2014年 02月 03日
「プロパガンダ戦争」に負けはじめたイスラエル |
今日の横浜北部は昼からやけに暖かくなりまして、すでに春が訪れたような陽気に。ただし今夜からまた寒くなるらしいですが。
さて、最近の私の関心の一つである「プロパガンダ」に関して、ひとつ興味深い議論がありましたのでこれを要約します。
著者は若いころは南アフリカから移住してきたユダヤ人なんですが、エルサレム・レポート誌の編集者を長年つとめた人物です。
===
プロパガンダ戦争での敗北
By ハーシュ・グッドマン
●1965年の2月4日、当時まだ十代だった私は、生まれ育った南アフリカを離れ、まだ見たこともない新しい母国へと旅だった。その母国とは、イスラエルである。
●私は南アフリカのことを好きだったが、アパルトヘイト体制を毛嫌いしていた。それに対してイスラエルという正義と光に満ち溢れた新しい国では、人々はホロコーストの灰の中から新たな生活をはじめていた。これはアパルトヘイトの暗さと抑圧とは正反対であった。
●そしてほぼ50年たった現在だが、「イスラエルはアパルトヘイト国家ではない」「そのような指摘をすることは誹謗中傷でありウソだ」という議論を経て判明してきたのは、イスラエルもアパルトヘイト国家として見られるようになりつつあるということだ。
●そしてその理由は、今日のこの時代における「ブランド」というものが「真実」よりも強力なものであるという点にある。
●理解し難いことかもしれないが、イスラエル自身が「アパルトヘイト国家」というブランドを甘んじていて、さらにはそれを強化してしまうようなことを無意識にやってしまっているのだ。
●アパルトヘイト体制下の南アフリカでは、人が法的な保護のないままに姿を消してそのままということが常にあった。言論の自由はなかったし、「法にのっとった処刑」というものが地球上のどの国家よりも行われているという報告もされていた。報道の自由もなく、1976年1月までテレビも放映されていなかった。
●多くの黒人たちは、部族の土地から不毛なバンタスタン州の荒れ地に強制的に移住させられた。白人が持っている鉱山や、彼らがオーナーになっているビジネスなどで黒人を生かして仕事ができる「パスシステム」は、黒人の家族を引き裂き社会構造を崩壊させることになった。また、このシステムでは少数派の白人の家庭の中で働く黒人の数を豊富にすることになったのだ。
●この体制に違反した黒人たちは逮捕され、ムチ打ちの刑を受けることが多く、ごくわずかな賃金で過酷な労働につかされることになったのだ。
●もちろんこのようなことは、イスラエルやその支配下にある領土では行われていない。しかし国際社会の中ではこのようなイメージが定着しつつある。
●これはひとえにイスラエル自身の行動や、パレスチナ人の土地の占拠に反対したり、場合によっては「ユダヤ人国家」としてのイスラエルの存在を否定する人々の猛烈な反対運動に原因がある。
●彼らは「非正統化」(delegitimization)こそがイスラエルの弱点をつく最も効果的なものであり、そのためのきっかけが「アパルトヘイト」というキーワードであることをよく理解しているのだ。
●イスラエルにとって国際的な「孤立」というのは、イランの核開発計画よりも潜在的に危険なものである。
●パレスチナ人と彼らの(とくに若い世代の、しかもその内の何人かは世界最高峰の大学を出た者たちによって構成される)支持者たちは、第一次インティファーダで使われた投石用の石や、第二次インティファーダの自爆者たちは、過去の戦争で使われた過去の兵器であることに気がついたのだ。
●現在ではボイコットや資本の引き上げ、それに経済制裁などが、イスラエルの占領や「ユダヤ人国家としてのイスラエル」を終わらせるための方法として使われている。
●彼らのメッセージは、「イスラエルはパレスチナ人を抑圧して人権侵害を行っている国である」として、労働組合や教会、大学、そして欧米の国際企業たちに浸透しはじめているのだ。
●たとえば先月のことだが、あるオランダの巨大年金基金が、その投資先であったイスラエルの五大銀行から資本を引き上げており、この理由としてイスラエルの占領政策を挙げた。これはイスラエルのビジネス界や財務省にとって大きな警鐘を鳴らすことになった。
●イスラエルの財務省長官によれば、ヨーロッパからの投資が部分的に滞ったとしても、イスラエルの年間輸出額で57億ドル(5700億円)や一万人の雇用にとっての損失となるというのだ。ところが最大のダメージは、実はみずから招きいれたものだ。
●「アパルトヘイトの壁」、「アパルトヘイト道路」、植民地化、運営上の逮捕、移動制限、土地接収、そして 家屋の取り壊しなどはアパルトヘイトと比較される際に使われる標的となっており、イスラエルが現状維持のままでいる限りは、それらを隠したり否定したりすることはできないのだ。
●軍事的な占領には、チェックポイントや対テロ用の障壁、軍事法廷、武装兵士、それに戦車などがつきものだ。これが現実であり、政治に関係なく、これこそがパレスチナ人とその支持者たちがこの新しい戦争で必要な「武器」なのだ。
