戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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「プロパガンダ戦争」に負けはじめたイスラエル

今日の横浜北部は昼からやけに暖かくなりまして、すでに春が訪れたような陽気に。ただし今夜からまた寒くなるらしいですが。

さて、最近の私の関心の一つである「プロパガンダ」に関して、ひとつ興味深い議論がありましたのでこれを要約します。

著者は若いころは南アフリカから移住してきたユダヤ人なんですが、エルサレム・レポート誌の編集者を長年つとめた人物です。

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プロパガンダ戦争での敗北
By ハーシュ・グッドマン

●1965年の2月4日、当時まだ十代だった私は、生まれ育った南アフリカを離れ、まだ見たこともない新しい母国へと旅だった。その母国とは、イスラエルである。

●私は南アフリカのことを好きだったが、アパルトヘイト体制を毛嫌いしていた。それに対してイスラエルという正義と光に満ち溢れた新しい国では、人々はホロコーストの灰の中から新たな生活をはじめていた。これはアパルトヘイトの暗さと抑圧とは正反対であった。

●そしてほぼ50年たった現在だが、「イスラエルはアパルトヘイト国家ではない」「そのような指摘をすることは誹謗中傷でありウソだ」という議論を経て判明してきたのは、イスラエルもアパルトヘイト国家として見られるようになりつつあるということだ。

●そしてその理由は、今日のこの時代における「ブランド」というものが「真実」よりも強力なものであるという点にある。

●理解し難いことかもしれないが、イスラエル自身が「アパルトヘイト国家」というブランドを甘んじていて、さらにはそれを強化してしまうようなことを無意識にやってしまっているのだ。

●アパルトヘイト体制下の南アフリカでは、人が法的な保護のないままに姿を消してそのままということが常にあった。言論の自由はなかったし、「法にのっとった処刑」というものが地球上のどの国家よりも行われているという報告もされていた。報道の自由もなく、1976年1月までテレビも放映されていなかった。

●多くの黒人たちは、部族の土地から不毛なバンタスタン州の荒れ地に強制的に移住させられた。白人が持っている鉱山や、彼らがオーナーになっているビジネスなどで黒人を生かして仕事ができる「パスシステム」は、黒人の家族を引き裂き社会構造を崩壊させることになった。また、このシステムでは少数派の白人の家庭の中で働く黒人の数を豊富にすることになったのだ。

●この体制に違反した黒人たちは逮捕され、ムチ打ちの刑を受けることが多く、ごくわずかな賃金で過酷な労働につかされることになったのだ。

もちろんこのようなことは、イスラエルやその支配下にある領土では行われていない。しかし国際社会の中ではこのようなイメージが定着しつつある

●これはひとえにイスラエル自身の行動や、パレスチナ人の土地の占拠に反対したり、場合によっては「ユダヤ人国家」としてのイスラエルの存在を否定する人々の猛烈な反対運動に原因がある。

●彼らは「非正統化」(delegitimization)こそがイスラエルの弱点をつく最も効果的なものであり、そのためのきっかけが「アパルトヘイト」というキーワードであることをよく理解しているのだ。

イスラエルにとって国際的な「孤立」というのは、イランの核開発計画よりも潜在的に危険なものである。

●パレスチナ人と彼らの(とくに若い世代の、しかもその内の何人かは世界最高峰の大学を出た者たちによって構成される)支持者たちは、第一次インティファーダで使われた投石用の石や、第二次インティファーダの自爆者たちは、過去の戦争で使われた過去の兵器であることに気がついたのだ。

●現在ではボイコットや資本の引き上げ、それに経済制裁などが、イスラエルの占領や「ユダヤ人国家としてのイスラエル」を終わらせるための方法として使われている。

●彼らのメッセージは、「イスラエルはパレスチナ人を抑圧して人権侵害を行っている国である」として、労働組合や教会、大学、そして欧米の国際企業たちに浸透しはじめているのだ。

●たとえば先月のことだが、あるオランダの巨大年金基金が、その投資先であったイスラエルの五大銀行から資本を引き上げており、この理由としてイスラエルの占領政策を挙げた。これはイスラエルのビジネス界や財務省にとって大きな警鐘を鳴らすことになった。

●イスラエルの財務省長官によれば、ヨーロッパからの投資が部分的に滞ったとしても、イスラエルの年間輸出額で57億ドル(5700億円)や一万人の雇用にとっての損失となるというのだ。ところが最大のダメージは、実はみずから招きいれたものだ。

