戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ミアシャイマーの「台湾放棄論」論文への反論

今日の横浜北部は快晴でした。しかし風が強めだったおかげで、思ったより気温は上がった感じはありませんでしたね。

さて、ミアシャイマーが「台湾に別れを告げよう」という論文を書いて話題になっていることは、すでに日本のネット上の一部で話題になっているようです。

それについて触れたものが以下の記事。重要部分だけ抜き出します。

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中台統一が合理的な選択と論じるミアシャイマー

 今回、ここで論じる「台湾放棄論」は、これまでの議論と論点が異なる。議論の対象として取り上げるのは、シカゴ大学教授で、歴史研究をバックボーンに「攻撃的現実主義」の国際政治論を展開するジョン・ミアシャイマーが、「ナショナル・インタレスト」誌(2014年3~4月号)に寄稿した「台湾に別れを告げよう(Say Goodbye to Taiwan)」という論文である。

 ミアシャイマーは、大国間政治の歴史に立脚した将来展望として台湾の運命を論じている。単なる政策論ではなく、将来の米中関係がどのようなものになるかという観点に立って台湾の選択肢を検討し、次のように結論づける。

 台湾は、独自の核保有が米中の反対もあって不可能であり、自らの通常戦力による抑止力強化も、防衛の戦争が台湾領土で戦うことなどを考えれば損害が極めて大きい上に、最終的に勝ち目がない。よって、香港型の高度な自治権を確保した形で中国との統一を図ることが、台湾にとって合理的な選択となる、としているのである。

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ところが、この論文に対する反論が出てきました。

著者はトシ・ヨシハラとコンビで中国海軍についてよく書いている、ジェームス・ホームズ米海軍大学教授です。

とても面白かったので、いつものようにその記事の要約を。

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ミアシャイマーは危険なほど楽観的だ
Byジェームス・ホームズ

●ミアシャイマーはたしかにすごい。彼は短い言葉の中に知恵を凝縮する才能に長けている。

●ところが短い言葉で説明するということは、そこで常に失われてしまう要素があることは否定できない事実だ。また、ミアシャイマーは少ない紙面の中に、多くのエラーを含む傾向がある。

●その一例が、最近の彼のナショナル・インタレスト誌に掲載された長論文である。シカゴ大学の教授であるミアシャイマーは、この中で自由主義陣営の台湾の終焉を告げている。たとえば彼は以下のように書いている。

現在の中国はまだ実質的な軍事力を持っていない。アメリカのものと比べれば、その軍隊はまだかなりの差で劣っている

●これはたしかに気休めにはなる。しかしこれは、中国共産党の紛争の歴史のすべての例にも当てはまった事実であることを忘れてはならない

●たとえば毛沢東の紅軍は、国民党との内戦初期には十分な軍事力を持っていなかった。紅軍は劣っており、しかもそれは蒋介石の国民党の軍と比べて、かなりの差をつけられていたのだ。

●その証拠に、国民党軍は紅軍を1930年代にほぼ消滅させており、毛沢東はこれによって紅軍を6000マイルも奥地に移動させる、有名な「長征」を行わなければならなかったほどだ。

●ところが紅軍は復活して勝利したのだ。劣った軍備は全てではないのだ。これはいわゆる「武器が全てを決定する」理論への良い反証だ。

●また、中国は1950年の時点で十分な軍事力を持っていなかったが、それでも不運な国民党軍を掃討できている、

●ソ連と日本、それに西側の軍隊の「お下がり」で武装していた人民解放軍は、米軍と比べて遥かに劣っていたが、その年の後半には朝鮮半島に武力介入している。「人民義勇兵」はマッカーサー率いる国連軍を混乱状態に陥らせて、アメリカ主導の「民主化された半島の統一」という試みを阻止している

●ワシントン政府は、南北朝鮮という戦前の現状維持状態で停戦せざるを得なくなったのだ。

●北京政府はこれによって「朝鮮戦争に勝った」と宣言することもできたほどだ。どのような見方をしたとしても、中国共産党は何十年も続いた内戦や対外戦争から復活することができたのであり、しかも超大国であるアメリカと、建国してたった四年の時点で戦って引き分けに持ち込んだのだ。これも毛沢東とその仲間たちにとって大きな得点であったと言える。