●アメリカは来週にも、ケリー国務長官によって、イスラエルとパレスチナ間で新たな和平のための枠組みを進めると見られている。パレスチナ側はこの和平交渉で合意に至らなければ、再び戦闘を開始して国際司法裁判所や国連のような国際機関に独立を訴え、経済制裁やボイコットによって、イスラエルを南アフリカのように屈服させるつもりだという。
●南アフリカが80年代に学んだように、たしかに戦場では核兵器は敵を抑止できるかもしれないが、それではプロパガンダ戦争には勝てないのだ。
●あいにくだがイスラエルは、敵を成功させるために必要な、あらゆることをやってしまっている。和平交渉に集中する代わりに、イスラエルはさらに占領地で住宅を建設する意図を見せており、最近では1月10日に、東エルサレムや西岸地区で1400戸の家を新築する計画を発表している。
●リクード党のベギン首相は1977年にベトナム難民を受け入れており、これはホロコーストのユダヤ人を思い起こさせるという理由があったのだが、今日のイスラエルは、エリトリアやスーダンからの難民受け入れず、代わりに砂漠にある難民キャンプに収容している。これによって、イスラエルは相手に「人種差別社会だ」というレッテル貼りをさせるチャンスを与えてしまっているのだ。
●また、イスラエル政府は12月5日に国内にある人権侵害の状況を調べる団体(B’Tselem,)やマイノリティーの権利を守るための組織(Adalah)にたいして懲罰的な税金を課すことを閣僚会議で決定したことを発表したのだが、これもイスラエルのイメージを悪化させるだけである。
●バンコクの市場で「グッチ」というラベルのついたバッグが売られているのを見たことがある人はわかると思うが、これは「ラベル」が極めて重要な役割を果たしているということだ。そして「アパルトヘイト」というラベルは、それが公平なものかどうかに関係なく、悪影響を及ぼし始めているのだ。
●これはイスラエルにとって後々に大きなツケを回すことになるのだが、どうも内向きになっているイスラエルのリーダーたちは、このことについて鈍感なように思える。彼らはこの新しい「戦場」では、戦車が役立たずであり、軍事力の使用は逆にテレビで放映されてしまうことによって、敵にとって有利になってしまうことをまだ理解できていないのだ。
●和平交渉で平和を実現できなければ、イスラエルはこの戦争に勝つことはできない。
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さすがのイスラエルでも世論戦(プロパガンダ戦争)には負け始めている、ということですね。私はとくにこの「ラベル」や「ブランド」という部分の重要性を著者が認識しているところが興味深かったです。
ちなみにこの文の中で出てきた「非正統化」については、ウォルトの本やその解説CDの中で詳しく説明されておりますのでぜひ。
さて、最近の私の関心の一つである「プロパガンダ」に関して、ひとつ興味深い議論がありましたのでこれを要約します。
著者は若いころは南アフリカから移住してきたユダヤ人なんですが、エルサレム・レポート誌の編集者を長年つとめた人物です。
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プロパガンダ戦争での敗北
By ハーシュ・グッドマン
●1965年の2月4日、当時まだ十代だった私は、生まれ育った南アフリカを離れ、まだ見たこともない新しい母国へと旅だった。その母国とは、イスラエルである。
●私は南アフリカのことを好きだったが、アパルトヘイト体制を毛嫌いしていた。それに対してイスラエルという正義と光に満ち溢れた新しい国では、人々はホロコーストの灰の中から新たな生活をはじめていた。これはアパルトヘイトの暗さと抑圧とは正反対であった。
●そしてほぼ50年たった現在だが、「イスラエルはアパルトヘイト国家ではない」「そのような指摘をすることは誹謗中傷でありウソだ」という議論を経て判明してきたのは、イスラエルもアパルトヘイト国家として見られるようになりつつあるということだ。
●そしてその理由は、今日のこの時代における「ブランド」というものが「真実」よりも強力なものであるという点にある。
●理解し難いことかもしれないが、イスラエル自身が「アパルトヘイト国家」というブランドを甘んじていて、さらにはそれを強化してしまうようなことを無意識にやってしまっているのだ。
●アパルトヘイト体制下の南アフリカでは、人が法的な保護のないままに姿を消してそのままということが常にあった。言論の自由はなかったし、「法にのっとった処刑」というものが地球上のどの国家よりも行われているという報告もされていた。報道の自由もなく、1976年1月までテレビも放映されていなかった。
●多くの黒人たちは、部族の土地から不毛なバンタスタン州の荒れ地に強制的に移住させられた。白人が持っている鉱山や、彼らがオーナーになっているビジネスなどで黒人を生かして仕事ができる「パスシステム」は、黒人の家族を引き裂き社会構造を崩壊させることになった。また、このシステムでは少数派の白人の家庭の中で働く黒人の数を豊富にすることになったのだ。
●この体制に違反した黒人たちは逮捕され、ムチ打ちの刑を受けることが多く、ごくわずかな賃金で過酷な労働につかされることになったのだ。
●もちろんこのようなことは、イスラエルやその支配下にある領土では行われていない。しかし国際社会の中ではこのようなイメージが定着しつつある。
