戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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ロバート・カプランによる中国の戦略分析

今日の横浜北部はよく晴れて気温も上がりました。また明後日から雪が降るなんて信じられない感じですが。

さて、昨日お約束しました、ロバート・カプランの中国の戦略分析についての論考の要約を。

これはおそらく私が二年前にシンガポールで会議に出たときにBBCの記者が教えてくれたカプランの南シナ海についての新刊本の内容がかなり反映されたものと推測されます。

===

なぜ中国は周辺国を挑発するのか
By ロバート・カプラン

●中国は東アジアで一体何をしようとしているのだろうか?北京の最近の新しい漁業ルールの規定宣言は、周辺国の怒りやアメリカの狼狽を引き起こしている。

●防空識別圏の一方的な宣言は、アメリカがグアムからB-52を飛ばしたことにもつながっており、これによってアメリカは実質的に日本を守ることを宣言したようなものだ。

●日米の固い決意に直面した中国は、本当に釣魚島(尖閣諸島)を守ることができるのだろうか?もしくは南シナ海のスプラトリー諸島を支配することができるのだろうか?

●中国のハッタリは実力よりも大きいいのだが、東シナ海と南シナ海では実際には弱い立場にあるとも言える。新しい防空識別圏を守るために必要となる地上の早期警戒システムはあまりにも遠い位置にあるか、まだ生産段階にあり、その点においては日本のほうがはるかに高い性能を持った機器を備えている。

●中国側の海洋面の兵站や長距離の兵站線は、スプラトリー諸島の支配と維持を難しくしているのだ。

●もちろん日本をのぞけば、中国海軍や沿岸警備隊は、その周辺国の軍隊を蹴散らすことができるだろう。しかし中国はアメリカを含むどの組み合わせの同盟国も圧倒することはできない。そして現状維持を変更しようとするいかなる行動も、結局のところはアメリカを引きこんでしまうことになるのだ。

●フィリピンは自国の周辺にアメリカの海・空軍力を拡大するように積極的に要請しており、ワシントン政府はもうすぐ日本に最新の空母を派遣する予定になっている。

●ところが、もし北京政府が実際の紛争を避けつつも、単なる「国内向けのパフォーマンス」としてアメリカとの緊張関係を高めたいと考えているとすればどうだろうか?

●これはかなり危険なやり方ではあるが、それでも中国の行動をうまく説明していると言える。実際のところ、これは中国がアジア・太平洋地域の全域で行っていることであり、たしかにニュースの見出しを飾るものではあるが、それでも紛争に至るほど激しいものではないのだ。

●中国は島々の周辺に沿岸警備隊の船を派遣しており、時おりフィリピンやベトナムの漁船にいやがらせをすることがある。ところがその役割は主に空威張りやハッタリだけであり、ほぼすべてのケースでは中国は戦略的な現実を根本的に変化させることはできていない。

●たしかに中国の圧倒的な海軍力や空軍力はまだ存在していない。そのため、アメリカはこのような中国側の行動をほぼ無視している。いいかえれば、アメリカがこの地域で海軍力の拡大を行っている明白な証拠はないのだ。

●したがって、現在われわれが目撃しているのは、主に中国が国内向けに行っている「管理された紛争」である

●これによって北京政府は「台頭する中国」という感覚を強化するための民族主義的な精神の高揚の維持を行っていることになるのであり、この感覚はとくに不景気の時には政権にとって必要となってくるものだ。

●また、海洋で空威張りをすることによって、中国は他の海洋権益を主張する周辺国との交渉を強い立場から進めることができる。そうすれば後になってから力の弱い国に対して中国側が領有権を主張する際に有利になるのであり、明らかにこれを周辺国は心配している。

●さらにいえば、海軍と沿岸警備隊がフィリピンや日本などを敵に回すことによって、中国は国内の聴衆にたいして、「この二つの国と同盟関係にあるアメリカにたいして立ち向かっている」というイメージを喧伝することができるのだ。

