戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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トム・スタンデージ著「ソーシャルメディアの2千年」

今日の横浜北部は朝から曇りがちで、午後にはけっこう激しい雨が一瞬降りました。

さて、とても知的刺激を受ける本を読みましたので、そのご紹介を簡単に。

Writing on the Wall: Social Media - The First 2,000 Years
by Tom Standage

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タイトルを直訳すると、「ウォールへの書き込み:ソーシャルメディアの最初の二千年」というものです。

著者はあの「エコノミスト」誌のウェブ版の編集長であるトム・スタンデージでありまして、彼は食べ物や飲み物の世界史のような視点の面白い本をすでに出版しており、このうちのいくつかはすでに翻訳されております。

ヴィクトリア朝時代のインターネット」という本からもわかる通り、かなりテクノロジー系にも強いジャーナリストです。それもそのはず、彼はエコノミスト誌でテクノロジー担当の記者を務めていた経験の持ち主。

今回の最新刊は、すでに本ブログでも以前に紹介したエントリーにもあったような、ソーシャルメディアの歴史についての本であります。

この本の中で一貫して流れているのは、「ソーシャルメディアは昔からあった」というテーマと、その底にある「人間の活動というのは、いくら新しいテクノロジーの発展で劇的に変化したように思えても。その実態はほとんど変わっていない」とする、どちらかという保守的(?)ともいえるもの。

実は先週末に私がクラウゼヴィッツ学会で発表したある論文の内容でも実はこれと似たようなことが主張されておりまして、そのテーマは「戦争の“摩擦”は、そこに人間が介在するがゆえに最先端のテクノロジーでも絶対に解消できない」というものでした。

ようするにこの二つの著作は、テクノロジーの発展における表面的な変化の大きさよりも、その底にある「人間」という要素の不変性というものを意識している点で共通しているんですね。

たとえば今回紹介しているこのスタンデージの本は、18世紀の産業革命以降のマス・コミュニケーションの勃興によるメディアの中央集権化の時代は例外的なものであり、むしろ現在のようなインターネットの普及によってメディアが分散化つつある状態は、実は産業革命以前のメディアの状態が復活しつつあるプロセスである、という驚きの指摘を行っているのです。

私が個人的に心を惹かれた原著者の分析は、ローマ時代のキケロのような人々がメッセージのやりとりに使っていたtabellariiと呼ばれるロウで出来たタブレットがまるで現在のiPadそっくりに見えるということや、聖書(とくに新約)がその時代の最も広範囲に使われていた手紙によって構成されている(「コリント人への手紙」など)のは、当時の社会情勢に合っていたことなどを指摘している点でしょうか。

フランス革命において「詩」が果たした役割や、パンフレットや新聞がアメリカの政治にどのような役割を果たしのかという分析は面白いのですが、彼の強さはむしろ古い時代のメディア、たとえば宗教改革の時に使われた「コラント」(coranto)というニュースレターのようなものが「ソーシャルメディア」としての果たした役割などにスポットライトを当てているところでしょうか。

もちろん前回紹介したようなコーヒーハウスが当時の「ソーシャルメディア」の役割を果たしていたという話もあるのですが、彼の強みは単なる過去の事例紹介だけでなく、その分析から得られた教訓などまで言及しているところかと。

たとえば彼は「メディアは始めはオープンだが、それを段々囲い込もうとする傾向がある」ということや、「これからソーシャルもどんどん分散化していくし、今後もこの傾向は変わらないだろう」ということを、過去の事例から踏まえて分析している点でしょうか。

私の結論としては、「人間というのは変わらないものだなぁ」というところにまた帰ってきてしまうんですが、とにかくこの本は興味深い事例のオンパレードの優れた本です。

おそらく数年以内に日本でも邦訳されるはずです。


by masa_the_man | 2013-11-04 23:35 | 日記 | Comments(0)