戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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チェスの世界選手権と「戦略の階層」

今日の横浜北部は朝から曇りの厳しい寒さ。

さて、最近読んだ本の中に面白いエピソードが書いてありまして、そこから気づいたことを一つ。

私はチェスや将棋はやらないのですが、戦略を学んでいる人間なので、それをプレーする人間たちがどのような考えをもっているのかについては非常に興味あります。

この分野の著作としては、たとえば日本で有名なところでは羽生さんの一連の本がありますが、私がとくに感銘を受けたのはガルリ・カスパロフというチェスの元世界チャンピオンの書いたもの

ところが今回のネタは、このカスパロフの話というよりも、彼が主導した、ある変則的なチェスの世界大会の話。

ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、カスパロフといえばロシア(ソ連)出身の名チェスプレイヤーで、若くして世界チャンピオンになり、その座を10年以上守ったことで有名。

しかしテクノロジーと関連して面白いのは、なんといっても彼が90年代後半に行った、IBMが開発した「ディープ・ブルー」というチェスのソフトとの対決で(ギリギリ?)負けたとされたこと。

これはコンピュータが人類の頭脳を越えた「事件」として有名になりましたが、本当に面白いのはその数年後に行われたチェスの世界大会の話。

このチェスの世界大会は2005年に「フリースタイル」という形式で行われたのですが、奇抜なことに、一つのプレイヤー(というかチーム)は、パソコンと人間をどのように組み合わせてもOKという、プロレスでいうところの「バトルロイヤル状態」(?)で対決するというもの。

そうなるとあらゆる組み合わせがOKなわけですから、さまざまなチームがさまざまな組み合わせで戦えるのですが、大きくわけると、①世界チャンピオンを含む「人間だけ」のチームと、②「コンピューター」だけのチーム、そして③「人間とコンピューター」を組み合わせたチーム、の三タイプにわけられました。

その結果、優勝したのはどこかというと、③のチーム。

しかもこのチームは、なんと世界チャンピオンが全くからんでおらず、アマチュアでパソコンを使うのがうまい、たった2人のニューハンプシャー州のアメリカ人

彼らは2005年当時の家庭用のPC2台(デルとHP)の中に、これまたそこらで売っている5つの普通のチェスプログラム(Fritz, Shredder, Junior, Chess Tiger)を使って勝負しております。

しかも予選ではハイドラ(Hydra)という当時世界最強と呼ばれていたチェス・ソフトを負かせており(ハイドラはこの数日後に世界第七位の人間に勝っている)、決勝は14年間世界タイトル保持者であるドブレフ(と2600人以上のオンライン上の専門家たちのアドバイス)に圧勝しているのです。

彼らの勝因ですが、のちに判明したのは、この二人が、どのプレイヤーたちよりもパソコンを効率よく使うのが非常にうまかったという点(このゲームは制限時間が60分しかない)。

しかも特徴的だったのは、たとえばパソコンのソフトやデータベース上のアドバイスでは「あまり良い手ではない」と判断されても、敵のプレイヤーを心理的にうろたえさせることができる手だと思った場合は、それを迷うことなく使ったという点。

この驚きの結果を見て主催者の一人であるカスパロフがコメントしたのは、「コンピューターの戦術レベルでの正確無比な計算能力と、人間の戦略レベルでの指揮が合致したら世界最強だ」というもの。

つまり、これは「人間対コンピューター」という、まさにカスパロフ自身が経験した対立構造ではなく、これからは「人間とコンピューター」が最強になるということなんですが、面白いのはこれが、

●戦略=人間が担当するアート(芸術、術)

●戦術=コンピューターが担当するサイエンス(科学)

という形の、いわば「戦略の階層」における役割分担がますます求められてくる、という示唆が含まれている点です。

ようするにいままでのチェスの強さの発展として見えてきたのは、

1,チェスの世界チャンピオン
3,パソコンのチェス用ソフト(ディープ・ブルー)
2,チェスの世界チャンピオン(とパソコンのソフトの組み合わせ)
3,パソコン操作のうまい、そこそこのアマチュア

という4つの段階。

ちょっと飛躍してしまうかもしれませんが、ここから見えてくるのは、今後の教育ではある程度のテクノロジーの操作のうまさに加えて、潜在的にますますアート的な抽象度の高いところの重要性が高まる、ということではないでしょうか。


Commented by sirimonkon at 2013-12-24 10:47 x
情報の羅列だけではなく「物語」的な側面が重視されるなら、私はうれしいです。
Commented by 待兼右大臣 at 2013-12-26 22:35 x
この優勝した人は強い。世界チャンピオンが「迷う」手を指せるレベルにあるということです

また、「早指し」は特殊な才能が必要です(例、加藤一二三。羽生氏もタイトル戦レベルでは持ち時間の短い方が得意)。
また、コンピュータのアルゴリズム上、早指しへの対応は、コンピュータのスペックに大きく依存します。
「早指し」は「アート」に属すると現状ではいえるかもしれません。
Commented by ケイ at 2014-01-08 02:18 x
条件次第、ではかな。ただ、ビジネスを始めとする現実問題は不確定要素が多く、時間制限もあるので、筆者の結論に同意。芸術や科学では、もっとも優れた一手を出せる人間かな。不確定要素のない世界なら、計算機がいちばんですね。
by masa_the_man | 2013-12-23 23:43 | 日記 | Comments(3)