2012年 09月 11日
「行列で待つこと」についての心理学 |
今日の横浜北部は相変わらず昼間が真夏日です。洗濯物には最高かと。
さて、久しぶりに記事の要約です。今回は心理学に関するものですが、これはビジネスなどにかなり応用が効くものかと。
たとえば以下に出てくる鏡の例などは、ビジネスマンや経営者向けのセミナーなどではよく使われる例ですね。私も自分の新刊に似たような例を書きました。
これも「手先」や「技術」による絶対的な数値の改善ではなく、あくまでも人間の心理をうまく使ったシステム的な「抽象度の高い解決法」ということでヒントになるものです。
===
なぜ「行列で待つ」のは拷問なのか
by アレックス・ストーン
●数年前のことだが、ヒューストン空港の幹部が、利用者からの多くのクレームに直面して困ったことがある。
●それは、「飛行機からの荷物を受け取るテーブルのところでやたらと待たされる」という利用客からの不満だった。
●これに対応するために、この幹部たちは部下に支持して係員の数を増やし、その業界の平均待ち時間である8分台を実現することができた。めでたしめでたしである。
●ところが不満についてのクレームは続いた。
●不思議に思った空港の幹部たちは、まず現場を見ることにした。そこで彼らが発見したのは、乗客たちが到着ゲートから歩いて1分、そして荷物受け取りのターンテーブルのところで7分待つということだった。
●これをいいかえれば、乗客はその8分間の約88%を、荷物を待つことに費やしていることになったのだ。
●そこで空港は新しいやり方を試すことにした。荷物の待ち時間を減らす代わりに、到着ゲートをメインターミナルから離し、しかも荷物の出てくるターンテーブルを最も遠いところにしたのである。
●これによって乗客は以前と比べて荷物を受け取るために6分以上歩く羽目になったのだが、クレームの発生はほぼゼロになった。
●この話はある一般的な原則についてのヒントをわれわれに教えてくれている。それは「待たされた」という感覚は、その対象が荷物であれ買い物であれ、その時間の「長さ」によって決まってくるということだ。
●「待つこと」の研究では世界的権威と言われているマサチューセッツ工科大学のリチャード・ラーソンによれば、「人間にとっては、待っている統計的な時間よりも、待っている時の心理状態のほうが重要なのです」と語っている。
●人間は何かをやっている時間(荷物を受け取りに向かうために歩いている時間)よりも、何もせずに待っている時間(ターンテーブルで荷物を待っている時間)を長く感じるものであり、これに関する研究が示しているのは、人間は平均して、ただ待っているだけの時間の長さを、実際にかかった時間よりも36%長く感じるということだ。
●エレベーターの隣に鏡が備え付けられている理由はここにある。
●このアイディアは第二次大戦後の建築ラッシュの時に生まれたのだが、これは高層ビルが建設されるにつれてエレベーターの待ち時間が長いという不満が出てくるようになったときに考案されたのだ。
●これはヒューストンの空港のパターンと同じである。何かをやっている時に人間は待ち時間を短く感じるのだ。
●鏡があれば、人はその前で髪を整えたり、気になる隣の異性をチラ見したりすることができる。そして実際に鏡をつけてみると、クレームは一夜にして消滅してしまったのだ。
●レジを何もせずに待つ時間のおかげで、スーパーマーケットは年間55億ドルも稼ぎ出しているのだ。週刊誌やガムがおいてある棚が、この待つ時間の苦悩をやわらげているのだ。
●われわれの待ち時間にたいする「期待」も、待ち時間の経験についての感想を左右することになる。待ち時間が不確実な場合は待つストレスも増加し、その反対に確定した待ち時間を知ることは「待つ」という恐怖をやわらげてくれるのだ。
●さらにその待ち時間が予期しているのよりも早い場合は、われわれの気分は高まるものだ。
●この点については行列の心理学をマスターしているとして世界的に有名なディズニーランドの例がわかりやすい。
●たとえばスペースマウンテンに乗ろうとした客にたいして、ディズニーランド側は常に待ち時間を長めに表示している。これによってはじめて乗る客は、「待ち時間よりも早く乗れた!」と思って得した気分になるのだ。
