戦略や地政学の視点から国際政治や社会の動きを分析中


by masa_the_man
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サイバー戦によって「戦争の本質」が変わった?

今日の横浜北部は朝から小雨が降っております。気温も下がり、久々のまとまった雨。梅雨が近づいている予感が。

さて、久々のブログ更新ですが、以下は私がそのうちクラウゼヴィッツ学会で発表する内容と重なるもの。その記事の要約を。

基本的には「サイバー戦争」ネタですが、クラウゼヴィッツの「戦争の本質」(the nature of war)に絡んでくる大事なポイントです。

===

サイバー攻撃は、戦争(と平和)のアイディアを変えるかも?


●現代というのは、平和を推進しようとする人々にとっては困惑する時代であると言えよう。

●その理由は、戦争が増えたからではなく、紛争そのものの本質(nature)が劇的なスピードで変わりつつあるからだ。

●たとえば陸上部隊と共に侵攻するのを避けるために、多くの国はアメリカにならって無人機を使うことを計画している。

●また、彼らは暴力的な空爆ではなくて、グローバルな金融システムによるデジタル的なツールを使った経済制裁を行おうとしているのだ。

●そして経済制裁の効果が出ない場合には、彼らはコンピューターウィルスなどを使った「サイバー戦」を実行しようというのだ。

●たとえばNYタイムズの記事では、アメリカはイスラエルと共に秘密裏でイランの核開発計画にたいしてサイバー攻撃を仕掛けようとしているという。

●これは"Flame”と呼ばれるサイバー兵器をつかって、イランの石油省のネットの接続を遮断しようというものだ。

●世界の国々では、より「見えない」攻撃の仕方が考えられている。アメリカや中国などをはじめとするサイバー戦争において使われている攻撃的な手段というのは、紛争における最新の戦い方の一例なのだ。

●ところがこのような最近の「見えない/終わりのない戦争」というトレンドから、実に多くのきわどい疑問が出てくるのも事実だ。

まず大事なのは、この戦争がどこからはじまり、どこで終わるのか、という点だ。

●また、政府の中の誰がこのような攻撃を許可して見守ることになるのだろうか?

●そして、もし紛争の本質が戦争の古い概念とフィットしない場合、古い市民はどう対応すればいいのだろうか

●実際のところ、「宣戦布告」というのは冷戦時代を通じて行われていないし、9・11事件以降の「テロとの戦争」というのは、ビンラディンを殺害したにもかかわらず、相変わらず曖昧な概念のままだ。

●ホワイトハウスも議会も、新しいタイプの攻撃についてどのような法的根拠があるのか混乱したままだ。

●また、司法ものほうもサイバー戦にはハッキリとした始まりや終わり、それに地理的な境界線が存在しないため、「戦時」における市民の自由の一時停止をどう正当化しようかで頭を悩ませている。

●近年になってから平和のためのツール(政治、デモ、祈りなど)を修正しなければならなかったように、今日の平和の構築者側も、サイバー戦の新しい現実に順応しなければならないのだ。

●法律の歴史家であるマリー・ドゥジアックは新著の中で「われわれは戦時から平時へと移りかわると思い込んでおり、戦争を一過性のものであると捉えがちだ」と書いている。

●ところが現代の紛争は新しい形で「戦後」も残っていくことになる。

●たとえば米軍はアフガニスタンから撤退しつつあるが、兵士よりも民間企業に雇われた「傭兵」たちのほうが死者数は遥かに多いし、リビアやコロンビア、そしてメキシコの例などは、その新しい形の紛争の典型的な例だ。

●このような紛争の本質における変化は、われわれの将来の脅威についての見極めを難しくしてしまったのである。

●米連邦議会は国防予算を細かく作成することができないと、軍需企業のロビー活動に押し切られてしまうことになる。

●テキサス州選出で下院のインテリジェンス委員を務めるマック・ソーンベリー下院議員は、議会がサイバー戦のような「光の速さで動いている」新しい現実に対応する術を学ばなければならないと発言している

