2013年 03月 02日
あるエアパワー理論家の講演:後半 |
今日の横浜北部は朝からよく晴れております。気温はやや冬に戻った感じですが、日差しは完全に春ですね。
さて、昨日のエントリーの続きを。
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⑦効果基盤型作戦(Effect-Base-Operation/EBO)のほうが単純な消耗戦よりも生産的だといえる。
これは戦略面で望ましい結果を戦術面で追求するという意味だ。インプットよりもアウトプットに重視する「結果主義」である。(アメリカの)司令官というのは、敵の行動がどのように変わったかということよりも、出撃回数や落とした爆弾の総重量などに注目しがちだが、これをあらためるべき。91年のイラク戦争の際にはイラクのレーダーの「破壊」そのものよりも、発信することをためらう状況をつくり出せたのはこの好例。
⑧強制的な戦略というのは、そこで目指されているゴールが合理的なものであり、期待がうまくマネージされているものである時に最も効果を発揮する。
これは限定的な戦略目標(クウェートからのイラク軍追い出し)を持っていた91年の作戦がその典型。バルカンでの二回のNATO空爆も、ミロセビッチのアルバニア人虐殺を止めるという限定的な目標だったから成功した。その反対の例が2006年夏のイスラエルの対ヘズボラ戦。二人の兵士を取り返すという無理な目標を掲げてしまった。
⑨敵の体制転覆が目標で、たとえ上手く打倒できたとしても、それだけでは目標を十分達成することはできない。
これは91年以降のイラク、そして2001年以降のアフガニスタンで十分経験済み。
⑩作戦開始当初の目標からどんどん外れていってしまう、いわゆるミッション・クリープ(任務の漸動)は後で大きな代償を生み出すことになる。
これも2006年のイスラエルの対ヘズボラ戦が好例。2002年以降のアメリカのアフガニスタンでの経験もこれが最も当てはまる。当初はアルカイダの基地の破壊と(ビンラディンをかくまっている)タリバン政権の追い出しが目標だったが、この後にイラクに注意を向けてしまったために、タリバンはその隙をついてアフガニスタン内で再び勢力を拡大してしまった。
その後にNATOがアフガニスタンの国家建設を始めたわけだが、これは当初は全く考慮されていなかった。ほとんどのアメリカ人はそもそもこのような介入を失敗だったと考えている。
⑪戦略が悪ければ、いくら世界最高の軍隊(とくにエアパワー)を持っていても絶対に失敗する
99年コソボ爆撃で当時のエリス提督は「俺たちはラッキーだった」と答えているが、その通り。2003年以降のブッシュ政権の対応はこれにつきる。フセイン後の戦略がまともに考えられていなかったのが致命的だった。
⑫大国というのは戦争を選べるわけではない
これは日本にもアメリカにも当てはまる。必ずしもやりたい戦争ができるわけでなく、つねに予想外のことが起こるということだ。91年の湾岸戦争が始まるという時でも、米軍はまだワルシャワ条約機構の西ヨーロッパへの陸上侵攻を警戒していた。1990年の七月の時点で、アメリカの専門家の中にその半年後にベトナム以来のハイテク戦争を米軍が戦うことになると予想できている人はいなかった。バルカンの二回の空爆もその通り。これは今回触れたすべての戦争に当てはまる。
結論としては、アメリカは今後も様々な形の紛争に対処できるようにあらゆる手段を残しておかなければならないということだ。
===
以上です。
あらためて感じたのは、やはりこれは世界最大の軍事力をもっているアメリカ人の視点だなぁということでしょうか。日本にどこまで教訓が適用できるかというと、はなはだ疑問のところが。
個人的には一番興味深かったのはミッション・クリープのところでした。アメリカにこれをやってまだ失敗できる余裕がある、という意味にもとれますね。しかしイギリスの場合もそうですが、力がある国というのは必ず驕って戦線拡大してしまうわけで・・・
この後に会場からの質問があったわけですが、私も無人機について質問しました。彼は「無人機」というのは間違いで、正しくは「遠隔操縦飛行機」(remotely-piloted-aircraft)というべきものであり、実は空軍のパイロット自身が一番これを推進していた面がある(命の危険を回避できるから)と申しておりました。
