北岡伸一氏とミアシャイマー教授の「中国拡大論」:その2 |
さて、先日公開しましたメルマガのつづきを。
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さて、今回の「アメ通」の本題です。それは、「中国の拡大傾向」といったトピックを分析する際に、どのようなアプローチを取るのか?ということです。
もちろん、中国の拡大について、北岡氏のように戦前の日本と現代の中国を比較するというアナロジーを使うのもとても面白い手法です。
しかし、政治科学的な手法として、私がぜひ「アメ通」読者の皆さんに認識しておいて頂きたいのが、
何と言っても、私が翻訳をした、シカゴ大学のミアシャイマー教授の理論です。
このジョン・ミアシャイマー教授については、わざわざここで説明する必要のないくらい、アメリカおよび世界の国際関係論の学者の間では知らない人のいないくらいの超有名な、最もハードコアな「リアリズム学派」の学者です。
この"筋金入りのリアリスト"、なぜか日本ではあまり知られていないのですが、彼はかなり以前から、中国拡大脅威論について論じており、ここ数年の間にも、中国拡大論について世界中のあらゆるところからスピーチを頼まれているようです。
余談ですが、「なぜ中国の脅威を一番感じているはず日本が、私を呼んでくれないんだ?」と、ミアシャイマー教授がこぼしている・・・ということを、とある筋より聞いたことがあります。私も彼の話を日本で聞いてみたいですね。
さて、このミアシャイマー教授の「中国拡大論」の分析の手法は、北岡氏の「五つの条件」という分析とはまったく違うアプローチであり、特に、「リアリズム」を理解している「アメ通」読者の皆さんにとっては、非常に興味深いものではないでしょうか。
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まず、ミアシャイマー教授は、中国は人口も軍事力も経済力も大規模な「大国」(great power)であり、そのような大国は拡大的な政策をとらざるをえない、と断言します。
つまり、「大国は拡大する」ということであり、これが彼の理論の核心です。
では、日本はなぜ拡大しないのか。それは現在の日本が「大国」ではないからだ・・・彼はこのように冷酷に、国際政治の"身も蓋もない"現実を分析するわけです。
そして、拡大する大国は何を目指すのかというと、まずは地域覇権を目指す、というのです。それでは、中国にとっての地域覇権とは何か?というと、単純にいえば「東アジアの覇権」。
そして、ここで最も重要なのは、その地域から他の大国の影響力を排除すること。ちなみに東アジアの「他の大国」といえば、それはアメリカのことであり、一歩下がったところに位置するロシアのこと。
「大国」である中国にとっては、このような拡大は非常に「自然なこと」である。
ミアシャイマー教授はこのように指摘します。
さて、如何でしょうか?
このような論理を聞くと、日本の識者たちは「中国の拡大は悪い」といった「価値判断」をしがちです。
実際のところ、前述の北岡氏の議論でも、「(戦前の日本のように)現在の中国の拡大は悪いことだ」
という認識が通底していることが伝わって来ます。そしてその議論を続けると、前述したように、今は中国が「愚」で日本に「義」がある、ということになるわけです。
ところが、ごりごりの「リアリスト」であるミアシャイマー教授は、中国が拡大するのが「善いか悪いか」「それが愚か義か」という、余計な「価値判断」は一切入れていない、という点にお気付きでしょうか?
感情論を徹底的に排して、あくまでも国際システムの物理的な「メカニズム」として、
「あー、でも中国さんは、否が応でも拡大しちゃうんですよねー」
と、冷静に冷酷に分析しているのです。
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このように学問的なアプローチが違ってくると、同じ「中国の拡大」という現象一つをとっても、その捉え方や説明の仕方に面白いほど違いが出てくるのです。
もちろん、私自身は、「余計な価値判断」というものを挟まない国際政治の判断というものを"学問として"叩きこまれてきた人間なので、ミアシャイマー教授の判断の仕方のほうがしっくりと腑に落ちます。
「リアリズム」をどう捉えるのか?ということについては議論が色々ありますが、ミアシャイマー教授のように、「そこに余計な価値判断は一切含まない」という透徹した視点があるのが、「リアリズム」の特色の一つとして挙げられるでしょう。
ミアシャイマー教授は、今回お話した以外にも中国拡大について面白いことを言っています。例えば、
「中国は東アジアの覇権を狙っている、なぜなら、同じ大国であるアメリカも、南北アメリカの覇権を狙っていて、それを19世紀末までに達成したからだ」
と言っているのですが、これはつまり、
「我々アメリカがやったことを、これから中国がやろうとしているだけですよ~」
ということです。
繰り返しになりますが、国際政治を考える時に善悪といった「価値判断」を持ち込まずにアプローチすることで、かなり新鮮な分析や視点が得られるのです。
そして、「リアリズム」系の学問の真骨頂はまさにここにあって、私たち日本人が、今、必要としているのもこの視点なのです。