●これはなかなか強力な手段だ。なぜならわれわれの待ち時間についての記憶は、ジフ・カーモンと(プロスペクト理論で有名な)ダニエル・カーネマンの二人の共同研究によれば、その待った時間の最後の瞬間によって記憶されるからだ。
●長い待ち時間も、たとえば最後に行列が素早く動いたりすると、あとから振り返ってその待ち時間の大半が悲惨なものであったとしても良い記憶として残るものであり、その反対に最後の瞬間がネガティブなものになると、その待ち時間全体がそれほど悲惨ではなくても悪い記憶として残るという。
●他にもカーモンとカーネマンの両教授は、われわれが列の動きの早さよりも列の長さのほうに気を取られるということを指摘している。実験では同じ待ち時間だと、列の動きの遅くても短い方を選ぶことが判明している。
●ディズニーランドがビルの周りに並ばせて蛇行させることによって列の長さを隠すのはこの理由からだ。
●しかしわれわれの待ち時間についての気分について最大の影響を与えるのは、われわれの「公平さ」についての感覚であろう。
●普遍的にわれわれが感じる基準というのは、やはり「人々は順番に並ぶべきだ」というものだ。これを逸脱するものであれば、最悪の場合はいざこざに発展するのだ。
●先月メリーランド州の郵便局である客が別の客に列を割って入ったと勘違いされて刺されるという事件があったが、ラーソン教授はこのような歓迎せざる侵害行為のことを「抜かし」や「飛ばし」と呼んでいる。
●公平さへの要求は、単なる自己中心的な利益だけではない。行列というのは他の社会システムと同様に、個人を越えた暗黙の了解に基づく規範によって規定されているのだ。
●ある研究では、U2のコンサートのチケットを購入するために列をなしているファンたちが、自分の列の後ろで行われている「抜かし」や「飛ばし」についても憤りを感じるという。
●いくつかの研究が示しているのは、ファーストフードの店で多くの人々が、しっかり並んで順番ごとにオーダーできる列であれば、2倍の時間がかかっても数列のものよりも1列だけのものに並ぶほうを選ぶ、ということだ。
●スーパーのレジに並んだ経験をもつ人だったらわかると思うが、列がたくさんある行列のシステムは並ぶ順番に不公平を感じることが多い。したがって、隣の列が自分よりも早く動いているのを見て悔しがることになる。
●ところが面白いことに、隣の列が自分の列よりも遅い場合は心理的につらいのだが、自分の列が速い場合はそれほど気持ちに変化はないのだ。
●実際のところ、並べる列が多いケースの場合、客は遅い列でも並び続けるものであり、速い列に固執することはない。
●また「公平さ」というのは、その行列の長さがわれわれが待った後に与えられるサービスや製品の価値と一致していなければならないという感覚にも影響を与えるものだ。
●つまり、その価値が高ければ高いほど、われわれも待つことに意欲を燃やすからだ。
●したがって、スーパーにある「特急ライン」(購入アイテム数の少ない人向けのレジ)というのは順番という規範の観点から考えれば「違反」なのだが、これは「子供がおやつをたった一つ買うために、アイテム山積みの老人の後ろに並んで待つ必要はない」という前提にのっとったものなのだ。
●アメリカ人は年間300億時間ほど待つことに時間を裂いているという。
●そしてそのコストのほとんどは感情的なものだ。つまり、ストレス、飽きること、時間を失ってしまったことについてのぬぐい去れない感情などだ。
●しかも人が残り少ない休暇で最も避けたいと思うのは、何もできずに時間を浪費することなのだ。
●もちろんわれわれは列というものを生活から消滅させることはできないが、「待つ」ということについての心理学を知ることは、われわれの日常生活における不可避の遅れをまだ耐えうるものに変えることができる可能性がある。
●そしてそれらのすべてに効果がなかったら、本を持って行くべきだ
===
こういう記事は本当に興味深いですね。応用が効くという点で素晴らしいものかと。
しかし日本人は真面目なので、「待ち時間も、歩く距離も同時に短くする」という解決法に集中しそうな気が・・・。上記のように「もう少しユルくやる」という視点は意外に重要かもしれませんな。
