2012年 08月 05日
グレイ著『現代の戦略』を読み解く⑥ |
今日の横浜北部は朝少し雲が出ていたのですが、いまはバッチリ快晴です。暑くなりそうです。
本日はオフ会開催日です。ニューヨークの某格付け会社で働いていた女性と、旅行会社でイスラエルに長期滞在していた人の興味深い話が聞けそうです。個人的にも非常に楽しみ。
さて、またまた数日前の続きを。グレイの『現代の戦略』の要約です。今回は第八章と九章を。
===
―8:戦略の「文法」その①:地球の表面での行動
戦争が展開される場としての地理から、それに合わせて作られた戦力の理論をそれぞれ紹介。本章は地球の平面上に展開される戦力である「ランドパワー」と「シーパワー」の二つについてそれぞれ論じる。
まず著者はこの二つの章が四つの質問に答える形で論じられていることを述べる。それらを列挙すると、
①そのパワーの特徴となる性質は?
②作戦面での強みと弱みは?
③作戦面での効果を増加させたり制限したりする条件は?
④近代の歴史でどのような発展の経緯をたどってきた?
となる。次に著者はこれらが戦略の「文法」に関するものであり、戦略は提案し、戦術が実行されるものであるという警句を紹介しながら、本章では結果的に六つの議論が展開されると紹介する。
まず第一に、陸上が最も重要だということ。第二がどの「パワー」の議論でも似たようなロジックが使われてきた経緯が認められるということ。第三が、各「パワー」は独特の地理に合わせて戦略的な効果を発揮するようにつくられたということ。
第四が、地理的な特徴にそって組織された「パワー」の戦略全般における分担が決まっているということ。第五が戦略の「文法」は常に(時として劇的に)変化するが、それが地理の領域を越えることはないということ。そして第六が、戦略の「文法」についての議論は、地理的に不特定となる核兵器と非正規戦の場合はうまくフィットしないということだ。
これらを踏まえて、著者は本章の後半である「ランドパワー論」を展開する。陸上戦はテクノロジー偏重というよりも人間偏重の戦いであることや、歴史を通じて陸上の敵には陸上の兵隊で決着がつけられてきたことを力説する。
次に「シーパワー論」に移るのだが、ここではマハンはほぼ正しかったという微妙な言い方でシーパワーの優位を論じており、リッチモンドやコーベットの理論を使いながら、たとえばベトナムでは米海軍が海を支配していたのに戦争には勝てなかった例などを挙げて、そこには限界もあるということを指摘している。
―9:戦略の「文法」その②:高度と電子
エアパワーをはじめとする二〇世紀に登場した新しいテクノロジーはたしかに革命的であったが、それでも戦略そのものに革命を起こしたわけではないことを再び強調して、そこから「エアパワー論」に移る。
まずはエアパワーの創世記である一九世紀中頃の小説の話に触れつつ、トレンチャード、ミッチェル、ドゥーエなどの有名な理論家を紹介するが、最も影響力が大きいのはボーア戦争でも戦ったイギリスのジャン・クリスチャン・スマッツであることを指摘。彼が「戦略的エアパワー」のアイディアを最初に提唱したことを著者は重視しており、これが「呪い」になったとしている。
それからエアパワーが効果を発揮するのは空爆によることや、ターゲットの選定が一番難しいこと(つまりインテリジェンスが決定的に重要)、エアパワーとシーパワーは統合されたのではなく相互依存関係になったことなどを指摘しつつ、エアパワーは陸上・海上部隊を助けることができるが、国家や社会は破壊できないことを述べて、戦略に革命を起こしたわけではないことを再び強調。
次に著者はRMAとその他としてスペースパワーやサイバーパワーについて論じるのだが、それらには大きくわけて六つの学派があると指摘。以下を列挙するとこうなる。
①サイバー戦争で勝てると信じる「戦略情報戦」(SIW)学派
②通常戦を情報が主導するという「情報主導戦」学派
③上のマイルドなバージョンである「情報通常戦」学派
④エアパワーの成熟こそが革命を起こすと考える学派
⑤スペースパワーこそが本物の革命であるとする学派
⑥安全保障、政治、戦略に革命が起こったとする学派
続いて著者はスペースパワーをクラウゼヴィッツの視点に当てはめて分析する。宇宙は新しい「高台」であると同時に、それでも戦略のロジックから逸脱するものではないことを強調。エアパワーの発展の歴史とリンクさせつつ、結局は偵察が大きな役割を果たしていくことを述べている。
最後にサイバー戦について言及するが、これは爆弾や銃弾がサイバー空間を通じて敵に投げつけることができないということや、その形がまだ定まっていないことから理論化が進んでいないこと、そしてやはり単独では戦争に勝利できない「サポート的な役割」であることなどを強調して議論を締めている。
そして章のまとめとして、戦争の次元(陸、海、空、宇宙、サイバー)が時代を得ることにどんどん重なって複雑化してきていることを指摘しつつ、結局は変化の中に変わらないものがあることに注目することの重要性を説くかたちで戦略の恒常性を主張する。
===
今日はここまで。
本日はオフ会開催日です。ニューヨークの某格付け会社で働いていた女性と、旅行会社でイスラエルに長期滞在していた人の興味深い話が聞けそうです。個人的にも非常に楽しみ。
さて、またまた数日前の続きを。グレイの『現代の戦略』の要約です。今回は第八章と九章を。
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―8:戦略の「文法」その①:地球の表面での行動
戦争が展開される場としての地理から、それに合わせて作られた戦力の理論をそれぞれ紹介。本章は地球の平面上に展開される戦力である「ランドパワー」と「シーパワー」の二つについてそれぞれ論じる。
まず著者はこの二つの章が四つの質問に答える形で論じられていることを述べる。それらを列挙すると、
①そのパワーの特徴となる性質は?
