘れ去られていたが、航空警戒と軍事演習、そしてポーランドやバルト三国への支援などのおかげで復活している。ポーランドはミサイル防衛システムの配備を急いでほしいと表明。

アメリカからの圧力によって、ヨーロッパ諸国は国防費の増加を再検討することになるかもしれない。中立のフィンランドとスウェーデンは新たにロシアを潜在的な脅威と感じはじめており、NATOと安全保障面で協力しはじめる可能性あり。

エネルギーの多角化:ロシアへの依存を減らそうとしてヨーロッパではエネルギーの勢力図の変化が加速しそうだ。EU諸国はLNGのターミナルやパイプライン網の更新、それにグルジアやトルコを通るガスパイプラインをさらに南欧や中欧に拡大しそうだ。

EUは3分の1の石油とガスをロシアから調達しており、そのガスの40%はウクライナ産だ。ヨーロッパは自分たちのシェールガスを採掘しようとする可能性があり、環境面で問題があることを承知で原発建設を推進するかもしれない。

中国という要素:安保理でよく同じ投票を行うロシアと中国の同盟関係だが、これは今後、二つのうちのどちらかの方向に行く可能性がある。

一つは中露の親密化。ヨーロッパで拒否されたエネルギーが新しいパイプラインなどで中国に流れることで実現する。

もう一つは、中露関係の危機。中国が経済的に弱体化して孤立化を強めるロシアと同盟を組む意味を見いだせなくなった場合に距離を置くことになる。実際に習近平は公式の場でどちらの立場をとるかを表明していない。

アメリカのリーダーシップの強化:オバマ大統領の元で弱体化していた世界政治におけるアメリカのリーダーシップが、部分的にせよ復活する。イラク・アフガニスタンやアジアの「軸足移動」からの撤退も、東欧での危機のおかげで「自由主義陣営のアメリカ」というブランドの復活につながる。この危機によってヨーロッパにあったアメリカの盗聴への懸念は吹っ飛び、協力関係が復活する。

先週EUはオバマ大統領に対してシェールガスを売るように求めており、大西洋間の自由貿易交渉を加速化することを合意している。

ところがアメリカの戦略家たちは中国の台頭のほうが重要なので、アジア方面の優先順位が高いと言っている。そうなるとヨーロッパはさらなる自助努力を求められることに。

ドイツのリーダーシップ:ウクライナ危機はヨーロッパにおけるドイツのリーダーシップを強化することになった。すでにドイツの経済力は圧倒的だが、今回の危機でメルケル首相がプーチンのヨーロッパ側の対話相手となっている。

彼女の態度は当初は不明確であったが段々と硬化している。ドイツがどこまでロシアとのエネルギー依存状態を減らせるかが今後の動きを見る上で参考になるだろう。メルケル首相はティモシェンコ女史との関係を管理することによって彼女の大統領選の動きまで左右することになる。

EUの団結強化:EUは一時的かもしれないが共通の外敵のおかげでまとまりを見せており、これによって長期化したいくつかの問題を解決できるかもしれない。レベッカ・ハルムズ欧州議会議員は、EUに共通の戦略を与えてくれたという意味で、今年のヨーロッパ統合に貢献した人物に与えられる「カール大帝賞」の受賞者にプーチン大統領をノミネートしてはどうか、と冗談を言ったほどだ。

EU関係者の中には歩みの遅かったポーランドのユーロ参加が加速するかもしれないと分析している。

中央アジアをめぐる争いの激化:プーチンと西洋諸国は、共にエネルギーの豊富な中央アジアの独裁国に歩み寄っている。アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタン、そしてウズベキスタンがその国々であるが、彼らの人権侵害については目をつぶっている。

もしロシアが経済的に弱まると、彼らは少なくとも西側陣営に擦り寄ることになる。

アメリカとロシアの協力:ロシアは極度な孤立化を避けたいと思うため、いくつかのグローバルな安全保障の分野では引き続きアメリカに協力することになる。

ところがシリア、イラン、アフガニスタン、そして北朝鮮などについては緊張が高まることも予測される。また、シリアやイランにS300対空ミサイルを供給するという契約をすることも懸念材料だ。

