2014年 03月 19日
クリミアをめぐる駆け引きを戦略的に見る:その2 |
今日の横浜北部は午後から曇りでした。また気温が下がってきましたね。
さて、昨日に引き続き、今日もリアルタイムで状況が動いているウクライナ情勢に関する分析を、すでに流したメルマガから。
前回は、焦点になっているクリミア自治共和国内の人種構成から、
1,ロシア系
2,ウクライナ系
3,タタール人
というパワーの関係があり、これを「バランス・オブ・パワー」の観点から、
「1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている」
という「分断統治」のメカニズムを指摘しました。
もちろんその後に色々新しい動きが出てきましたので、これを踏まえた上で、さらに分析を進めてみようと思っております。
-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
まず注目していただきたいのは、西側のメディアで、クリミアの「3位」のタタール人を支援すべきだ、という論調の記事がいくつか出てきたことです。たとえばNYタイムズ紙は、
▼過去を知っているタタール人の多くはロシアの将来を心配している
という報告記事を出して、「タタール人はロシアを恐れているぞ!」ということを指摘しております。
これと似たような記事については、私もブログで紹介しております。
▼クリミアのタタール人を救え
(引用はじめ)
しかし人間的な面でわれわれが本気にならなければ問題は、クリミアのタタール人である。
●イスラム系のタタール人は、ロシア帝国がオスマン帝国が彼らの住む半島を割譲したときから何度も迫害にあっており、スターリンは民族浄化を試みているほどだ。
●1944年にはタタール人のほとんどが中央アジアやシベリアに強制移住させられており、その半分近くが殺されている。
●もちろんガス室や強制収容所があったわけではないが、タタール人の恐怖を理解するのに一番わかりやすいのが、ドイツに突然占領されてしまうことを恐れていた東欧のユダヤ人の例である。ちなみにドイツはこのホロコーストの責任に関してはまだ認めていない。
●たしかにこれが過大評価だと感じられても仕方ない部分はある。しかし、クリミアで暴徒がタタール人の家の扉に黒い塗料で☓印をつけて回っていると報じられており、これは1944年のユダヤ人の国外追放を思い起こさせるには十分なものだ。
(引用おわり)
どうでしょうか?
たしかにこの記事を書いた著者の言う通り、クリミアのタタール人というのはまさに戦前のユダヤ人のような迫害を受けた過去を持っているという点では間違いないでしょう。
しかし私が特に気になったのは、どうして今のこのタイミングで、西側のメディアからタタール人の過去や悲惨な状況に注目したこのような記事が出てきたのか?という点です。
繰り返しになりますが、ついこの間までのクリミアでは
「1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている」
という構造があったわけですが、もし西側がこれに対抗しようとすれば、いままで「2位」のウクライナ系を支援するだけではダメ。
では、さらに何をしなければならないかというと、「3位」のタタール人を取り込むことによって、1位」のロシア系を孤立させるという、同盟構築作業が必要になってくるわけです。
これをもっとわかりやすくいうと、現在ウクライナ国内のクリミア自治共和国内で起こっているのは、
●ロシアの狙い:ロシア系(1位)とタタール人(3位)でウクライナ系(2位)を孤立
●西側の狙い:ウクライナ系(2位)とタタール人(3位)でロシア系(1位)を孤立
という人種構成をめぐる争いなわけです。そして、ここでポイントになるのは、
「ロシア(露)系とウクライナ系(西)の、どちらがタタール人を取り込むか」
という争いの行方です。ややうがった見方かもしれませんが、西側のメディアが、あたかも"タタール人へのシンパシー"を駆り立てるかのような報道をしているのは、
「クリミア内の3位であるタタール人を支援することで、間接的に1位のロシア系に対抗しよう」
という意志があるからだ、という分析もできるのです。
「いやいや、おくやまさん、それはいくらなんでも考えすぎでしょう」
と、今回もツッコミが入りましたね・・・
確かに、このような報道は、純粋に「ロシアは嫌だ!」というタタール人自身からの働きかけで書かれたのかもしれませんし、記者たちが純粋にジャーナリストとして報道しなければならない!という正義感から書いている記事なのかもしれません。
しかし、ここで敢えて本ブログの読者の皆さんに考えて頂きたいのは、このような西側メディアの報道が、西側の「ウクライナ系支援」というアジェンダを持った「プロパガンダ」に利用される可能性を(間接的にせよ)持っているという点です。
そして、これは「善悪」では割り切れない、国際政治をめぐるメディアの役割の実態をそのまま暴きだしているとも言えるのです。
-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
今回ご紹介したような報道から見えてくるのは、クリミア内部の人種構成の中に「バランス・オブ・パワー」の概念が教えるメカニズムが見えてくる、ということです。
前回と今回の分析から導かれる「バランス・オブ・パワー」のエッセンスをまとめると、以下のようになります。
●1位は、3位と組むことで、2位を抑える(強者による分断統治)
※ロシア+タタールでウクライナに対抗
●2位は、3位と組むことで、1位に対抗する(弱者連合、バランシング同盟)
※ウクライナとタタールで、ロシアに対抗
読者の皆さんの中には、前回と同様に、
「うわー、汚いなぁ・・・」
と思われた方もおられると思います。
ですが、冷静に考えてみると、これはあらゆる人間集団において観察されるメカニズムであり、程度の差はあれ、我々はこのような<冷酷な現実>から逃れることはできないのです。
アリストテレスは、「人間は社会(ポリス)的な動物である」と言いました。
そして、このような人間と社会に付き物の、集団のメカニズムの存在を冷酷に理解することが、国際政治をはじめとする、あらゆる人間の集団の営みを理解するための第一歩なのです。