②作戦面での強みと弱みは?
③作戦面での効果を増加させたり制限したりする条件は?
④近代の歴史でどのような発展の経緯をたどってきた?
となる。次に著者はこれらが戦略の「文法」に関するものであり、戦略は提案し、戦術が実行されるものであるという警句を紹介しながら、本章では結果的に六つの議論が展開されると紹介する。
まず第一に、陸上が最も重要だということ。第二がどの「パワー」の議論でも似たようなロジックが使われてきた経緯が認められるということ。第三が、各「パワー」は独特の地理に合わせて戦略的な効果を発揮するようにつくられたということ。
第四が、地理的な特徴にそって組織された「パワー」の戦略全般における分担が決まっているということ。第五が戦略の「文法」は常に(時として劇的に)変化するが、それが地理の領域を越えることはないということ。そして第六が、戦略の「文法」についての議論は、地理的に不特定となる核兵器と非正規戦の場合はうまくフィットしないということだ。
これらを踏まえて、著者は本章の後半である「ランドパワー論」を展開する。陸上戦はテクノロジー偏重というよりも人間偏重の戦いであることや、歴史を通じて陸上の敵には陸上の兵隊で決着がつけられてきたことを力説する。
次に「シーパワー論」に移るのだが、ここではマハンはほぼ正しかったという微妙な言い方でシーパワーの優位を論じており、リッチモンドやコーベットの理論を使いながら、たとえばベトナムでは米海軍が海を支配していたのに戦争には勝てなかった例などを挙げて、そこには限界もあるということを指摘している。
―9:戦略の「文法」その②:高度と電子
エアパワーをはじめとする二〇世紀に登場した新しいテクノロジーはたしかに革命的であったが、それでも戦略そのものに革命を起こしたわけではないことを再び強調して、そこから「エアパワー論」に移る。
まずはエアパワーの創世記である一九世紀中頃の小説の話に触れつつ、トレンチャード、ミッチェル、ドゥーエなどの有名な理論家を紹介するが、最も影響力が大きいのはボーア戦争でも戦ったイギリスのジャン・クリスチャン・スマッツであることを指摘。彼が「戦略的エアパワー」のアイディアを最初に提唱したことを著者は重視しており、これが「呪い」になったとしている。
それからエアパワーが効果を発揮するのは空爆によることや、ターゲットの選定が一番難しいこと(つまりインテリジェンスが決定的に重要)、エアパワーとシーパワーは統合されたのではなく相互依存関係になったことなどを指摘しつつ、エアパワーは陸上・海上部隊を助けることができるが、国家や社会は破壊できないことを述べて、戦略に革命を起こしたわけではないことを再び強調。
次に著者はRMAとその他としてスペースパワーやサイバーパワーについて論じるのだが、それらには大きくわけて六つの学派があると指摘。以下を列挙するとこうなる。
①サイバー戦争で勝てると信じる「戦略情報戦」(SIW)学派
②通常戦を情報が主導するという「情報主導戦」学派
③上のマイルドなバージョンである「情報通常戦」学派
④エアパワーの成熟こそが革命を起こすと考える学派
⑤スペースパワーこそが本物の革命であるとする学派
⑥安全保障、政治、戦略に革命が起こったとする学派
続いて著者はスペースパワーをクラウゼヴィッツの視点に当てはめて分析する。宇宙は新しい「高台」であると同時に、それでも戦略のロジックから逸脱するものではないことを強調。エアパワーの発展の歴史とリンクさせつつ、結局は偵察が大きな役割を果たしていくことを述べている。
最後にサイバー戦について言及するが、これは爆弾や銃弾がサイバー空間を通じて敵に投げつけることができないということや、その形がまだ定まっていないことから理論化が進んでいないこと、そしてやはり単独では戦争に勝利できない「サポート的な役割」であることなどを強調して議論を締めている。
そして章のまとめとして、戦争の次元(陸、海、空、宇宙、サイバー)が時代を得ることにどんどん重なって複雑化してきていることを指摘しつつ、結局は変化の中に変わらないものがあることに注目することの重要性を説くかたちで戦略の恒常性を主張する。
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今日はここまで。
by masa_the_man
| 2012-08-05 10:26
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