「日米同盟の深化」を警戒する韓国の論評 |
さて、韓国政府側が今回の日本側の「2プラス2」の会談について日米側にどのような感想を持っているのかについて興味深い分析記事がありましたので、その要約です。
結局のところ、ルトワックが「自滅する中国」で指摘していたことの正しさがここでも垣間見えております。
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日米の防衛ガイドラインの同意は韓国を苦しめる
By シン・ジェフン
●韓国の新聞の一面の写真がAPECのサミットの様子を物語っている。この写真では、韓国の朴 槿惠大統領が、隣にいる日本の安倍首相を無視して反対方向を向いているのだ。これは10月7日にバリ島でのことである。
●この二人のリーダーはほとんど挨拶を交わしておらず、日本のメディアによれば、接触は「ほんの数秒間」の最小限に抑えられたという。
●この気まずい会合は、東アジアの二つの重要な国同士で溝が深まっていることを象徴しており、中国が領土の主張の強化や北朝鮮の核とミサイルの脅威という日韓両国にとっての安全保障環境が悪化しているにもかかわらず、過去からの歴史認識の違いを何も解決できていないのだ。
●ところが両国を分断させているのは二国間だけの問題だけではない。
●アメリカが日本と安全保障分野でのつながりを深めることは、日本を軍事的に強化することにつながり、それが韓国政府の戦略オプションを狭めるために、韓国側の反感を買っているのだ。
●10月3日に合意された、日米防衛協力のためのガイドラインの来年までの再改定の合意は、日本の独立した軍事能力をワシントン政府が劇的強化しようとしているという憶測の信ぴょう性を高めることになった。
●これによってソウルでは、古くは敵であった日本が、アメリカの利益のために東アジア広域での責任負担を拡大しようとしているのではないかという懸念が巻き起こったのだ。
●韓国の専門家たちは、昔からたとえのように、韓国は中国と日本という大きな二つのクジラに挟まれたエビのようになってしまうのではないかと恐れ始めている。このような推測は、北からの核による脅しと共に、日本による侵略、占領、そして残虐な行為を思い起こさせることになる。
●日本の安保責任の負担が増えることになれば、それは韓国側の戦略面での独自の選択肢にとって悪い兆候となるだけでなく、中国と強いつながりを持つことによって北朝鮮の核能力を抑えようとしている韓国の政策を邪魔をすることになるのだ。
●また、アメリカは韓国側にたいしても責任の負担を譲渡しようとしている。チャック・ヘーゲル米国防長官は、ソウルに四日間滞在した中で北朝鮮の軍事力を見極めた上で、米韓の軍事同盟の強化のための一連の手続きを明言している。
●彼の韓国訪問は、2万8千5百人の米兵士をかかえる韓国にたいするアメリカの防衛のコミットメントを増強するという流れとは反対のできごとであった。
●たとえばヘーゲル長官と韓国の国防大臣は2015年に韓国の将軍への現場の軍の指揮権を譲渡する時期を遅くすることで、今回はほぼ合意に達したところだった。
●また彼らは、韓国の高官たちが自国にたいする北からの核攻撃やミサイル攻撃が起こった際に「北朝鮮の核施設にたいする先制攻撃を認めるもの」と説明している新しい「戦略枠組み」について合意しているのだ。
●その後にヘーゲル長官は10月3日に東京に飛んでいる。そしてそこでケリー国務長官と合流して2プラス2の会合に参加して、来年に日米の新しいガイドラインを制定することに合意しているのだ。この際に、オバマ政権は日本の軍事力の強化の決断について、韓国政府側には何も相談していない。
●韓国側の怒りは、安倍政権が「集団的自衛権」と呼ばれるものを推進しようとしていた時期に行われたことによって、ますます強まることになった。この集団的自衛権とは、日本が「自国の同盟国への第三者からの攻撃を自国への攻撃とみなす」ということだ。
●これによって日本は地域における重要な軍事力を持つことになるだけでなく、必然的に再武装を禁止する憲法9条の再解釈が行われることになるのだ。
●新しいガイドラインは、核武装をしてミサイルの発射を行おうとしている北朝鮮を明らかに標的にしたものだ。この合意の文言の中には中国について一言も触れられていなかったが、尖閣諸島の領有権争いが新たな脅威になりつつあることが暗示されている。