クリミア編入を踏まえた続きの分析については、次号のメルマガでやります。
さて、昨日に引き続き、今日もリアルタイムで状況が動いているウクライナ情勢に関する分析を、すでに流したメルマガから。
前回は、焦点になっているクリミア自治共和国内の人種構成から、
1,ロシア系
2,ウクライナ系
3,タタール人
というパワーの関係があり、これを「バランス・オブ・パワー」の観点から、
「1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている」
という「分断統治」のメカニズムを指摘しました。
もちろんその後に色々新しい動きが出てきましたので、これを踏まえた上で、さらに分析を進めてみようと思っております。
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まず注目していただきたいのは、西側のメディアで、クリミアの「3位」のタタール人を支援すべきだ、という論調の記事がいくつか出てきたことです。たとえばNYタイムズ紙は、
▼過去を知っているタタール人の多くはロシアの将来を心配している
という報告記事を出して、「タタール人はロシアを恐れているぞ!」ということを指摘しております。
これと似たような記事については、私もブログで紹介しております。
▼クリミアのタタール人を救え
(引用はじめ)
しかし人間的な面でわれわれが本気にならなければ問題は、クリミアのタタール人である。
●イスラム系のタタール人は、ロシア帝国がオスマン帝国が彼らの住む半島を割譲したときから何度も迫害にあっており、スターリンは民族浄化を試みているほどだ。
●1944年にはタタール人のほとんどが中央アジアやシベリアに強制移住させられており、その半分近くが殺されている。
●もちろんガス室や強制収容所があったわけではないが、タタール人の恐怖を理解するのに一番わかりやすいのが、ドイツに突然占領されてしまうことを恐れていた東欧のユダヤ人の例である。ちなみにドイツはこのホロコーストの責任に関してはまだ認めていない。
●たしかにこれが過大評価だと感じられても仕方ない部分はある。しかし、クリミアで暴徒がタタール人の家の扉に黒い塗料で☓印をつけて回っていると報じられており、これは1944年のユダヤ人の国外追放を思い起こさせるには十分なものだ。
(引用おわり)
どうでしょうか?
たしかにこの記事を書いた著者の言う通り、クリミアのタタール人というのはまさに戦前のユダヤ人のような迫害を受けた過去を持っているという点では間違いないでしょう。
しかし私が特に気になったのは、どうして今のこのタイミングで、西側のメディアからタタール人の過去や悲惨な状況に注目したこのような記事が出てきたのか?という点です。
繰り返しになりますが、ついこの間までのクリミアでは
「1位のロシア系が3位のタタール人と組んで、2位のウクライナ系を抑え込もうとしている」
という構造があったわけですが、もし西側がこれに対抗しようとすれば、いままで「2位」のウクライナ系を支援するだけではダメ。
では、さらに何をしなければならないかというと、「3位」のタタール人を取り込むことによって、1位」のロシア系を孤立させるという、同盟構築作業が必要になってくるわけです。
これをもっとわかりやすくいうと、現在ウクライナ国内のクリミア自治共和国内で起こっているのは、
●ロシアの狙い:ロシア系(1位)とタタール人(3位)でウクライナ系(2位)を孤立
●西側の狙い:ウクライナ系(2位)とタタール人(3位)でロシア系(1位)を孤立
という人種構成をめぐる争いなわけです。そして、ここでポイントになるのは、
「ロシア(露)系とウクライナ系(西)の、どちらがタタール人を取り込むか」
という争いの行方です。ややうがった見方かもしれませんが、西側のメディアが、あたかも"タタール人へのシンパシー"を駆り立てるかのような報道をしているのは、
「クリミア内の3位であるタタール人を支援することで、間接的に1位のロシア系に対抗しよう」
という意志があるからだ、という分析もできるのです。
「いやいや、おくやまさん、それはいくらなんでも考えすぎでしょう」
と、今回もツッコミが入りましたね・・・
確かに、このような報道は、純粋に「ロシアは嫌だ!」というタタール人自身からの働きかけで書かれたのかもしれませんし、記者たちが純粋にジャーナリストとして報道しなければならない!という正義感から書いている記事なのかもしれません。
しかし、ここで敢えて本ブログの読者の皆さんに考えて頂きたいのは、このような西側メディアの報道が、西側の「ウクライナ系支援」というアジェンダを持った「プロパガンダ」に利用される可能性を(間接的にせよ)持っているという点です。
そして、これは「善悪」では割り切れない、国際政治をめぐるメディアの役割の実態をそのまま暴きだしているとも言えるのです。
-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-
今回ご紹介したような報道から見えてくるのは、クリミア内部の人種構成の中に「バランス・オブ・パワー」の概念が教えるメカニズムが見えてくる、ということです。
前回と今回の分析から導かれる「バランス・オブ・パワー」のエッセンスをまとめると、以下のようになります。
●1位は、3位と組むことで、2位を抑える(強者による分断統治)
※ロシア+タタールでウクライナに対抗
●2位は、3位と組むことで、1位に対抗する(弱者連合、バランシング同盟)
※ウクライナとタタールで、ロシアに対抗
読者の皆さんの中には、前回と同様に、
「うわー、汚いなぁ・・・」
と思われた方もおられると思います。
ですが、冷静に考えてみると、これはあらゆる人間集団において観察されるメカニズムであり、程度の差はあれ、我々はこのような<冷酷な現実>から逃れることはできないのです。
アリストテレスは、「人間は社会(ポリス)的な動物である」と言いました。
そして、このような人間と社会に付き物の、集団のメカニズムの存在を冷酷に理解することが、国際政治をはじめとする、あらゆる人間の集団の営みを理解するための第一歩なのです。
クリミア編入を踏まえた続きの分析については、次号のメルマガでやります。

by masa_the_man
| 2014-03-19 20:27