英・仏・蘭がカリブ諸国から奴隷制について謝罪と賠償を要求される |
さて、昨日Twitterで紹介した、奴隷制への旧宗主国側への謝罪・賠償金請求に関する最近の動きの話題を。
ここで勘違いしてはいけないんですが、イギリスは賠償金は払っているのは事実。しかしそれは制度を廃止したために損をした奴隷のオーナーたちに対して支払われたもの。
イギリスもフランスもオランダも、賠償・謝罪はしないわけで。
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カリブ諸国は奴隷制の被害について賠償金を計算中
By スティーブン・キャッスル
●ウイリアム・ヘイグ英外相は2008年に出版した自伝の中で奴隷解放のために戦ったある人物に触れつつ、人間を取引する行為というのは擁護しようのない野蛮行為であり、「徹頭徹尾、カネ目当ての残虐で非人道的なものである」と述べている。
●その奴隷経済を支えたカリブの14ヶ国は、ヘイグ氏にたいしてその言葉に見合った通りのことを行うように求めている。
●二百年間続いたこの非人道的な感覚によって、この14ヶ国は自分たちが受けたと信じている被害の目録を作成することを計画しており、その後にイギリス、フランス、そしてオランダという元帝国たちから謝罪と賠償を求めようとしている。
●それを実行するために、彼らは今年にイギリスが1950年代に統治下のケニヤ人にたいして行った拷問にたいする賠償を勝ち取った、ロンドンの弁護士たちを雇入れている。
●イギリスは1807年に奴隷貿易を違法化したが、その遺産は残っている。2006年にトニー・ブレア首相(当時)は奴隷貿易にたいして「深い悲しみ」を表明している。オランダの厚生大臣も7月に同じような声明を発表している。
●イギリスはすでに奴隷貿易の賠償金を支払ったことがある。しかし支払ったのは奴隷のオーナーたちにたいしてであり、その犠牲者たちではない。
●イギリスは大西洋間で300万人以上の奴隷を運搬しており、そのインパクトは莫大なものだった。歴史家たちの推測によれば、ビクトリア朝時代にイギリスの富裕層の五分の一から六分の一は奴隷貿易から何かしらの利益を得ていたという。
●ところがはるか昔に死んでしまっているリーダーや将軍たちの行ったそれらの行為にたいする謝罪――ましてや賠償――というのは、世界中でも微妙な問題となっている。トルコはオスマン帝国時代のアルメニア人の大量死にたいする責任については拒否しているし、それを「虐殺」と呼ぶことなどは(フランス議会はそう呼んでいるが)言語道断だ。
●ビシー政権下のユダヤ人にたいする犯罪にたいして、ジャック・シラク大統領(当時)が謝罪したのは1995年であったし、現在のオランド大統領も去年になって元植民地であるアルジェリアへの扱いが「苛烈で不公平であった」と認めている。しかし彼は謝罪をするには至っていない。
●彼の前任者であるサルコジ大統領は、2010年にハイチへの支援と債務の解消を申し出ており、同時に「植民地化の傷」についても認めている。
●1997年にはイギリスでブレア首相が1840年代の「ポテト飢饉」について「今日でも痛みを感じる問題だ」と述べているが、「痛みを感じる」ということは公式な謝罪とは違うのだ。
●たしかにそのようなコメントでは、1970年にワルシャワのゲットーでひざまずいたウィリー・ブラント元首相や、ナチスの犯罪について賠償金を払った、戦後のドイツほどまでのことは触れられないのだ。
●カリブ諸国側の議論では、彼らの酷い過去が今日まで引き続き彼らをおびやかしている、ということになる。今年の七月にアンティグア・バームーダーのボールドウィン・スペンサー首相は「われわれがいまでも直面している資源開発の困難の原因は、われわれが奴隷制と植民地化された時に蓄積することができなかったという歴史的な過去にあるんです」と主張している。
●彼によれば、賠償金は奴隷制と人種差別によって受けた被害に直接支払われるようなものでなければいけないという。
●ロンドンの法律会社でカリブ諸国に雇われたレイ・デイ社の顧問であるマーティン・ディ氏は、裁判の手続きは来年にハーグの国際司法裁判所で始まる可能性があると言っている。
