エアシーバトルで中国を手なずけられるか? |
さて、久々に安全保障関連の記事の要約を。書いたのはイギリス人の若手研究者ですが、なかなか鋭い分析をしております。
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最高の国防は「対話」にあり
By ウォルター・ラドウィグ
●米国務省の「日米安保は尖閣に適用できる」という声明発表と、時期を同じくして行われたレオン・パネッタ米国防省長官の北京訪問は、米中間で高まりつつある、アジアにおける軍事プレゼンスの緊張を見せつけることになった。
●この状況では、中国側はアメリカに対抗しようとしており、国防戦略が外交に絡んでくると危険な「勘違い」が生じやすくなる構造も浮き彫りになっている。
●オバマ政権のアジアにおける「軸足」の根拠となる米軍の軍事戦略は、国防省内では「エアシーバトル」として知られている。
●この戦略は、海・空軍の長距離機動投射能力を使って、潜在的な敵国が米軍を「排他地域」に侵入してくるのを阻止するために設置する機雷や潜水艦、対艦ミサイルなどの高度なテクノロジーを克服することを狙って採用されている。
●これは対イラン戦にも使えるのだが、主な狙いはアメリカの同盟国が段々と対立姿勢を見せてきている中国に警戒感を強めている、アジア・太平洋地域に採用されるものと想定されている。
●これにたいして北京政府は「中国に対する明確な挑戦の兆候だ」と解釈している。
●つい先頃の尖閣危機が起こった時、私は北京に滞在中で、様々な中国の戦略関係者と会合を行っているところだった。この会合ではっきりとわかったのは、北京は「エアシーバトル」や、それよりも大きなアジアへの「軸足」の転換を北京に対する挑発であると感じているということだ。
●ところが同時に判明したのは、人民解放軍や北京政府では、自分たちの圧力的な戦略が地域や隣国を恐れさせているものなのかを理解できている人はほとんどいない、ということだった。
●その反対に、多くの中国側の関係者たちは、「中国の立場を強力に海外へと推し進めていけば必ず他の大国から尊敬と協力を得ることができる」と信じていたのだ。
●一方でアメリカの政府関係者たちは、エアシーバトルは特定の国に向けて用意されたものではなく、あくまでも中東やアジア・太平洋地域で安全保障の維持のために必要となる軍事能力の維持のためのものであるという苦しい公式説明を行っていた。
●ところがプライベートの会話では、彼らはエアシーバトルは次の台湾海峡危機や南シナ海における紛争を念頭に置いたものであることを告白するのだ。
●もちろん中国もアメリカも、相手側が敵意を持っており、自分たちは防衛のために軍事的な準備を行っていると見なしている。よって、このような状況で公式声明として出される「調和のある関係づくり」が少なくとも虚しい言葉に聞こえてしまうのは当然であると言えよう。
●ストックホルム国際平和研究所は中国が二〇一一年度に国防費として1290億ドル使ったと発表しているが、このうちのかなりの部分が「A2」(近接拒否)の能力の獲得に使われたとしている。
●その大規模な国防費にかかわらず、中国の軍事テクノロジーと軍はほとんど実戦を経験しておらず、最後に使われたのは一九七九年のベトナムへの侵攻で失敗した時だ。
●さらに重要なのは、北京政府の主な安全保障の関心は国内に向いているという事実だ。つまり人民解放軍のかなりの数が国境や治安維持のための支援に使われているのだ。
●また、人民解放軍では、それぞれの管区が独立して「軍閥」になるような事態を防ぐために、かなりの努力や資源が使われていることも指摘しておくべきであろう。
●一方でアメリカ人は、米軍が世界の国際秩序を担保して維持するポジティブな役割を果たしていると考えがちである。
●たとえばペルシャ湾地域にプレゼンスを維持することによって、石油がアジアやヨーロッパへ流れるのを見守ったり、アジアやヨーロッパで安全保障を担保することによって互いの敵対関係を緩和し、互いの経済成長に集中させるように仕向けるというものだ。
●ところが中国にとってアメリカが脅威に映るのは当然といえよう。なぜならアメリカには自分たちよりも六倍もの国防費があり、アジアでの第三、第四、第五の強さの軍事力をもつアジアの国々と同盟関係だったり戦略的パートナーになったりしているからだ。
●北京の政策家たちが認識しなければならないのは、米軍がグローバルなコミットメントを行っており、そのうちのほんの一部がアジア太平洋地域に向けられているという事実だ。
●その証拠に、オバマ大統領の「軸足」発言にもかかわらず、米陸軍と海兵隊は、イラク戦争前のレベルに回復されるだけであり、しかも恒常的な派兵は考えられておらず、国防費の総額も次の十年間で4870億ドルの減額されることになるのだ。
●もちろん私はアメリカに「エアシーバトルをやめよ/A2への対抗をやめよ」と提案しているわけではない。民主制度や重要な貿易相手国とのアクセスを守り、同盟国を安心させるためには、アメリカの軍事力の投射能力は必要となってくるからだ。
●ところがこのコンセプトは、中国の戦略関係者の間には深い不信感を呼び起こすものであり、この戦略でカギになってくるのは、中国のトップのリーダーや学者、それに戦略家たち、そして次世代の若い軍のリーダーたちに広い交流関係を築くことなのだ。
●米軍が頻繁に行っている近代化についてや、中国の軍事力と行動についての率直かつ明快な説明は、両者の対話に欠かせないものであり、世界の二大経済国同士の協力関係にも必要なものだ。
●それとは反対に、軍事戦略だけの狭いフォーカスは互いの疑いを増すだけであり、コストのかかるライバル関係をエスカレートさせるだけだ。
●両国は、軍事計画というものはリスクのヘッジを狙った最悪のシナリオの想定であり、どちらかが望む結果を表明したものではないということを思い起こす必要があるのだ。
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「エアシーバトル」の話が出てきましたが、この記事の筆者が勘違いしているのは、これは「作戦」であり、「軍事戦略」ではないというところですね。
それと興味深いのは、北京も米国も、「自分が強硬的な姿勢を見せれば他国は屈服する」という意識を持っていることが伝えられていることでしょうか。
これはつまり、大国というのもの他国が自分の力を恐れて「バンドワゴニング」するというバイアスを持っているということを図らずも表明してしまったということです。
問題なのは、この「バンドワゴニング」というものは歴史上あまり発生していないということですね。つまり豊富な軍事力をそなえた大国というのは、「他国がバンドワゴニングする」と勘違いする傾向、いわば「バンドワゴニング思い込みバイアス」(?)を持ちやすいということです。
