オフショアコントロール:試訳 |
とりあえず最初の試訳部分だけ公開。
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二〇一一年一一月にオバマ大統領は「アジア太平洋地域におけるわれわれのプレゼンスと使命を最優先事項とします」という声明を発表している。アメリカがこの「アジアへの転回」を実行する中では、たとえ起こりそうになくても、中国との紛争に備えた軍事戦略を考えなくてはならない。
ところが今日までこのような戦略は提案されていない。中国の軍事能力の向上や既存の核弾頭、アメリカの国防費の減少やサイバー領域における実質的な攻撃の優位などを踏まえて考えると、「オフショア・コントロール」(Offshore Control)は、アメリカとその同盟国たちにとって、許容範囲内での紛争終結のための戦略を与えてくれることになる。
軍事戦略というのは時として単に紛争における成功のためのガイダンスとしてしか見られないが、紛争が起こる前の抑止や同盟構築のための役割というのもそれと同じくらい重要なものだ。
抑止というのは水爆を持っている敵と対峙する場合にはとくに重要である。したがって、中国と戦うためのアメリカの戦略は、それがどのようなものであれ、三つのことを達成しなければならない。
第一に、アメリカの同盟国たちに信頼してもらうよう安心してもらうことだ。
第二に、アメリカの戦略に勝つことができないことを中国に信じさせることによって、中国の侵攻を抑止するものでなければならない。
第三に、もし戦争が起こった場合には、核戦争へとエスカレートする可能性を最小限に抑えつつも戦争に勝たなければならない。
ところが戦略を形成する上でそれ以外の二つの要因が邪魔をすることになる。一つが、その地域のアメリカの影響力とプレゼンスを維持するためのコストを大幅に減少させることになる、迫り来る防衛費の削減である。
もう一つが、アメリカと中国の間の紛争には「良い戦略」など存在しないことだ。この二国間で行われる紛争は世界経済に莫大な損害を与えることになるからだ。好ましい結果というのは不可能であるため、戦略家はなるべく最悪にならない結果につながる戦略を求めざるを得ないのだ。
戦略のための概要
戦略家たちに指針を与える有益なモデルは数多くある。私はエリオット・コーエンのものを使用する。彼は「戦略には決定的な諸想定、目的・方法・手段の整合性、優先順位、進行順序、勝利の理論などを含むものでなければならない」と述べている。
各要素はそれぞれ必須なものであるが、まず計画を作成する人間は常に想定の設定から始めなければならない3。これらの想定に耳を傾け、検討し、そして疑問を投げかけることができなければ、戦略を作成したり、その善し悪しを判断することは不可能なのだ。
この次のステップ―目的・方法・手段の整合性を整えること―は、使用可能な手段が戦略の目的を達成する形で適用できるのかどうかを、戦略家に真剣に検討させることになる。もし目的・方法・手段が調整されていなければ、それは戦略とは言えない。
優先順位も必要となる。なぜなら誰もすべてのゴールを達成するだけの十分な手段を同時に持つことはできないからだ。そして当然だが、進行順序は優先順位から進められることになる。
コーエンのリストの最後に書かれているのは、戦略には「勝利の理論」、つまり「どのように終わらせるのか?」という問いかけがなければならないということだ。戦略には、戦争を自分側にいかに都合の良い条件で終わらせるかが表されていなければならない。
その他にも、戦略は地政学的な状況において信頼できるものであり、かつ実行可能なものでなければならない。
オフショア・コントロールは、中国の海上貿易を遮断しつつ、アメリカと協力する意志を持つ国々と組んで、彼らの領土を守るのだ。
また、オフショア・コントロールは中国との戦いで決定的な勝利を収めようとするのではなく、中国本土のインフラにかなり限定的なダメージを与える経済消耗戦を仕掛けつつ、こう着状態をつくって紛争を終了させようとするものだ。
戦争の終結は、物理的な破壊ではなく、経済の消耗を通じて実現されるのだ。