ロシアが感じる「恐怖感」 |
さて、ウクライナ情勢を考える上で参考になりそうな文章が、拙訳の『自滅する中国』の中にありましたので、その部分を抜書きしておきます。
ぜひ参考にしてください。
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『自滅する中国』第三章より
●ロシアも他国の動機をロシア人にしかわからない考え方で常に理解しようとしている。
●この典型的な例は、NATO(北太平洋条約機構)が冷戦後になってから、五つの元共産主義国家と旧ソ連のバルト三国の参加を認めることによって勢力を拡大した時のことだ。
●アメリカにとってのNATO拡大は、これらの新しいが不安定な民主制国家を、最も迅速かつ安価に安定化するものであった。なぜならEUへの加盟手続きは、非常に時間のかかるものだったからだ。
●このためアメリカは「ロシア自身もこのやり方に参加し、そこから利益を得ることができるはずだ」と考えていた。この新しい参加国たちは、NATOと協力するだけなく、むしろNATOの一部となって協力することを要請されていたのであり、これはつまりNATOが反ソ的・反ロシア的な組織ではないということを意味していたのだ。
●ところがロシアにとって、つまり著者が個人的に直接、またはその著作を通じて間接的に知り得たすべてのロシア政治エリートたち(※)にとって、NATOの拡大はアメリカの計算された敵対行動、つまりは米国防省が熱心に望んでいた「モスクワへの前方展開」であり、その意図からして当然のように「攻撃的な行動」だったのだ。
●また、この行動はロシア側には「アメリカが約束を破った裏切り行為である」と映った。なぜなら、ソビエト軍の東ヨーロッパからの撤退は、「アメリカはNATOを東へ拡大しない」という不文律を前提にした行動だったからだ。
●この約束違反はたしかにその通りなのだが、それでもアメリカ側にとってはそこに敵対的な意図はなかったために、問題だとは全く考えられていなかったのだ。
●それ以外にも、ロシアが他国の行動を自分たちのやりかたから想像して理解しようとするやり方を挙げればきりがないほどだ。そして彼らの複雑な現実を単純に見ようとするやり方から明らかになるのは、彼らが根本的には他国の深い悪意に満ちた動機を想定してものごとを考えているということだ。
●ロシア人が一般的に抱いている想定は、「外国人は善意の言葉や行動をたんなるカモフラージュとして示すが、実際はロシアがより弱く、貧しく、不安で、不幸であることを望んでいる」というものだ。
●このような考え方が、ロシアのメディアの日常的な国際ニュースの報道の前提にある。しかもこれは、政府の監視下にあるメディアに限った話ではない。
●こうした誤解は明らかに独裁的な指導者たちの役に立つのだが、これは独裁者自身たちもこれと異なる見方でものを考えているということを意味しない。
※スーザンアイゼンハワーとロアルド・サグデーエフの主導したNATO拡大反対宣言に署名した一人として、私はロシアのこの分野に関する文献を大量に読んだことがある。二〇一一年六月のモスクワ、六月のサンクトペテルブルクの大統領会談、それに九月のヤロスラヴリでの大統領会談で行われたインタビューで判明したのは、NATOの拡大についての解釈については相変わらず変化がないということだった。
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いかがでしょうか。これは今回のロシア側の行動を考える上で役に立つのかと。
ミアシャイマーの分析も、基本的にこのロシア側の「恐怖感」に注目しているという点で貴重なものかと。
何度もいいますが、このルトワック本は本当に使えるネタがたくさんです。