●過去の総司令官たちが証言するように、中国はギリギリ勝ったのだが、それでも勝ちは勝ちだ。しかも彼らはこれを「劣った軍事力」で獲得したのだ

●こうなると、ミアシャイマーの中国の軍隊に対する「実質的な」という評価の言葉に新しい意味が加えられることになる。

●もしある国家の軍隊が政治家によって与えられた任務を達成するのに十分な能力を持っているとすれば、それただ単に「実質的な」ということではなく「十分な」という意味になる。

●人民解放軍は、米軍が全ての軍事力を西太平洋に集中させようとしない限り、彼らを完璧に凌駕する必要はない。そのようなことを考えるのは、はじめから無駄なことだ。

●人民解放軍がやらなければならないのは、ワシントン政府が現在西太平洋に派遣している最強の米軍の部隊にたいして、一時的にでも優位に立つということだ。

●そしてこれは別に突拍子な話というわけではない。中国は全軍力を、米軍とそれを補完している同盟国軍の一部にたいして集中的に使用するだけで、目標を達成することができるのだ。

●もし地図上の決定的な地点で決定的なタイミングで米軍よりも強く出ることができれば、勝利のチャンスは増えるし、アメリカを失望させたり、背負いきれないようなコストを背負わせることもできるのだ。

●一般的に弱いと見られた軍隊も勝つことはできるのであり、これは歴史上でも何度も見られることだ。だからこそ、私がミアシャイマーの記事のリンクを日本の防衛省(海幹校)の知り合いに送った時に、日本人の呆れ顔を誘発することになったのだ。

●日本と台湾、そして東南アジア諸国にとっては地理的に厳しい状況であり、彼らは現地で中国の優位に近い将来直面する予感を毎日感じている。

●ミアシャイマーはたしかに国際関係の理論家として優れた学者かもしれない。しかし彼は中国の軍事力について、中国の戦略や作戦、戦術について知っている人だったら言わないようなことを、自信をもって語っているのだ。

人民解放軍がテクノロジー面においてアメリカに劣っているというのはたしかに一理ある。しかしその分析から「中国の物理的な力が足りない」と結論づけるのは、あまりにも楽観すぎるのであり、大きな勘違いをしてしまっているといえる。

●中国は特定のニッチな領域で優位を保っており、とくに対艦ミサイルの技術などでは米海軍や米空軍は有効な対抗策を持てていないのだ。

●しかも中国が戦場となる可能性の高い近くの地域で戦うことになったら、この脅威は倍増するのだ。

●もし中国がアメリカとその同盟国たちと格闘することになれば、このような優位を活用して自分たちよりも強力な軍隊と戦うこともできよう。きっと蒋介石とマッカーサーはその教訓を教えてくれるはずだ。

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うーむ、ミアシャイマーは基本的に中国にたいして厳しい見方をしているわけですが、海軍関連の専門家であるホームズのほうがさらにその状況を厳しく見ているということですな。

ただしここでの問題は、中国が陸上戦ではたしかに「劣った武器で勝利」したかもしれないが、それが海という環境だったらどうなのか、という点が未知数なところですね。

ホームズが出している例は、すべて陸上戦の話だけなので。


Commented by abc at 2014-03-31 22:43 x
なるほど確かに、装備の優劣や練度の高低の比較に本質的な意味はなく、「その国の指導者によって与えられうる任務を遂行する実力を有しているか」を評価することこそ重要だということですね。つまり、中国は○○年後にアメリカを凌駕するか否か、などと言う事柄ではなく、いままさに戦略的な勝利を手中に収めるための「十分な」力がある、ということこそ重要で差し迫った問題だ、という主張でしょうか。
人は往々にして自他の優劣に気をとられ、慢心したり過剰に悲観的なったりしがちですが、これは軍事を考える上でも犯しがちな間違いかも知れませんね。
by masa_the_man | 2014-03-31 20:59 | 日記 | Comments(1)