尖閣/デモ問題についての「解釈」の違い |
さて、尖閣問題に端を発する中国におけるデモや日本の人や資産にたいする破壊・テロ行為が行われておりますが、これをちょっと冷静な目で簡単に分析してみようかと。
まずこの分析を行う前に参考になるのが、「冷戦」の原因についての、英語圏の分析の解釈の違いです。
「なぜ日中間の紛争に冷戦の分析なんだ!」と“違和感”を感じる人もいるかもしれないのでまずお断りしておかなければならないのですが、「冷戦」(the Cold War)というのは、その当時の世界中の知識人を巻き込んで悩ませた大問題であり、その原因(誰がその紛争を始めたのか)については、当然ですが現在でも歴史家の間ではひとつの大きな学問分野として確立されているほど。
そして当時の世界の政治学者たちは、自分たちの頭脳を最大限発揮して考えた末に、かなり単純ではありますが、冷戦の原因については主に三つの解釈があるという結論に至っております。
ではこの冷戦、一般的にはその原因がどこにあると論じられているのかというと、以下の三つの「学派」がそれぞれの原因を主張しております。
まず第一の学派が、「伝統学派」や「オーソドックス学派」と呼ばれるもので、これを支持する人々や学者というのは、基本的にアメリカの公式見解、つまり「ソ連の拡大政策に原因がある」と論じるわけです。
これは、アメリカの立場からすれば「相手(ソ連)が悪い!」というものです。
第二の学派は、「歴史修正史観学派」、もしくは「リヴィジョニスト学派」と呼ばれるもので、彼らは「アメリカの帝国主義的な政策が冷戦の原因になった!」と論じます。
これは別名「ウィスコンシン学派」とも呼ばれていますが、アメリカの立場からしたら「悪いのは自分たちだ!」とするわけで、その背景には60年代のベトナム戦争におけるアメリカの対外政策の失敗への批判があるわけです。この有名どころはウィリアム・アップルマン・ウィリアムズ。
日本人は基本的に「反省」している人が大好きなので、当然のように日本でもこの学派の議論を研究している学者はかなりいました。
余談ですが、この学派の理論を使って議論を行ったのが、何を隠そう拙訳のクリストファー・レイン著『幻想の平和』であります。
第三の学派は、「ポスト歴史修正史観学派」、もしくは「ポストリヴィジョニスト学派」と呼ばれ、彼らは「米・ソのどちらか一方だけに冷戦開始の原因を求めるのはどうなのよ?」とツッコミを入れたわけです。いわば「両方悪い」と指摘したわけですね。
この学派の有名な学者といえば、なんといってもジョン・ルイス・ギャディス。彼の邦訳は日本でもけっこう出ていて、日本の研究者の間でも評判がかなり良い。
さて、この三つの学派の言い分をまとめると、
①ソ連に責任がある!
②アメリカに責任がある!
③米ソ両国に責任がある!
という単純な図式になるのですが、実はこの構図、現在の日中間の紛争にもそのまま当てはめて考えることができます。実際にやってみましょうか。これは、
①中国に責任がある!
②日本に責任がある!
③日中両国に責任がある!
といいかえることができます。
これを見ていて思うのは、日本の大方の知識人の解釈では、②の「日本に責任がある」というものが圧倒的なような気が。
より具体的にいえば、多くの解釈では日本、とくに石原慎太郎が、ワシントンのヘリテージ財団の講演で「尖閣は東京都が買う」と言ってから、日中間にあった「棚上げ論」が崩れ、今回の紛争が始まったとしていることです。
これを問題視する人たちは、石原都知事が「(紛争を起こした)売国奴である」とか「日中間に紛争を起こそうとしたアメリカの傀儡だ!」とかいう過激な解釈まで行います。
その一方で、①の解釈はどうかというと、たとえば「今回の尖閣と竹島問題は、中国が背後にいて東シナ海全般をコントロールしようとしている」というものがありまして、尖閣のみならず竹島も加えて中国が攻勢に出ていると分析します。
またもう一つの①の解釈として、意外に日本の知識人に注目されていないのが、いままでの「棚上げ」の均衡を崩したのが中国側であるというもの。
彼らは石原都知事の購入/野田政権の国有化の問題よりも、1992年に中国が一方的に国有化宣言をしたことが今回の紛争のそもそもの原因であると見ます。しかしこの解釈はネット上でも圧倒的に少数のような気が。
その他にも、現在はデモに関する報道に注目が集まっている関係から、中国のこの秋に行われる権力移行に付随する壮絶な権力争いに原因があるという解釈もかなり増えているような気が。
これも大きな分類でいえば、「中国の国内問題の延長が尖閣にたいする攻勢的な態度だ」という意味で①の「中国に原因がある!」論になるかもしれません。
では③の「ケンカ両成敗」的な解釈をしているのはどこかといえば、やはり紛争当事国ではない海外メディアの論調でしょうか。彼らは自分たちの利権が直接からんでいないために、かなり冷静に見れるという特権があります。
これに付け加えるべき第四の解釈として、上述したように「アメリカに責任がある!」というのもあるのかも知れませんが、これも「アメリカ単独で悪い」と証明するのはかなり無理があるかと。
そのバリエーションで、「米中共謀して、日本をつぶすために尖閣にしかけている」というのもあるかも知れませんが、これなどは第五の学派になる可能性が。
ということで、冷戦の原因についての「学派」の分類を現在の日中紛争に関する日本の知識人の解釈に当てはめてみたわけですが、個人的には歴史解釈として、結局のところは③の「両方に責任がある」というところに落ち着くのではないのかな、と思っております。
「タンゴは一人では踊れない」という意味で。