●軍事大国である中国と、悔い改めていない元植民地統治国である日本がアメリカの助けを借りて武装化を行っている状況というのは、韓国にとって挟み撃ちにされてしまう可能性を高めており、これが韓国政府をろうばいさせている。
●この戦略は、朴大統領がとっている「中国と良い関係を形成する」という政策に水をさすものである。しかも中国は、北朝鮮に対して大きな影響力を持っている。同時に、中国は韓国にとって莫大な経済パートナーであり、対外貿易の四分の一は中国とのものなのだ。
●日本政府との凍りついた関係とは対照的に、中国の習近平主席はAPECの席で北朝鮮を制御することについてさらなる約束をしている。サミットとは別の会合で、習主席は朴大統領にたいして「中国は北が核兵器に使用する部品などの輸出を禁止するだけでなく、北がもう一度核実験を行ったら厳しく対応する」と明言している。さらに、彼は中国が国連安保理の決議にしたがって北朝鮮を厳しい経済制裁の状態に置くことを約束しているのだ。
●まとめていえば、中国は現在の東アジアでの影響力の拡大において、韓国に日中のどちらの側にも立たずに、できれば中立的な立場を維持することを願って、韓国側に言い寄っているのだ。
●韓国は、韓国側の地政学的な事情を考えずに日米同盟の強化を決めた、アメリカの政策を不安に感じている。
●10月1日にヘーゲル長官が朴大統領と会談した時、ヘーゲル長官は「そろそろ日本と関係回復したらどうですか」とたずねられた時に、朴大統領は「日韓関係の重要性はわかりますが、われわれの(過去の歴史の)傷に塩を塗り続けているのは日本ですよ」とすぐさま言ったと言われている。
●しかしそのような短気な受け答えにもかかわらず、彼女の選択肢は少ない。
●彼女はもし中国側が北朝鮮に核武装を完全に諦めさせることができなければ、アメリカや日本からの提案をこの時点において拒否できないからだ。また、韓国政府にとっても、領土的に侵略的になっている中国に直面しつつ、日本と米国と距離をおくというのは賢明ではない。
●この戦略的ジレンマを解消する良い兆候として出てきたのは、10月8日から10日まで、韓国の領海内で日米韓の三カ国による合同軍事演習を開催することを合意したことだ。この演習には米空母ジョージ・ワシントンや日韓の艦船が参加している。
●それでも三カ国の同盟関係はスムーズになるというわけではないだろう。アメリカが東アジアにおいて日本に大きな役割を与えようとしていることについて韓国政府は疑念を抱いており、国防費削減に直面している米軍は、その国防の肩代わりを日本にさせようとしているのではないかと疑っているのだ。
●保守派の朝鮮日報は、ヘーゲル長官の東京における合意のすぐ後の10月6日の一面の見出しで「アメリカは反中政策を日本に外注している」と書いている。
●韓国政府の高官たちは、ヘーゲル長官が東京で防衛ガイドラインに合意するということを言わなかったことについて非常に不満に感じている。
●韓国議会の外交委員会の委員長を務めたことのある人物は韓国政府のジレンマについて「状況は混乱している」とコメントしている。彼の考えは、アメリカは勝手に日本の軍事力を強化するのではなく、むしろ日本と韓国の歴史問題を解決するように働きかけるべきだ、というものだ。
●彼によれば、第二次大戦中の従軍慰安婦―これは日本軍に強制的に売春をさせられた女性たちのこと―への率直な謝罪があれば、日韓関係は改善するという。彼は「われわれはオバマ大統領がガイドラインの制定の前にこの問題に関して中立なブローカーとなることを願っております」と述べている。
●そしてアメリカが現在進行中の予算の削減からくる制約のおかげでリーダーとしての役割を放棄しつつあることについての懸念を表明しているのは、彼だけではないのだ。
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アメリカが日本とガイドラインの合意を進めるということを韓国側に相談していなかったということについてお怒りの様子が伝わってきます。これはある意味で韓国政府のインテリジェンスの失敗とも分析できるわけですが・・・・
それにしても「北の暴発を中国に制御してもらう」という指摘はここでも繰り返されてますね。
ということで、非常に興味深い「地政学的」な話題でした。