地政学が死んでいない理由:その1 |
さて、アルジェリアでの事件に関連して、地政学が死んでいない理由について少し。
カナダ時代に地政学を勉強しはじめてから何度も聞いたのが「地政学は死んだ」という、ニーチェみたいな死亡宣告。
実は私の指導教官も同じような批判を受けて、何度か他の学者と論争をしているのですが、いつも「地政学は死んだ」宣言というのは説得力に欠けるなぁというのが私の正直な感想。
最近でも日本の某サイトで「エアパワーの登場で地政学の理論はすでに無意味になっているという」似たような議論がされていたようですが、これもずいぶん的外れ。
なぜこうなのかと自分でも色々と考えたことがあるんですが、最近この理由がわかってきました。
そのヒントは、戦略学におけるパワーの議論にありました。
ご存知の通り、戦略学の議論というのは、まずは陸上戦の理論(ジョミニやクラウゼヴィッツなど)から始まりまして、次にマハンやコーベットがシーパワー(海軍力)の理論を形成し、そこからドゥーエやミッチェル、それにセヴァルスキ―などがエアパワー(空軍力)、ラプトンやドールマンがスペースパワー(宇宙軍力?)の理論、そしてリビッキーやアキーラ&ロンフェルトなどがサイバーパワーについての理論を提唱しており、このような形で段々と順を追って発展してきたことがよくわかります。
未来学者のトフラー夫妻などが唱えていたものも一緒でして、彼らの場合は「第一の波」(農業)、第二の波(工業)、そして第三の波(情報)という概念をつかって、産業や戦争の様相の変化について論じております。
ところがわれわれ、というか、とくに「地政学が死んだ」と考えてしまう人々が犯してしまう最大の間違いは、このような新しい戦略理論が出てくるたびに「古い理論が全く意味をなさなくなってしまった」と思い込んでしまうこと。これは大きな勘違い。
そしてこの勘違いを理解するための大きなヒントになるのが、私は人間の脳の構造だと考えております。
人間の脳というのは、大きくわけると情動や自律神経などを司る、脳幹や海馬、扁桃体などを含む「古い脳」の部分と、理性、高度な思考や言語などを司る、大脳皮質などの「新しい脳」の部分に分類できるわけです。
この辺の知識はみなさんにも一般常識としてなんとなくおわかりいただけるかと。
そしてここで私が重要だと考えるのは、爬虫類の脳ともよばれる「古い脳」がまず先にあって、そこから人類が進化するにしたがって「新しい脳」が段々とできてきたという事実。

いいかえれば、脳というのは進化した人間の特徴をつくっている「新しい脳」の部分を備えていながらも、爬虫類時代の「古い脳」の影響から逃れられていないということなのです。
そしてはここから見えるのは「地政学が死んだ」という的外れな批判と同じ構造です。
時間がないので今日はここまで。明日はこの辺の話についてはもう少し掘り下げて考えてみたいかと。