●ここ数年間に中国が東シナ海と南シナ海でどのような行動を行っているのか、そのパターンが興味深い。

●たとえば中国の一方的な行動がアメリカの注意を引いてコストが利益を上回ることになると、中国はその注意を別のところに向けるのだ。

●たとえば中国が南シナ海のフィリピン近くのスプラトリー諸島で何週間にもわたって紛争を煽るようなことをやったとしても、アメリカがその行動に気づいて海軍を動かそうとすると、軍事的な(そして国民の)注意を日本と対立している東シナ海のほうに向くように仕向けるのだ。

●もちろんこうしている間にも中国側はフィリピン周辺海域でのパトロールをやめておらず、その頻度は下げて、東シナ海の尖閣周辺のような別の海域での活動の頻度を上げるのだ。

●そうなると南シナ海での紛争のニュースは少なくなり、逆にベトナムや台湾との領海争いのレベルを上げることになる。

●中国は米海軍と米空軍が監視している太平洋では海の支配権を完全に確立することができないため、実際のところは国内向けの「イメージ操作」という意味合いが強いのだ。

●中国の軍事能力はアジアの他のどの国よりも速い速度で発展しているために、北京政府にとっては紛争を起こさずに時間稼ぎするほうが合理的であるということになる。

●そうすることによって多くの国は次第に中国に従わざるを得なくなり、周辺国のアメリカへの心理的従属状態を軽減できるのだ。

●実際のところ、もし中国のリーダーたちが国内からの圧力にさらされていなければ、彼らにとっては長期的なゲームを楽しんで大人しくしているほうが合理的である、ということになる。実際に鄧小平はこれをアドバイスして成功させてきた。

●ところが中国のリーダーたちは、どうも国内からの圧力を感じているように見える

●数年前までの経済面での奇跡はもう存在しないし、構造改革は待ったなしだ。そして鄧小平レベルでの改革が成功したとしても、社会・経済面での混乱は避けられないだろう。

●中国の新しいリーダーである習近平は、国民からの圧力を下げるレバーを必要としており、この際に簡単に使えるのが「ナショナリズム」なのだ。

●まとめると、東シナ海と南シナ海で危機を起こしている中国は、長期的な国益を犠牲にして、国内向けの短期的な利益を得ようと行動しているように見える

●結局のところ、フィリピンのような国をいじめて、日本との緊張を高めるのは、この二国のアメリカへの依存度を上げてしまうだけであり、これは中国としては避けたいところである。

●ここには一つの皮肉が見える。独裁者というのは、少なくともその定義からして、国民の総意にしばられることはない存在である。ところがこの場合や多くのケースと同様に、独裁者というのはそれが非生産的であることを知りつつも、国民からの支持を必死に得ようと努力せざるをえないのだ。

●もちろん中国の指導層や国民たちは、太平洋における中国の主権を本気で信じており、覇権的なアメリカを後ろにつけた他国の間違った主張にたいして反論しているだけだ、ということになる。

●ところがこれらの主張を実現する可能性は、やはり中国がなるべく目立たないように行動しながら軍事力を向上させ(韜光養晦)、あとで驚くほど力を見せつけるのを狙うことで高まるはずなのだ。

●アメリカは長年にわたって「もし中国が民主化されて世論が政策の形成に大きな役割を果たすようになれば中国はおとなしくなる」と考えてきた。

●ところがこれはどうも間違っているようだ。中国の指導層が国民の声を聞こうとすればするほど、政権の行動はより獰猛かつ民族主義的になる可能性が高い。したがって、東シナ海におけるこの危機は段々と弱まるかもしれないが、同じような危機は別の場所で次々と勃発するはずだ。

●長期的にみれば、中国の軍事力はその「口先」に追いつくはずであり、そうなると中国の主張にたいする周辺国の反発への意欲は下がるだろう。

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簡単にいえば、「中国の最近のアグレッシブな態度は、すべからく国内向けのジェスチャーだ」ということですね。

