2013年 03月 25日
人類の「暴力」の使用頻度は減少している? |
今日のイギリス南部は一瞬小雪がちらついた曇り空だったのですが、なぜか昼間から一気に極寒になりました。
さて、かなり以前に要約した面白い記事を編集して再録します。
ピンカーによれば、われわれは「人類史上で最も平和な時代」に生きているのだとか。
====
●元アナーキストのカナダ人のスティーブン・ピンカー氏、彼は若かりし頃、両親に「警察はいらない、政府機関が逆に社会問題の元凶だ」と主張。ところが彼の住んでいた平和なモントリオールで、一九六九年一〇月一七日に暴動や放火や盗みや殺人が大量に発生。原因は警察や消防員をはじめとする公務員がストに入ったから。
●これをきっかけに、ピンカー氏は人間の性質そのものに興味をいだき、まずは言語、そして次に進化心理学(evolutionary psychology)を提唱するようになった。
●彼の主張は、人間の精神面での機能(感情、ものごとの決定判断、そして画像認識など)というのは自然淘汰によってつくられてきたものだ、というもの。
●彼は「若い頃から教育すれば人間はいくらでもつくりかえられる」とする社会工学などには真っ向から反対。その理由は、それらが進化のプロセスの中でわれわれの心の中に残るものを無視しているから。
●彼の新刊本では、人間の最も根源的な性質である「暴力」について議論。この本の中で、彼は数千年間を経て人間の暴力の使用の頻度(殺人件数、戦争の犠牲者数など)は劇的に落ちたと指摘している。
●一般的な進化心理学の原理からすれば、人間の本質にはすでに古代からの暴力の傾向が備わっていることになるために逆に反証になるのでは、と思える。ところがピンカー氏は「人間の脳は環境によってかなり広範囲に反応を変えることができる」と論じている。
●きっかけは彼自身の元々の専門である言語だ。不規則動詞の研究をしている際に、彼は人間の脳の中に言語について二つの機能を発見した。単語帳のような記憶装置の部分と、要素をいろいろと構成して意味をつくりあげる部分である。
●彼はここから「言語には生物学的なルーツがある」と確信。結論としては、「言語は自然淘汰の際につくりあげられてきたものである」となる。
●この主張が認められ、彼は学者としても成功したが、最新刊では暴力の発生率を歴史ごとに図式化して並べており、たとえば一四〇〇年頃のイギリスでは、殺人事件の発生率が現在のそれよりも100倍多かったという。
●彼は二〇〇六年に「あなたが人類の未来に楽観的な理由は?」というテーマでエッセイを書くように頼まれたときに「暴力の低下です」と論じて注目を浴びた。それに賛同する研究結果が世界中から集まるようになり、彼はこれについて本をかかねばならないと思ったらしい。その結果が今回の新刊だ。
●人間の暴力が減り始めたのは、数千年前に最初に国家が誕生した時からだという。それ以来、その率は落ち続けているというのが事実らしい。
●もちろん20世紀には両大戦で大量の人が死んだが、それでも彼は自身の議論の反証にはならないという。その二つの戦いは例外的な事件だから、というのが彼の弁。
●人間の暴力が減ってきたのは「歴史」と人間の「進化する心」が相乗効果を上げているからだとか。
●「人間の本質というのは複雑ですね。暴力に向かう傾向もありながら、共感や協力、自制への傾向もあります」とはピンカー氏の談。
●そしてどの傾向が強まるのかは、実はその時々の「社会環境」によって決定されるのであり、古代の社会では国家がなかったために暴力の傾向が強かったが、文明が台頭してきて社会のルールも変わってくると、暴力が減少しはじめたのだ。
●さらに携帯のようなコミュニケーション機器が人々の間に広まると、悪いアイディアが攻撃されて駆逐される速度がはやまることになる。
●もちろん暴力が減少しつつあるのは事実だが、それが増加する可能性があることも否定できないという。しかし減少している原因を理解できれば、人類は平和を推進できるという。
●最近の本では「“平和のためには正義を求めよ”というのは間違いだ」と論じるものがあるが、これはピンカー氏は正しいと考える。しかし彼の場合は「平和を求めるなら平和になれ」のほうが良いという。
●もしかすると一番正しいのは「平和を求めるのなら心理学を理解せよ」ということになるのかもしれない。
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いつはこの本、戦略学にとってもかなり重要になりそうです。いわゆる「戦争の様相」(character of war)の議論に影響を与えそうなので。
さすがに800頁越えの本なので翻訳は当分出そうにもありませんが、もしかして数冊にわけて出版されるかも?
