2012年 07月 09日
グレイ著『現代の戦略』を読み解く① |
今日の甲州は曇ったり晴れたりと忙しい天候でして、とにかく暑い。真夏でした。
さて、あるところで私の先生の主著の解説を書く事になったので、何日かにわけてここにメモ代わりに本の解説や私が気づいたことなどを記しておきます。
ハッキリ言いまして、先生はミアシャイマーやウォルトくらい文が上手いというわけではないのですが、私の解説によってブログをご覧のみなさんがこの戦略の名著のよさを少しでもご理解いただければと思って、とりあえずここに書いておきます。
===
▼題名:『現代の戦略』(Modern Strategy)
▼著者:コリン・グレイ(Colin S. Gray)英国レディング大学教授
▼目次:
―イントロ:拡大する“戦略”の世界
―1:戦略の位相(次元)
―2:戦略、政治、倫理
―3:戦略家の工具セット:クラウゼヴィッツの遺産
―4:現代の戦略思想の貧困さ
―5:コンテクストとして「戦略文化」
―6:戦争の「窓」
―7:戦略の経験の様々なパターン
―8:戦略の文法その①:地表面でのアクション
―9:戦略の文法その②:高度と電子
―10:小戦争とその他の野蛮な暴力
―11:核兵器を再び考える
―12:戦略史の中の核兵器
―13:戦略は永遠に
▼概要・内容解説
―イントロ:拡大する“戦略”の世界
本書の「戦略は、時代と場所に関係なく不変のものである」というメインの主張が最初から述べられる。社会科学的な視点から現代の言葉である「戦略」というものを理解するために、著者はまず六つの質問を提示する。その質問とは、
①戦略の実践と理論はどのように交わるもの?
②複雑化する現代の戦争準備は戦略にとってどのような意味をもたらす?
③なぜ戦略はむずかしい?
④戦略の位相の中でいくつかが優れていれば戦争に勝てる?
⑤二〇世紀において、戦略の何が変わった/変わらなかった?
⑥二〇世紀の戦略の経験は、二一世紀に何を教えている?
の六つ。これを最終章(13章)でもう一度振り返る形をとっている。
つぎに本書のアプローチとして、博士号論文のようなスタイルをとることを宣言している。つまり最初に提出された主張である「戦略は、時代と場所に関係なく不変のものである」というのが本当なのかどうかを、各章で検証していくのだ。
その次に各章の簡単な内容紹介が続き、最後に、本書で使われる事例はいくつかの例外を除いてそのほとんどが20世紀のものであること、そして本書で使われる戦略の定義は「政治目的のための軍事力の行使、もしくはその行使の脅し」であり、本書はすぐに政策づくりに使えるようにするものではなく、あくまでも戦略そのものを理解するための「教育書」として書かれたことを強調して締めている。
―1:戦略の位相(次元)
「戦略とは何か」という根本的な問題を論じる最も大事な章。クラウゼヴィッツの戦略についてのアイディアをベースにして、そこから議論を綿密に発展させている。
まずは戦略の定義から。ここではクラウゼヴィッツのほか、ワイリー、リデルハート、ボーフル、フォスター、そしてマーレーたちの定義を取り上げつつ、戦略の階層の問題や、その階層が相互依存関係にあること、そして戦略の「行動」と「効果」を混同しないように注意する。
次に戦略の「位相」の話に移る。マイケル・ハワードが一九七九年に「戦略には四つの位相がある」と議論したことを踏まえて、グレイはそれを一七個まで拡大。それらを再びクラウゼヴィッツに習って三つのカテゴリーに分けるが、それでもそれらの要素を全体として見ることの重要性を強調。戦略はレーシングカーと同じで、各パーツは必須だが、いくらその一部の性能(たとえばエンジンだけ)がスゴくてもレースには勝てない、つまり総合力がモノを言う、と説明。
ここからその三つのカテゴリーにある一七の各位相をそれぞれ個別に説明し、とくに重要な三つの位相として「政治」と「国民」と「時間」を挙げている。余談だが、グレイ自身は戦争の位相をアメリカの国防大学で毎年行っていたゼミで生徒たちに挙げさせ、そのリストは二一まで膨れ上がったが、最終的にそれを削って一七にしたという。
この章の〆として、戦略がなぜ重要なのかを説明。これは基本的に戦略の上の政治・政策の問題であり、これがハッキリしていないと戦場で闘う兵士は混乱。しかも間違った政策が使われると、軍人までも一緒に責任をとらされてしまう。たしかに現場の人間は「生き残り」という目的があるから戦略も政策も関係なく必死に働くことができるだろうが、やはり確固たる戦略は欲しいところ。
この事例として、主にベトナムの例などが使われる。ただし最後のこの部分は個人的には説得力に欠ける議論だと思った。
===
今日はここまで。続きは明日書きます。
さて、あるところで私の先生の主著の解説を書く事になったので、何日かにわけてここにメモ代わりに本の解説や私が気づいたことなどを記しておきます。
