グレイ著『現代の戦略』を読み解く② |
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さて、昨日の続きとなるグレイの『現代の戦略』の要約です。
―2:戦略、政治、倫理
戦略について付随してくる3つのトピックをまとめて論じた章。題名はややミスリーディングで、正確にいえば「戦略家の役割は何か、政治と戦略の関係、倫理は戦略にどう影響を与えているのか」ということになる。
●まずは1つ目の「戦略家の役割」だが、著者は「戦略家」と呼ばれる人物が広い視野と関心を持つ、バランスのとれた人格をもつ人間でなくてはならないと指摘。戦略家は一つの国に一人が理想的であり、20世紀前半のドイツの軍事史からの例を豊富に引用しつつ、戦略家という役割がいかに難しいのかを論じている。
ここでも強調されるのは、戦略が「アート」であることであり、戦略家はアーチストと同様に育てるのが難しいことが、主にナポレオンの例を参考にして論じられる。
●二つ目の「政治と戦略の関係」であるが、これは主に三つの難しさがあるという点から論じられる。第一がクラウゼヴィッツの言うように「戦争は政治の継続」であるのだが、同時にそこに情熱と偶然性というものが絡んでくること。つまり理性だけでは片付けられない「賭け」に近い問題であると認識すべきだということ。
第二が、政治目標というものが変化しやすい曖昧なものであるという点。軍隊は特定の結果を出すのは得意だが、政治は移ろいやすいものであるために緊張関係が生まれるのだ。第三が、戦争と政治の間の「会話」がなぜ難しいのかという点。これについては著者は政治家と軍隊の組織文化の違いや、政治家と軍人が互いの世界を全く知らないこと、両者の責任分担が違うこと、そして戦略そのものがそもそも難しいものであることを、またまた豊富な例(とくにドイツとイギリスの歴史)を使って解説している。
●三つ目の「倫理と戦略」の問題では、自身の核戦略家としての経験から興味深い議論を展開している。著者は、歴史を振り返ってみれば倫理的考察が戦略の形成にはほとんど影響を与えていなかったことを指摘している。結論として、「倫理は複雑で難しいが、その実践はきわめてシンプルである」と主張しているが、これはクラウゼヴィッツの「戦略はシンプルだが、その実践は難しい」をそのままひっくり返したもの。
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今日はここまで。続きは明日書きます。