最近の紛争の死者数の数え方にはけっこう問題があると指摘されているみたいですし、いわゆる「バックスライディング」(後戻り)の問題にももっと言及しないとまずいかと。
それにしても、これはフクヤマの「歴史の終わり」に近いものを感じますね。いい意味でも悪い意味でも。

(昨日たべた超ヘビーなトビー・カーヴリーのランチ。デザートつきで1500円ほど)
さて、かなり以前に要約した面白い記事を編集して再録します。
ピンカーによれば、われわれは「人類史上で最も平和な時代」に生きているのだとか。
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●元アナーキストのカナダ人のスティーブン・ピンカー氏、彼は若かりし頃、両親に「警察はいらない、政府機関が逆に社会問題の元凶だ」と主張。ところが彼の住んでいた平和なモントリオールで、一九六九年一〇月一七日に暴動や放火や盗みや殺人が大量に発生。原因は警察や消防員をはじめとする公務員がストに入ったから。
●これをきっかけに、ピンカー氏は人間の性質そのものに興味をいだき、まずは言語、そして次に進化心理学(evolutionary psychology)を提唱するようになった。
●彼の主張は、人間の精神面での機能(感情、ものごとの決定判断、そして画像認識など)というのは自然淘汰によってつくられてきたものだ、というもの。
●彼は「若い頃から教育すれば人間はいくらでもつくりかえられる」とする社会工学などには真っ向から反対。その理由は、それらが進化のプロセスの中でわれわれの心の中に残るものを無視しているから。
●彼の新刊本では、人間の最も根源的な性質である「暴力」について議論。この本の中で、彼は数千年間を経て人間の暴力の使用の頻度(殺人件数、戦争の犠牲者数など)は劇的に落ちたと指摘している。
●一般的な進化心理学の原理からすれば、人間の本質にはすでに古代からの暴力の傾向が備わっていることになるために逆に反証になるのでは、と思える。ところがピンカー氏は「人間の脳は環境によってかなり広範囲に反応を変えることができる」と論じている。
●きっかけは彼自身の元々の専門である言語だ。不規則動詞の研究をしている際に、彼は人間の脳の中に言語について二つの機能を発見した。単語帳のような記憶装置の部分と、要素をいろいろと構成して意味をつくりあげる部分である。
●彼はここから「言語には生物学的なルーツがある」と確信。結論としては、「言語は自然淘汰の際につくりあげられてきたものである」となる。
●この主張が認められ、彼は学者としても成功したが、最新刊では暴力の発生率を歴史ごとに図式化して並べており、たとえば一四〇〇年頃のイギリスでは、殺人事件の発生率が現在のそれよりも100倍多かったという。
●彼は二〇〇六年に「あなたが人類の未来に楽観的な理由は?」というテーマでエッセイを書くように頼まれたときに「暴力の低下です」と論じて注目を浴びた。それに賛同する研究結果が世界中から集まるようになり、彼はこれについて本をかかねばならないと思ったらしい。その結果が今回の新刊だ。
●人間の暴力が減り始めたのは、数千年前に最初に国家が誕生した時からだという。それ以来、その率は落ち続けているというのが事実らしい。
●もちろん20世紀には両大戦で大量の人が死んだが、それでも彼は自身の議論の反証にはならないという。その二つの戦いは例外的な事件だから、というのが彼の弁。
●人間の暴力が減ってきたのは「歴史」と人間の「進化する心」が相乗効果を上げているからだとか。
●「人間の本質というのは複雑ですね。暴力に向かう傾向もありながら、共感や協力、自制への傾向もあります」とはピンカー氏の談。
●そしてどの傾向が強まるのかは、実はその時々の「社会環境」によって決定されるのであり、古代の社会では国家がなかったために暴力の傾向が強かったが、文明が台頭してきて社会のルールも変わってくると、暴力が減少しはじめたのだ。
●さらに携帯のようなコミュニケーション機器が人々の間に広まると、悪いアイディアが攻撃されて駆逐される速度がはやまることになる。
●もちろん暴力が減少しつつあるのは事実だが、それが増加する可能性があることも否定できないという。しかし減少している原因を理解できれば、人類は平和を推進できるという。
●最近の本では「“平和のためには正義を求めよ”というのは間違いだ」と論じるものがあるが、これはピンカー氏は正しいと考える。しかし彼の場合は「平和を求めるなら平和になれ」のほうが良いという。
●もしかすると一番正しいのは「平和を求めるのなら心理学を理解せよ」ということになるのかもしれない。
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いつはこの本、戦略学にとってもかなり重要になりそうです。いわゆる「戦争の様相」(character of war)の議論に影響を与えそうなので。
さすがに800頁越えの本なので翻訳は当分出そうにもありませんが、もしかして数冊にわけて出版されるかも?
最近の紛争の死者数の数え方にはけっこう問題があると指摘されているみたいですし、いわゆる「バックスライディング」(後戻り)の問題にももっと言及しないとまずいかと。
それにしても、これはフクヤマの「歴史の終わり」に近いものを感じますね。いい意味でも悪い意味でも。

by masa_the_man
| 2013-03-25 10:16