プーチンの未来:現時点ではクリミア併合によって国民の人気が頂点になっているプーチン大統領だが、ロシア人のビジネスの価値が低下し、海外からの投資が止まり、海外渡航に制限が出て、西側諸国におけるロシア人の資産の凍結などがに直面して不満が高まれば、彼の人気が半年後にはどうなっているかわからない

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基本的に欧米中心の分析ですが、それでもなかなか興味深いところを突いているかと。たしかに中国は経済的な面を考えれば、いつまでもプーチンの肩を持つのは不利になるわけでして。

それにしてもロシアという「共通の脅威」によってEUがまとまったというのは皮肉ですな(苦笑

しかしマッキンダーが、「ヨーロッパ」という概念を現在のヨーロッパ諸国に植えつけたのがこのような「脅威」であると指摘したのは、やはり正しかったわけで。


Commented by だむ at 2014-04-02 20:46 x
アメリカの評価は「役立たず」として低下するだけだと思うんだが
Commented by sdi at 2014-04-03 01:02 x
NATOの本来の目的が「アメリカを呼び込んで、ロシアを追い払い、ドイツを押さえ込む」ことでした。EUはアメリカ無しで「ロシアを追い払い、ドイツを押さえ込む」ことができるかどうか、という実験と見ることもできます。その結果が今の欧州の政治・経済状況であり、ウクライナ事変(と呼称してよいのか?)ではないでしょうか?
その点からすると「NATO」という枠組みの再評価は十分ありえると、私は思いますね。EU諸国もこのままドイツの独走を為すすべなく見守るのは避けたい国はあるでしょう。自分たちだけでドイツを押さえ込めないなら、よその力を借りてなんとかしようと考えるのは自然なことではないですかね。
Commented by niji24 at 2014-04-03 07:05 x
中国には朝鮮人自治区があるんだけど、この分析者は触れてないんだな。韓国と北朝鮮が統一した後、更なる民族の統合を旗印に朝鮮人自治区の割譲を求める可能性は0と踏んでるんでしょうかね。自分もないとは思いますが。
中国という共通の脅威によって結びつきを強めるASEANも触れてほしかった。
NATOはロシアの東を抑えるために中国においしい取引を申し出るだろうから日本とASEANは厳しいことになりそう。
Commented by 無花果 at 2014-04-03 09:31 x
戦後、ドイツのお目付け役として主導権を握ってきたフランスでしたが、ここへ来て完全に名実共にEUの主人がドイツであるという認識が共有されたように思います。NSAの暴露やEU離脱問題でEUで微妙な立場になっているイギリスがどう動くかが楽しみです。ウクライナの件はアメリカによるユーラシア分断でもあると思うので。
Commented by 中山太郎 at 2014-04-03 10:01 x
niji24さんの「NATOは、ロシアを押さえるためーー中国においしい取引を申し出る。」がポイントですね。しかし真に「自由と民主などの西側価値観」を持つ人々がいる西欧において、貧民、農民、少数民族などの弱者いじめの中国にどこまで提携していくか疑問です。あるいは、冷徹な国際社会は、台湾を切り捨てるように、(次は、日本です)捨て去るかもしれないのですが。
Commented by 枯山 at 2014-04-06 19:13 x
この記事の「EUは3分の1の石油とガスをロシアから調達しており、そのガスの40%はウクライナ産だ」といふ部分は誤解を招きます。ウクライナの輸出とやらの實態は、ロシアから政府間協定で歐州價格よりも安價に調達したガスを轉賣してゐる代物です。ウクライナ産のガスでは自國の需要分のガスを滿たすことすら出來てをりません。
Commented by 枯山 at 2014-04-06 19:40 x
もう一つ氣になるのは、歐州價格よりも割安なガスの代金すら支拂が、常に滯るウクライナ經濟の脆弱さを指摘する人があまり日本ではゐないのも氣になります。國内需要425億㎥に對して生産200億㎥(西暦2008年)で1000㎥あたりの價格が格安價格の100ドルとして、毎年2.2億ドルの赤字の埋め合はせが出來ないくらゐです。
Commented by 枯山 at 2014-04-06 19:51 x
勿論近年の昂騰するガス價格は、100ドル程度ではありません。歐州向け價格だと300~400ドルまで來てをります。毎年氣前よく10億ドル近くの生活費を他國に獻上する御大盡國家は、流石に歐州には存在してゐないやうです。
by masa_the_man | 2014-04-02 18:27 | 日記 | Comments(8)