ハッキリ言いまして、先生はミアシャイマーやウォルトくらい文が上手いというわけではないのですが、私の解説によってブログをご覧のみなさんがこの戦略の名著のよさを少しでもご理解いただければと思って、とりあえずここに書いておきます。
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▼題名:『現代の戦略』(Modern Strategy)
▼著者:コリン・グレイ(Colin S. Gray)英国レディング大学教授
▼目次:
―イントロ:拡大する“戦略”の世界
―1:戦略の位相(次元)
―2:戦略、政治、倫理
―3:戦略家の工具セット:クラウゼヴィッツの遺産
―4:現代の戦略思想の貧困さ
―5:コンテクストとして「戦略文化」
―6:戦争の「窓」
―7:戦略の経験の様々なパターン
―8:戦略の文法その①:地表面でのアクション
―9:戦略の文法その②:高度と電子
―10:小戦争とその他の野蛮な暴力
―11:核兵器を再び考える
―12:戦略史の中の核兵器
―13:戦略は永遠に
▼概要・内容解説
―イントロ:拡大する“戦略”の世界
本書の「戦略は、時代と場所に関係なく不変のものである」というメインの主張が最初から述べられる。社会科学的な視点から現代の言葉である「戦略」というものを理解するために、著者はまず六つの質問を提示する。その質問とは、
①戦略の実践と理論はどのように交わるもの?
②複雑化する現代の戦争準備は戦略にとってどのような意味をもたらす?
③なぜ戦略はむずかしい?
④戦略の位相の中でいくつかが優れていれば戦争に勝てる?
⑤二〇世紀において、戦略の何が変わった/変わらなかった?
⑥二〇世紀の戦略の経験は、二一世紀に何を教えている?
の六つ。これを最終章(13章)でもう一度振り返る形をとっている。
つぎに本書のアプローチとして、博士号論文のようなスタイルをとることを宣言している。つまり最初に提出された主張である「戦略は、時代と場所に関係なく不変のものである」というのが本当なのかどうかを、各章で検証していくのだ。
その次に各章の簡単な内容紹介が続き、最後に、本書で使われる事例はいくつかの例外を除いてそのほとんどが20世紀のものであること、そして本書で使われる戦略の定義は「政治目的のための軍事力の行使、もしくはその行使の脅し」であり、本書はすぐに政策づくりに使えるようにするものではなく、あくまでも戦略そのものを理解するための「教育書」として書かれたことを強調して締めている。
―1:戦略の位相(次元)
「戦略とは何か」という根本的な問題を論じる最も大事な章。クラウゼヴィッツの戦略についてのアイディアをベースにして、そこから議論を綿密に発展させている。
まずは戦略の定義から。ここではクラウゼヴィッツのほか、ワイリー、リデルハート、ボーフル、フォスター、そしてマーレーたちの定義を取り上げつつ、戦略の階層の問題や、その階層が相互依存関係にあること、そして戦略の「行動」と「効果」を混同しないように注意する。
次に戦略の「位相」の話に移る。マイケル・ハワードが一九七九年に「戦略には四つの位相がある」と議論したことを踏まえて、グレイはそれを一七個まで拡大。それらを再びクラウゼヴィッツに習って三つのカテゴリーに分けるが、それでもそれらの要素を全体として見ることの重要性を強調。戦略はレーシングカーと同じで、各パーツは必須だが、いくらその一部の性能(たとえばエンジンだけ)がスゴくてもレースには勝てない、つまり総合力がモノを言う、と説明。
ここからその三つのカテゴリーにある一七の各位相をそれぞれ個別に説明し、とくに重要な三つの位相として「政治」と「国民」と「時間」を挙げている。余談だが、グレイ自身は戦争の位相をアメリカの国防大学で毎年行っていたゼミで生徒たちに挙げさせ、そのリストは二一まで膨れ上がったが、最終的にそれを削って一七にしたという。
この章の〆として、戦略がなぜ重要なのかを説明。これは基本的に戦略の上の政治・政策の問題であり、これがハッキリしていないと戦場で闘う兵士は混乱。しかも間違った政策が使われると、軍人までも一緒に責任をとらされてしまう。たしかに現場の人間は「生き残り」という目的があるから戦略も政策も関係なく必死に働くことができるだろうが、やはり確固たる戦略は欲しいところ。
この事例として、主にベトナムの例などが使われる。ただし最後のこの部分は個人的には説得力に欠ける議論だと思った。
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今日はここまで。続きは明日書きます。
by masa_the_man
| 2012-07-09 20:35
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