●これはひとえにイスラエル自身の行動や、パレスチナ人の土地の占拠に反対したり、場合によっては「ユダヤ人国家」としてのイスラエルの存在を否定する人々の猛烈な反対運動に原因がある。
●彼らは「非正統化」(delegitimization)こそがイスラエルの弱点をつく最も効果的なものであり、そのためのきっかけが「アパルトヘイト」というキーワードであることをよく理解しているのだ。
●イスラエルにとって国際的な「孤立」というのは、イランの核開発計画よりも潜在的に危険なものである。
●パレスチナ人と彼らの(とくに若い世代の、しかもその内の何人かは世界最高峰の大学を出た者たちによって構成される)支持者たちは、第一次インティファーダで使われた投石用の石や、第二次インティファーダの自爆者たちは、過去の戦争で使われた過去の兵器であることに気がついたのだ。
●現在ではボイコットや資本の引き上げ、それに経済制裁などが、イスラエルの占領や「ユダヤ人国家としてのイスラエル」を終わらせるための方法として使われている。
●彼らのメッセージは、「イスラエルはパレスチナ人を抑圧して人権侵害を行っている国である」として、労働組合や教会、大学、そして欧米の国際企業たちに浸透しはじめているのだ。
●たとえば先月のことだが、あるオランダの巨大年金基金が、その投資先であったイスラエルの五大銀行から資本を引き上げており、この理由としてイスラエルの占領政策を挙げた。これはイスラエルのビジネス界や財務省にとって大きな警鐘を鳴らすことになった。
●イスラエルの財務省長官によれば、ヨーロッパからの投資が部分的に滞ったとしても、イスラエルの年間輸出額で57億ドル(5700億円)や一万人の雇用にとっての損失となるというのだ。ところが最大のダメージは、実はみずから招きいれたものだ。
●「アパルトヘイトの壁」、「アパルトヘイト道路」、植民地化、運営上の逮捕、移動制限、土地接収、そして 家屋の取り壊しなどはアパルトヘイトと比較される際に使われる標的となっており、イスラエルが現状維持のままでいる限りは、それらを隠したり否定したりすることはできないのだ。
●軍事的な占領には、チェックポイントや対テロ用の障壁、軍事法廷、武装兵士、それに戦車などがつきものだ。これが現実であり、政治に関係なく、これこそがパレスチナ人とその支持者たちがこの新しい戦争で必要な「武器」なのだ。
●アメリカは来週にも、ケリー国務長官によって、イスラエルとパレスチナ間で新たな和平のための枠組みを進めると見られている。パレスチナ側はこの和平交渉で合意に至らなければ、再び戦闘を開始して国際司法裁判所や国連のような国際機関に独立を訴え、経済制裁やボイコットによって、イスラエルを南アフリカのように屈服させるつもりだという。
●南アフリカが80年代に学んだように、たしかに戦場では核兵器は敵を抑止できるかもしれないが、それではプロパガンダ戦争には勝てないのだ。
●あいにくだがイスラエルは、敵を成功させるために必要な、あらゆることをやってしまっている。和平交渉に集中する代わりに、イスラエルはさらに占領地で住宅を建設する意図を見せており、最近では1月10日に、東エルサレムや西岸地区で1400戸の家を新築する計画を発表している。
●リクード党のベギン首相は1977年にベトナム難民を受け入れており、これはホロコーストのユダヤ人を思い起こさせるという理由があったのだが、今日のイスラエルは、エリトリアやスーダンからの難民受け入れず、代わりに砂漠にある難民キャンプに収容している。これによって、イスラエルは相手に「人種差別社会だ」というレッテル貼りをさせるチャンスを与えてしまっているのだ。
●また、イスラエル政府は12月5日に国内にある人権侵害の状況を調べる団体(B’Tselem,)やマイノリティーの権利を守るための組織(Adalah)にたいして懲罰的な税金を課すことを閣僚会議で決定したことを発表したのだが、これもイスラエルのイメージを悪化させるだけである。
●バンコクの市場で「グッチ」というラベルのついたバッグが売られているのを見たことがある人はわかると思うが、これは「ラベル」が極めて重要な役割を果たしているということだ。そして「アパルトヘイト」というラベルは、それが公平なものかどうかに関係なく、悪影響を及ぼし始めているのだ。
●これはイスラエルにとって後々に大きなツケを回すことになるのだが、どうも内向きになっているイスラエルのリーダーたちは、このことについて鈍感なように思える。彼らはこの新しい「戦場」では、戦車が役立たずであり、軍事力の使用は逆にテレビで放映されてしまうことによって、敵にとって有利になってしまうことをまだ理解できていないのだ。
●和平交渉で平和を実現できなければ、イスラエルはこの戦争に勝つことはできない。
===
さすがのイスラエルでも世論戦(プロパガンダ戦争)には負け始めている、ということですね。私はとくにこの「ラベル」や「ブランド」という部分の重要性を著者が認識しているところが興味深かったです。
ちなみにこの文の中で出てきた「非正統化」については、ウォルトの本やその解説CDの中で詳しく説明されておりますのでぜひ。
by masa_the_man
| 2014-02-03 18:01
| 日記