中国の思考がいかに内向きで自閉症的なものであるかについては私の翻訳したルトワック本でもかなり近いことが述べられておりますので、よろしければこちらもぜひ。


Commented by ほい at 2014-02-17 23:41 x
こんなの出てますw

中国を東アジアの地域覇権国として認め、米軍の段階的撤兵を!―米有力教授が米中「新型大国関係」で提言
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=83485&type=10
Commented by ジョン at 2014-02-18 02:59 x
アメリカは民主化すれば何でも解決すると思うのはやめろって
Commented by Rascal at 2014-02-18 09:01 x
日米の固い決意に直面した中国は、本当に釣魚島(尖閣諸島)を守ることができるのだろうか?
Commented by Rascal at 2014-02-18 09:07 x
上はミスです。
>日米の固い決意に直面した中国は、本当に釣魚島(尖閣諸島)を守ることができるのだろうか?
コプラン氏のこの発言の原文は、
defend its claim to the Diaoyu
ですが、彼は尖閣諸島の帰属は中国にあると考えているのでしょうか。それとも、コンテキストの中でdefendとdominateを対比させているだけでしょうか。パっと読みで申し訳ないんですが、彼の見方はかなり中国寄りと思われます。
Commented at 2014-02-18 09:16 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by フムフムス at 2014-02-18 22:33 x
Rascal さん、こうじゃないですかね。
「釣魚島(尖閣諸島)領有権の主張を通すことができるのだろうか?」
Commented by sdi at 2014-02-18 22:50 x
「国内的には正しい選択」ということですね。ええ、まあなんといいますか・・・・・・。国内政治の圧力がかかっているということは、今の中国の戦略方針が修正される見込みは薄いということになりますね。修正したら、自分が失脚しかねないのですから。
Commented by アガペー at 2014-02-19 20:34 x
アメリカの抗日連合会というのは、中共に指令を受けての反日組織だと思っていましたが、最初に抗日連合を立ち上げたのは、文革から逃げてきた反共の人たちみたいです。だとすると中共に指令を受けての反日より厄介では?

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20130527/248644/?ST=smart&author
Commented by アガペー at 2014-02-19 20:50 x
日下公人さんの本に、北京の国防大学を訪問した時のことが書かれていました。国防大学のカリキュラムで、日本語を教えていないそうです。なぜか?と聞くと、「日本と戦争はしないから」と答えたそうです。日中戦争のこともほとんど教えていないそうです。一番教えているのは、国民党に勝ったときの作戦だと…
Commented by 日置 at 2014-02-20 10:50 x
”内圧を恐れるからこそ、国民を食べさせるだけの領域の確保を本気で行うのでは?”
近年の中国の海洋覇権を意識した一連の行動が国民向けのサーカスとしての管理された戦争であるが為に、中国の「過激な民主化」が災厄をもたらすというのは非常に面白い見解です。たしかに昔の主席より近年の指導者たちはどこか余裕がありません。しかし南シナ海での侵略的行動は、西沙諸島で南ベトナム軍への殺害行為で始まっており、この時から沿岸防衛主義を変え、シーレーンの拡大を狙っていたと思えます。もしも人民解放軍がこの軍事思想・戦略を根底として行動しているのならば、党が完全に軍を掌握していない時、管理戦争では済まないのでは?大衆向けのパフォーマンスのためだけに軍の権限を強くするような軍事費の倍化を行うのでしょうか?僕には、中国は現在の安い原材料・製品・労働力を盾に外国への発言力の強い内に、あるいはイスラーム諸国との紛争に西側諸国が浸かっているうちに、防衛ライン・シーレーンの拡大を、十分な軍事力の成長を前提として行っているように感じてしまいます。内圧を恐れるからこそ、国民を食べさせるだけの領域の確保を行うのでは?
Commented by 早川 at 2014-02-21 10:48 x
いつも貴重な情報をありがとうございます。
リンクさせていただきました。
「とらや」の羊羹と2000年の友人
by masa_the_man | 2014-02-17 20:12 | 日記 | Comments(11)