●「アパルトヘイトの壁」、「アパルトヘイト道路」、植民地化、運営上の逮捕、移動制限、土地接収、そして 家屋の取り壊しなどはアパルトヘイトと比較される際に使われる標的となっており、イスラエルが現状維持のままでいる限りは、それらを隠したり否定したりすることはできないのだ。

●軍事的な占領には、チェックポイントや対テロ用の障壁、軍事法廷、武装兵士、それに戦車などがつきものだ。これが現実であり、政治に関係なく、これこそがパレスチナ人とその支持者たちがこの新しい戦争で必要な「武器」なのだ。

●アメリカは来週にも、ケリー国務長官によって、イスラエルとパレスチナ間で新たな和平のための枠組みを進めると見られている。パレスチナ側はこの和平交渉で合意に至らなければ、再び戦闘を開始して国際司法裁判所や国連のような国際機関に独立を訴え、経済制裁やボイコットによって、イスラエルを南アフリカのように屈服させるつもりだという。

●南アフリカが80年代に学んだように、たしかに戦場では核兵器は敵を抑止できるかもしれないが、それではプロパガンダ戦争には勝てないのだ。

●あいにくだがイスラエルは、敵を成功させるために必要な、あらゆることをやってしまっている。和平交渉に集中する代わりに、イスラエルはさらに占領地で住宅を建設する意図を見せており、最近では1月10日に、東エルサレムや西岸地区で1400戸の家を新築する計画を発表している。

●リクード党のベギン首相は1977年にベトナム難民を受け入れており、これはホロコーストのユダヤ人を思い起こさせるという理由があったのだが、今日のイスラエルは、エリトリアやスーダンからの難民受け入れず、代わりに砂漠にある難民キャンプに収容している。これによって、イスラエルは相手に「人種差別社会だ」というレッテル貼りをさせるチャンスを与えてしまっているのだ。

●また、イスラエル政府は12月5日に国内にある人権侵害の状況を調べる団体(B’Tselem,)やマイノリティーの権利を守るための組織(Adalah)にたいして懲罰的な税金を課すことを閣僚会議で決定したことを発表したのだが、これもイスラエルのイメージを悪化させるだけである。

●バンコクの市場で「グッチ」というラベルのついたバッグが売られているのを見たことがある人はわかると思うが、これは「ラベル」が極めて重要な役割を果たしているということだ。そして「アパルトヘイト」というラベルは、それが公平なものかどうかに関係なく、悪影響を及ぼし始めているのだ。

●これはイスラエルにとって後々に大きなツケを回すことになるのだが、どうも内向きになっているイスラエルのリーダーたちは、このことについて鈍感なように思える。彼らはこの新しい「戦場」では、戦車が役立たずであり、軍事力の使用は逆にテレビで放映されてしまうことによって、敵にとって有利になってしまうことをまだ理解できていないのだ。

●和平交渉で平和を実現できなければ、イスラエルはこの戦争に勝つことはできない。

===

さすがのイスラエルでも世論戦(プロパガンダ戦争)には負け始めている、ということですね。私はとくにこの「ラベル」や「ブランド」という部分の重要性を著者が認識しているところが興味深かったです。