さて、久しぶりに記事の要約です。今回は心理学に関するものですが、これはビジネスなどにかなり応用が効くものかと。
たとえば以下に出てくる鏡の例などは、ビジネスマンや経営者向けのセミナーなどではよく使われる例ですね。私も自分の新刊に似たような例を書きました。
これも「手先」や「技術」による絶対的な数値の改善ではなく、あくまでも人間の心理をうまく使ったシステム的な「抽象度の高い解決法」ということでヒントになるものです。
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なぜ「行列で待つ」のは拷問なのか
by アレックス・ストーン
●数年前のことだが、ヒューストン空港の幹部が、利用者からの多くのクレームに直面して困ったことがある。
●それは、「飛行機からの荷物を受け取るテーブルのところでやたらと待たされる」という利用客からの不満だった。
●これに対応するために、この幹部たちは部下に支持して係員の数を増やし、その業界の平均待ち時間である8分台を実現することができた。めでたしめでたしである。
●ところが不満についてのクレームは続いた。
●不思議に思った空港の幹部たちは、まず現場を見ることにした。そこで彼らが発見したのは、乗客たちが到着ゲートから歩いて1分、そして荷物受け取りのターンテーブルのところで7分待つということだった。
●これをいいかえれば、乗客はその8分間の約88%を、荷物を待つことに費やしていることになったのだ。
●そこで空港は新しいやり方を試すことにした。荷物の待ち時間を減らす代わりに、到着ゲートをメインターミナルから離し、しかも荷物の出てくるターンテーブルを最も遠いところにしたのである。
●これによって乗客は以前と比べて荷物を受け取るために6分以上歩く羽目になったのだが、クレームの発生はほぼゼロになった。
●この話はある一般的な原則についてのヒントをわれわれに教えてくれている。それは「待たされた」という感覚は、その対象が荷物であれ買い物であれ、その時間の「長さ」によって決まってくるということだ。
●「待つこと」の研究では世界的権威と言われているマサチューセッツ工科大学のリチャード・ラーソンによれば、「人間にとっては、待っている統計的な時間よりも、待っている時の心理状態のほうが重要なのです」と語っている。
●人間は何かをやっている時間(荷物を受け取りに向かうために歩いている時間)よりも、何もせずに待っている時間(ターンテーブルで荷物を待っている時間)を長く感じるものであり、これに関する研究が示しているのは、人間は平均して、ただ待っているだけの時間の長さを、実際にかかった時間よりも36%長く感じるということだ。
●エレベーターの隣に鏡が備え付けられている理由はここにある。
●このアイディアは第二次大戦後の建築ラッシュの時に生まれたのだが、これは高層ビルが建設されるにつれてエレベーターの待ち時間が長いという不満が出てくるようになったときに考案されたのだ。
●これはヒューストンの空港のパターンと同じである。何かをやっている時に人間は待ち時間を短く感じるのだ。
●鏡があれば、人はその前で髪を整えたり、気になる隣の異性をチラ見したりすることができる。そして実際に鏡をつけてみると、クレームは一夜にして消滅してしまったのだ。
●レジを何もせずに待つ時間のおかげで、スーパーマーケットは年間55億ドルも稼ぎ出しているのだ。週刊誌やガムがおいてある棚が、この待つ時間の苦悩をやわらげているのだ。
●われわれの待ち時間にたいする「期待」も、待ち時間の経験についての感想を左右することになる。待ち時間が不確実な場合は待つストレスも増加し、その反対に確定した待ち時間を知ることは「待つ」という恐怖をやわらげてくれるのだ。
●さらにその待ち時間が予期しているのよりも早い場合は、われわれの気分は高まるものだ。
●この点については行列の心理学をマスターしているとして世界的に有名なディズニーランドの例がわかりやすい。
●たとえばスペースマウンテンに乗ろうとした客にたいして、ディズニーランド側は常に待ち時間を長めに表示している。これによってはじめて乗る客は、「待ち時間よりも早く乗れた!」と思って得した気分になるのだ。