●「カリブ諸国とアフリカ西部で起こったことはあまりにも酷いことであるとわれわれは感じております。なので国際司法裁判所に提訴すれば勝訴の可能性はあると思いました。実際のところ、ある階層の人間をまとめて服従させるということはとんでもないことですからね」とはデイ氏の弁。
●そのカリブ諸国の何ヶ国は、すでに受けた被害についての調査を開始しており、それらは奪われた教育・経済の機会や食事や健康問題まで含まれるという。
●もちろん「数世紀前の悪行まで追求するのは意味がなく、カリブ諸国は経済開発支援という形で賠償金を受け取っている」と指摘する声もある。
●法的な面でも厳しいものがある。たしかに英米の企業は過去の奴隷制とのつながりについて謝罪しているが、19世紀のアフリカ系アメリカ人の奴隷の子孫たちによる賠償金獲得への試みはほとんど成功していない。そして成功したケニア人のマウマウ族の反乱にたいしてイギリスが行った拷問にたいする賠償のケースでも、奴隷制の被害者が裁判所に姿を表したわけではなかったのだ。
●しかもこのケースでさえ、当初は数々の元植民地から謝罪を申し込まれることを恐れた英政府から疑問の声が発せられ、ヘイグ外相が賠償を行うと発表した時も、「これは先例になるようなものではない」と主張しているのだ。
●英議会はたしかに1807年に大西洋での奴隷貿易の禁止を制定しているのだが、それが効力を発揮するにはかなりの年数がかかっており、1833年に英議会は奴隷の元オーナーたちにたいして2000万ポンドを賠償金として支払っている。ロンドン大学のユニバーシティー・カレッジのニック・ドレーバー氏によれば、これはその当時の国家予算の4割にものぼり、これは現在の210億ドル(20兆円)にもなるという。
●ドレーバー氏の調査によれば、この賠償金を受け取ったのは作家のグラハム・グリーンやジョージ・オーウェルの先祖たちや、現在のキャメロン首相の遠い親戚だという。
●ところが現在の犠牲者の子孫たちにたいする賠償金の支払いの可能性はかなり低い。ケンブリッジ大学の国際法の専門家であるオキーフィー氏によれば「この提訴が身を結ぶという可能性はほぼゼロに近い。これは国際法の中でもたんなる幻想だろう」と言っている。
●彼はオランダとイギリスはすでに国際司法裁判所の権限を認めているが、イギリスの場合は1974年以前の出来事に関しては関知しないとしている。
●オキーフィー氏は「賠償金というのは、国際的にそれが行われた時に違法であると認められた時に支払い義務が発生します。そして奴隷制と奴隷貿易は当時は国際的に違法だったわけではないので、それを行っていた帝国たちもそのように認識していませんでした」と述べている。
●カリブ諸国側の弁護師たちもそれをわかっており、せめて望めるのは公式・外交を通じた圧力によって達成される示談だと暗示している。「われわれの主張は、最終的には歴史的な主張が政治的に解決されるべきだということです。まあそれでも国際司法裁判所でかなりよい主張はできると考えておりますが」とはデイ氏の弁。
●ヘイグ大臣自身の考えも、この難しい事実を表現している。彼はイギリスで最も有名な奴隷制廃止論者であったウィリアム・ウィルバーフォースの伝記の中のエピソードを引用しているのだが、これは1783年に起こった、飲水のなくなった奴隷船から船長が貨物の損失の保険金を獲得するために、133人もの奴隷を海に落としたというものだ。
●2007年はこの奴隷貿易廃止から200周年だったのだが、ヘイグ氏はこのような時代の「男女や子供の売買が、この国のために法にのっとって莫大な規模で行われ、それが利益を上げる商業活動になった」ということに遺憾の意を持つと述べている。
●ところが外相としてのヘイグ氏は賠償金の支払いに反対している。英外務省はイギリスが「奴隷制を非難」しており、現在も存在しているところにはその撲滅を働きかけるとしているが、「われわれは賠償金がその解決法であるとは考えていない」と声明で述べている。
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これは左右にかかわらず、日本にとっても関心の高い話題かと。