ちなみにこの文の中で出てきた「非正統化」については、ウォルトの本やその解説CDの中で詳しく説明されておりますのでぜひ。


Commented by だむ at 2014-02-03 21:32 x
「リアリズム」を口にする人は、どういうわけか「プロパガンダが状況によってはわりかし有効であり、他国の世論を容易に動員しうる」という「現実」を認識することができないんだよねえ
Commented by go china at 2014-02-03 22:31 x
sowt powerは、短期的で状況によりすぐ変わる物であり、hard powerは、長期的な物であると思います。少し悪いことをしたり良いことをしても、多くの人間はすぐ忘れます。しかし、経済力と軍事力は確かに存在するのです。 この見解に関しては、paul kenndyのsowt poweに関するエッセイを読めば分かるかと。 
Commented by 田中 at 2014-02-03 23:36 x
佐藤優はイスラエルは世界を敵に回しても生き残るほうを選ぶと言っていたが、他国の世論は重要だ。
日本もヘイトスピーチをやって非難材料を与えてるでもやめない、残念な限りだ。
Commented by go china at 2014-02-04 00:00 x
前投稿において、softのスペルが変でしたね。drunkenだからって許されませんね。学術的なものだったらクビです。 powerの定義については、nial furgusonのthink again:powerも有益な視座を提供してくれます。
Commented by go china at 2014-02-04 00:49 x
久しぶりに暇なんで書くぞーーーーー。知り合いの大学院生によると、日本の政治社会学の少なからぬ教授達は、domestic factorから議論を進めて、今日の東アジア情勢を見ているらしい。いわゆるhate speechっていう極左と極右の寸劇から、日本のナショナリズムがうんぬんという議論をする土壌はここにあるのかな? 
Commented by at 2014-02-04 06:13 x
日本の周辺では中国・韓国による対日プロパガンダ戦争が
行われているが両国は日本と戦争したいわけではない。
両国とも国内問題を隠すために日本をgood enemyとして活用して
いるだけである。
日本の行くべき道はアメリカ依存脱却より他になし。
ネット掲示板で行われている狭量な放言は何の価値もない
Commented at 2014-02-04 19:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sdi at 2014-02-05 00:04 x
>あいにくだがイスラエルは、敵を成功させるために必要な、あらゆることをやってしまっている。
記事中でいみじくも指摘していますが、イスラエル側がパレスチナにつけこまれる要素もしくは「隙」を抱えている点は見過ごすことの出来ない要因ですね。プロパガンダ戦争での敗北の場合、内的要因が重要というよりそういうものがあってこそ起こり得るのだと思います。勿論、内的矛盾やタブーを抱えてない国家、社会集団なんてないでしょうからそういう意味ではどの国も「隙」は抱えていますから、違いは「ネタ」の良し悪し、各国政府の対処能力でしょうか。それにプロハガンダは累積戦略の典型ですから、効果の程を計り難いというのもあります。
もう一つ、要因であげるとするならイスラエル自身が、自国建国の際にプロハガンダ戦で史上屈指の成功を収めてしまったこともあるでしょう。自分たとが大成功した分野で逆ネジを、しかも自分たちよりも人員も規模も資金も遥かに劣位の敵に食らうことになるとは考えてなかったのではないでしょうか。
Commented by 現地 at 2014-02-05 05:15 x
イスラエルがプロパガンダ戦で勝利したことなどあるのか。「誰もが我々を憎んでいる」がメンタリティのデフォルトというか基底音であれば、「世界を敵に回しても生き残るほうを選ぶ」ともなる。
Commented by はじめまして at 2014-07-20 21:23 x
Facebookからきました。
Facebookのイスラエル在住の日本人コミュニティで
ハマスがテロリストで病院や学校にミサイルを隠してるから悪いという論調で、
イスラエル軍が紳士だというアピールが激しいんですが
ちょっと不気味です。

イスラエル軍が攻撃前にガザに今から攻撃するから逃げるように市民にビラをまいたというそのビラ本物をお持ちで
Facebookにビラの写真までアップしていて
すごく快適そうな綺麗なシェルターで家族で過ごしてる写真までアップしていました。

よくある戦争プロパガンダの雇われた方々なのでしょうか?

圧倒的に戦闘力に差があり虐殺の正当化にしか見えず
「大量破壊兵器を隠してる!」と攻撃を正当化したアメリカのようで、、
なにか怖いんです。。

何かご存知でしたら、記事にとりあげて頂けないでしょうか…
Commented by 太郎 at 2014-07-21 08:15 x
現在の北東アジア情勢を考える上で、ズシントくる記事でした。最近、ワシントンから帰ってきた知人によると、同地の空気は、既に6割以上は、中国、韓国に傾いているそうです。真の知日派を劣勢にしない手だてを考えなければ、日本は不利になると言っています。
Commented by 名無しの at 2014-07-27 16:01 x
もともと戦った相手がアメリカであるだけに歴史問題に関しては日本は最初から不利な戦いである。
とはいえ日本の歴史問題とは結局、過去の問題なので
現在進行形の出来事が起きるとすぐ忘れられると言う特性がある。
実際、靖国参拝で年初ごろはあれほどガヤガヤ言ってたアメリカも
ロシア・ウクライナ問題が起きて以降はまるで忘れたかのようである。

これは良くも悪くもであり、またそのうち再燃するのかもしれない。
そして日本にとって致命傷に至ってないのは現在進行形の中国の評判もまたけして良くない、という部分が大いにあり痛みわけという気がしないでもない。イスラエルと同様に自ら評判を落とすネタを提供しつづける中国の行動はちょっと理解不能である。何か意図があるのだろうか?
Commented by at 2016-05-02 21:04 x
謹言

体制のプロパガンダをそのままに発信をする大手新聞
by masa_the_man | 2014-02-03 18:01 | 日記 | Comments(13)