●これはなかなか強力な手段だ。なぜならわれわれの待ち時間についての記憶は、ジフ・カーモンと(プロスペクト理論で有名な)ダニエル・カーネマンの二人の共同研究によれば、その待った時間の最後の瞬間によって記憶されるからだ。
●長い待ち時間も、たとえば最後に行列が素早く動いたりすると、あとから振り返ってその待ち時間の大半が悲惨なものであったとしても良い記憶として残るものであり、その反対に最後の瞬間がネガティブなものになると、その待ち時間全体がそれほど悲惨ではなくても悪い記憶として残るという。
●他にもカーモンとカーネマンの両教授は、われわれが列の動きの早さよりも列の長さのほうに気を取られるということを指摘している。実験では同じ待ち時間だと、列の動きの遅くても短い方を選ぶことが判明している。
●ディズニーランドがビルの周りに並ばせて蛇行させることによって列の長さを隠すのはこの理由からだ。
●しかしわれわれの待ち時間についての気分について最大の影響を与えるのは、われわれの「公平さ」についての感覚であろう。
●普遍的にわれわれが感じる基準というのは、やはり「人々は順番に並ぶべきだ」というものだ。これを逸脱するものであれば、最悪の場合はいざこざに発展するのだ。
●先月メリーランド州の郵便局である客が別の客に列を割って入ったと勘違いされて刺されるという事件があったが、ラーソン教授はこのような歓迎せざる侵害行為のことを「抜かし」や「飛ばし」と呼んでいる。
●公平さへの要求は、単なる自己中心的な利益だけではない。行列というのは他の社会システムと同様に、個人を越えた暗黙の了解に基づく規範によって規定されているのだ。
●ある研究では、U2のコンサートのチケットを購入するために列をなしているファンたちが、自分の列の後ろで行われている「抜かし」や「飛ばし」についても憤りを感じるという。
●いくつかの研究が示しているのは、ファーストフードの店で多くの人々が、しっかり並んで順番ごとにオーダーできる列であれば、2倍の時間がかかっても数列のものよりも1列だけのものに並ぶほうを選ぶ、ということだ。
●スーパーのレジに並んだ経験をもつ人だったらわかると思うが、列がたくさんある行列のシステムは並ぶ順番に不公平を感じることが多い。したがって、隣の列が自分よりも早く動いているのを見て悔しがることになる。
●ところが面白いことに、隣の列が自分の列よりも遅い場合は心理的につらいのだが、自分の列が速い場合はそれほど気持ちに変化はないのだ。
●実際のところ、並べる列が多いケースの場合、客は遅い列でも並び続けるものであり、速い列に固執することはない。
●また「公平さ」というのは、その行列の長さがわれわれが待った後に与えられるサービスや製品の価値と一致していなければならないという感覚にも影響を与えるものだ。
●つまり、その価値が高ければ高いほど、われわれも待つことに意欲を燃やすからだ。
●したがって、スーパーにある「特急ライン」(購入アイテム数の少ない人向けのレジ)というのは順番という規範の観点から考えれば「違反」なのだが、これは「子供がおやつをたった一つ買うために、アイテム山積みの老人の後ろに並んで待つ必要はない」という前提にのっとったものなのだ。
●アメリカ人は年間300億時間ほど待つことに時間を裂いているという。
●そしてそのコストのほとんどは感情的なものだ。つまり、ストレス、飽きること、時間を失ってしまったことについてのぬぐい去れない感情などだ。
●しかも人が残り少ない休暇で最も避けたいと思うのは、何もできずに時間を浪費することなのだ。
●もちろんわれわれは列というものを生活から消滅させることはできないが、「待つ」ということについての心理学を知ることは、われわれの日常生活における不可避の遅れをまだ耐えうるものに変えることができる可能性がある。
●そしてそれらのすべてに効果がなかったら、本を持って行くべきだ
===
こういう記事は本当に興味深いですね。応用が効くという点で素晴らしいものかと。
しかし日本人は真面目なので、「待ち時間も、歩く距離も同時に短くする」という解決法に集中しそうな気が・・・。上記のように「もう少しユルくやる」という視点は意外に重要かもしれませんな。
by masa_the_man
| 2012-09-11 15:41
| 日記