戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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テクノロジーと失業問題:自由貿易は不幸をもたらす?

今日の横浜北部は朝から快晴です。そういえば今日は東京マラソンみたいですね。

さて、引き続き私の関心の中心にあるテクノロジー関連のネタについて。

しかしこの記事は本当に興味深い。というのも、ある意味で現在の自由貿易の思想の否定とも受け取られかねない知見が含まれているからです。

日本にとっても他人事ではない深刻なトピックです。

===

テクノロジー、貿易、そして減少する雇用
Byクリスティア・フリーランド

●先日のオバマ大統領の一般教書演説で確認されたのは、「先進国における政治・経済面での最優先で取り組まなければならない問題は、資本主義を中間層の人々にとってどう上手く働くようにするのか」という点だ。

●これはある意味で当然のことと言えよう。今世紀のアメリカにとって最も重要な事実は、中間層の人々の所得が停滞しているということだ。金融危機のおかげで、ヨーロッパのほとんどの国でも同じ構造的な問題があることが判明している。

●19世紀のような暗い時代は過去となった比較的豊かな現在でも、この中間層の衰退は経済だけではなく、政治的な問題である。民主制度のそもそもの目的は、「多数の人間にポジティブな結果をもたらす」というものだからだ。

●これらはすべて「現在中間層に何が起こっているのか」を知ることが極めて重要であることを物語っている。

●この点について、MITの経済学の教授であるデイヴィッド・オートー氏に話は有益である。彼は中間層が直面している最も深刻な、雇用の「二極化」についての専門家だ。

●「二極化」とは、経済全体がトップの高収入層と低収入層にわかれ、社会の土台を構成していた中間層の仕事が失われているという意味だ。

●わたしが先週このことについて聞いた時、彼はアメリカの中間層の停滞については独自の答えを持っていることがわかった。

●それは、「最も問題なのは、このような驚くべき雇用の停滞がはじまってまだ十年しか経っていないことです。2000年か2001年あたりから突然この問題が深刻化したのです」というものだった。

●学者というのは大抵の場合はすべてにおいて自信のある説明をしてくれるものだが、オートー氏のこのような答えを聞いて、私はかえって驚いた。「この原因について誰もわからないのです」というのが彼の最終的な答えだったからだ。

●これは魅力的な控えめな答えだったが、彼が他の学者との共同研究では、中間層で何が起こっているのかを読み解くにあたって常識感覚と学術研究が一致するのは、そこに二つの力が働いている、という点だ。

その二つの力とは、「テクノロジーの変化」と「貿易」である。もちろん感覚的にいえば、この二つの力は混じり合っているというのが本当のところだろう。

●結局のところ、貿易にはテクノロジーが必要なのだ。たとえばインターネットや高度に発達した物流システム、それに飛行機などがなければ、海外へ仕事を外注(アウトソーシング)できないからだ。

●また、テクノロジー自身も貿易に依存している。グローバルな事業展開の可能性というのは、テクノロジーのイノベーションがここまで展開してきた理由の一つだからだ。

●ところがアメリカ国内の労働市場の実態を詳しく調査した彼らの研究によれば、貿易とテクノロジーというのは、雇用の結果についてかなり異なる影響を与えていることがわかっている。

●オートー氏は「いやあ、この二つの違いには驚きましたよ。われわれの調査では、貿易のほうが失業率に明確に影響を与えていることはわかっています。たしかにテクノロジーは仕事の二極化につながるんですが、雇用についての影響はかなり限られています」と述べている。

●つまり少なくとも短期的には、貿易は海外へ雇用を逃がしてしまうのだ。そしてテクノロジーは雇用自体を無くすことにはならないのだが、中間層に必要となる仕事を空洞化させてしまうのだ。

●私のような古典自由主義派の「貿易はそれに関与する双方の国にとって利益になる」という経済観を持っている人間にとって驚きだったのは、「グローバル化はアメリカの労働者にとってかなりネガティブな影響を与えている」という調査結果だった。

●オートー氏たちによれば、これは失業のうちの15%から20%に当たると推測されるという。

●彼は「中国の台頭は大きいですね。本当に大きなインパクトです。第一に、中国は巨大な国であり、第二にテクノロジー面ではわれわれとは40年から50年の遅れがあります。よって追いつくまでにはまだ色々とやるべきことがあるわけです。第三に、これらの発展が急速に行われているということですね」と言っている。

●ここで驚くべき(そして恐るべき)ことは、少なくとも米中の貿易関係についていえば、知識人たちがあざ笑うようなポピュリストたちの反射的な恐怖感が、実は本当に正しかったと言えることだ。

●「米中貿易はほぼ一方通行です。この貿易関係は相手に大量にモノを売ることによって明確に利益を得られるということにはならないからです。自由貿易の推進というのは、たとえばアップルの本社にとっては利益になるでしょう。ところがそれで最初に何が起こるかといえば、(アメリカ人の)仕事の消滅です」とは別の共同研究者の言。