さて、昨日のエントリーの続きを。
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⑦効果基盤型作戦(Effect-Base-Operation/EBO)のほうが単純な消耗戦よりも生産的だといえる。
これは戦略面で望ましい結果を戦術面で追求するという意味だ。インプットよりもアウトプットに重視する「結果主義」である。(アメリカの)司令官というのは、敵の行動がどのように変わったかということよりも、出撃回数や落とした爆弾の総重量などに注目しがちだが、これをあらためるべき。91年のイラク戦争の際にはイラクのレーダーの「破壊」そのものよりも、発信することをためらう状況をつくり出せたのはこの好例。
⑧強制的な戦略というのは、そこで目指されているゴールが合理的なものであり、期待がうまくマネージされているものである時に最も効果を発揮する。
これは限定的な戦略目標(クウェートからのイラク軍追い出し)を持っていた91年の作戦がその典型。バルカンでの二回のNATO空爆も、ミロセビッチのアルバニア人虐殺を止めるという限定的な目標だったから成功した。その反対の例が2006年夏のイスラエルの対ヘズボラ戦。二人の兵士を取り返すという無理な目標を掲げてしまった。
⑨敵の体制転覆が目標で、たとえ上手く打倒できたとしても、それだけでは目標を十分達成することはできない。
これは91年以降のイラク、そして2001年以降のアフガニスタンで十分経験済み。
⑩作戦開始当初の目標からどんどん外れていってしまう、いわゆるミッション・クリープ(任務の漸動)は後で大きな代償を生み出すことになる。
これも2006年のイスラエルの対ヘズボラ戦が好例。2002年以降のアメリカのアフガニスタンでの経験もこれが最も当てはまる。当初はアルカイダの基地の破壊と(ビンラディンをかくまっている)タリバン政権の追い出しが目標だったが、この後にイラクに注意を向けてしまったために、タリバンはその隙をついてアフガニスタン内で再び勢力を拡大してしまった。
その後にNATOがアフガニスタンの国家建設を始めたわけだが、これは当初は全く考慮されていなかった。ほとんどのアメリカ人はそもそもこのような介入を失敗だったと考えている。
⑪戦略が悪ければ、いくら世界最高の軍隊(とくにエアパワー)を持っていても絶対に失敗する
99年コソボ爆撃で当時のエリス提督は「俺たちはラッキーだった」と答えているが、その通り。2003年以降のブッシュ政権の対応はこれにつきる。フセイン後の戦略がまともに考えられていなかったのが致命的だった。
⑫大国というのは戦争を選べるわけではない
これは日本にもアメリカにも当てはまる。必ずしもやりたい戦争ができるわけでなく、つねに予想外のことが起こるということだ。91年の湾岸戦争が始まるという時でも、米軍はまだワルシャワ条約機構の西ヨーロッパへの陸上侵攻を警戒していた。1990年の七月の時点で、アメリカの専門家の中にその半年後にベトナム以来のハイテク戦争を米軍が戦うことになると予想できている人はいなかった。バルカンの二回の空爆もその通り。これは今回触れたすべての戦争に当てはまる。
結論としては、アメリカは今後も様々な形の紛争に対処できるようにあらゆる手段を残しておかなければならないということだ。
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以上です。
あらためて感じたのは、やはりこれは世界最大の軍事力をもっているアメリカ人の視点だなぁということでしょうか。日本にどこまで教訓が適用できるかというと、はなはだ疑問のところが。
個人的には一番興味深かったのはミッション・クリープのところでした。アメリカにこれをやってまだ失敗できる余裕がある、という意味にもとれますね。しかしイギリスの場合もそうですが、力がある国というのは必ず驕って戦線拡大してしまうわけで・・・
この後に会場からの質問があったわけですが、私も無人機について質問しました。彼は「無人機」というのは間違いで、正しくは「遠隔操縦飛行機」(remotely-piloted-aircraft)というべきものであり、実は空軍のパイロット自身が一番これを推進していた面がある(命の危険を回避できるから)と申しておりました。
by masa_the_man
| 2013-03-02 11:58