●テクノロジーのインパクトはもっとわかりやすいものだ。この共同研究者たちは全体的に仕事の数が減少することにはならないが、それでも中間層の仕事が消滅することを確認している。

●「テクノロジーは仕事の分布状況を本当に変えました。もちろんこれは必ずしも雇用の喪失の直接的な原因になるわけではないのですが、二項的な組み合わせのチャンスを創出することになるのです。食品系と金融・財政系には仕事が溢れているわけですが、中間層向けの中間の所得の仕事は少なくなってきています」とオートー氏。

●この二つのトレンドが突きつけている課題、そして中間層の仕事の喪失が政治的・経済的な問題となってくる理由は、あなたが会社の経営者からそれとも従業員かという立場の違いで、その問題への視点が大きく異なってくるという点だ。

中間層の仕事を中国に輸出してしまうことや、仕事を機械に任せてしまうことは、頭のよい管理職や株主たちにとっては「利益」になる。これをわれわれは「生産力の向上」と呼ぶ。

●ところが中間層の雇用という視点からみれば、これは「損失」に他ならない。

●この大きな視点の違いが、現在の先進国の民主制国家の政治が二極化していることにつながっている。資本主義と民主制度は互いに矛盾するものであり、誰もこの二つを上手く調和させる方法を知らないのだ。

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うーむ、意外とヘビーな話題ですな。

民主制度と資本主義、そしてそこにテクノロジーが果たす役割についての問題というのは、地政学の祖であるハルフォード・マッキンダーも主著のテーマにしたほど深刻な問題です。

結局のところ、21世紀も人間はこの問題に相変わらず悩まされて行くということですね。
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Commented by えんき at 2013-02-24 13:44 x
テクノロジーによる失業に関しては長期的には良い結果に成ると思っていますが、現状のグローバル貿易には確かに問題があります。リカードの比較優位理論に基づく自由貿易は、各国の産業構造を分業体制に変えてしまいます。その結果は単に各国が単体で生存する能力を低下させるだけではなく、社会を構成する民衆自身が存続を望まなくなってしまう恐れがあります。

外国製の商品を外国人従業員が売り、道路などのインフラですら外国人労働者が作っているような国では、民衆は自分達が社会を作り上げている一員だという実感を持てなくなってしまいます。西欧諸国で生活するのに問題の無さそうな中間層までが暴動に参加して町を破壊する理由は、「こんな社会など存続する価値が無い。滅んでしまえ。」と内心思っているからでしょう。
Commented by 大阪人K at 2013-02-24 23:15 x
貿易について話を日本に限定していえば、日本にとっての貿易は輸入するためのものであって、それ以上もそれ以下でもないというのが私の認識です。
そして輸出は海外から必要な食料や資源を輸入するために支払うための外貨稼ぎでしかありません。
極端に言えば、食料、資源が安く国内で供給できれば貿易の必要は減るといっていいのではないでしょうか。

テクノロジーの発展による労働問題は相半ばといったところでしょうか。確かにテクノロジーの発展によって職がなくなる側面がありますが、発展がなければ”過酷な労働”を強いられる階層が必要になってくるのも事実であります。(必要であれば意図的にそういう階層をつくる訳です。)
よって、テクノロジーが労働環境に与える影響については、もっと個別に見る必要があると思う次第です。
Commented by ちゃんきり at 2013-02-25 09:48 x
Welcome to Marxism!ってな感じですね。。。
資本主義と民主主義の調和は、個人的には戦後から80年代までの日本のモデルが一つのヒントになるかと思うんですが。
Commented by masa_the_man at 2013-02-27 11:10
えんきさんへ

>社会を構成する民衆自身が存続を望まなくなってしまう恐れがあります。

なるほど

>西欧諸国で生活するのに問題の無さそうな中間層までが暴動に参加して町を破壊する理由は、「こんな社会など存続する価値が無い。滅んでしまえ。」と内心思っているからでしょう。

まあ「不満」ですよね。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2013-02-27 11:12
大阪人K さんへ

>食料、資源が安く国内で供給できれば貿易の必要は減るといっていいのではないでしょうか。

たしかにそうですが・・・現在の産業構造がグローバル化してますからねぇ

>テクノロジーが労働環境に与える影響については、もっと個別に見る必要があると思う次第です。

ですな。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2013-02-27 11:13
ちゃんきりさんへ

>資本主義と民主主義の調和は、個人的には戦後から80年代までの日本のモデルが一つのヒントになるかと思うんですが。

そうですな。ただしこれもその後で変化してしまったわけで・・・持続性のあるものとなるとやはり難しいですね。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2013-02-24 11:32 | 日記 | Comments(6)