●つまりこれは「戦争」という概念そのものが動く標的になってしまったということだ。

●そして平和を推進しようという人々は、それと共に素早い動きをしなければならないことになる。

===

元ネタはクリスチャン・サイエンス・モニターの社説なんですが、戦略学の哲学的な部分をよく論じているかと。

しかし「戦争の本質」が変わったかどうかという点においては、なかなか見極めが難しいところが。

当分の間はこの「サイバー戦は“戦争”なのか?」という議論は戦略界でも続いて行きそうですね。
Commented by 大阪人K at 2012-06-06 23:10 x
昔からある謀略、策略、工作の類がサイバー空間に拡大しただけのような気がしますね。謀略、策略、工作も何処からが始まり、何処で終わるというものはないでしょうから。

昔からの営みが技術によって拡大複雑化しただけのように思います。
Commented by 待兼右大臣 at 2012-06-07 00:29 x
これまでの戦争は、現実の「空間(地形)」からは逃れられないことから、「物理網」と「論理網」とは【表裏一体】のものとして理解されてきたわけです。(侵攻路、補給路)

これは、宇宙空間といえども同じです(例:ラグランジュポイント、静止衛星軌道)

そして、その前提の上に 「地政学」 という学問もあります。


しかし、サイバー空間では、「物理網」と「論理網」は別個に存在しています。そして、サイバー空間における【機能】としては、「論理網」だけを考慮すればよく、 「物理網」 を考慮しなくても済むという意味で、サイバー空間は、既存の地政学の前提を突き抜けたものとなっています。

そして、その「物理網」を考慮しなくても済むということから、法律の地理的管轄という概念では捉えきることが不可能になっています。

このため、サイバー空間の発展と法律学は苦労を強いられています。
そして、そのことは、「戦争のやり方」を規定した戦時国際法をサイバー空間に適用することを困難にしています。

Commented by 待兼右大臣 at 2012-06-07 00:30 x
「乗り鉄」をやっていると、物理網と論理網の使い分けが自然と身につきます
・駅の切符売り場にある路線図=論理網(網構成の把握のため)
・車窓ポイントの確認=物理網(実際の地形を把握するため)

まぁ、ここのところは、本職のSEの方の解説が欲しいところです。
Commented by 無花果 at 2012-06-07 07:46 x
--引用開始
オバマ米大統領がイラン中部ナタンズのウラン濃縮施設を標的に、
イスラエルと共同開発したコンピューターウイルスによるサイバー攻撃を指示、
ウラン濃縮に使う遠心分離機5千基のうち千基を一時使用不能に追い込んだことが明らかになった。
1日付のニューヨーク・タイムズ紙が米政府高官らの証言に基づき、
ホワイトハウスの作戦司令室内でのやりとりなど作戦の全容を報じた。
http://news.livedoor.com/article/detail/6619078/
--引用終わり
記事中のものとは違うようですが、
イランへのサイバー攻撃は既に実行されたという報道がありました。

話がずれますが、江戸以降の日本人を形成した哲学は、やはり武士道なのではないでしょうか(山鹿素行や、伊藤仁斎、山崎闇斎など)
明治期、宗教によらずどのように道徳を教育するのかと問われて当時の日本人が見出した答えが武士道であり、
GHQが焚書の対照としたのが神道の教えではなく、武士道を教える書物であったことを思い返すと、そう思えます。
Commented by masa_the_man at 2012-06-24 08:06
大阪人Kさんへ

>昔からある謀略、策略、工作の類がサイバー空間に拡大しただけのような気が

たしかに。

>謀略、策略、工作も何処からが始まり、何処で終わるというものはないでしょうから。

常に続いている、といっても過言ではないですね。

>昔からの営みが技術によって拡大複雑化しただけのように思います。

境界線があやふやになるという傾向がここでもまた・・・コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2012-06-24 08:11
待兼さんへ

>「物理網」と「論理網」とは【表裏一体】のものとして理解されてきた

なるほど。

>サイバー空間における【機能】としては、「論理網」だけを考慮すればよく、 「物理網」 を考慮しなくても済む

これはまたやっかいな・・・

>法律の地理的管轄という概念では捉えきることが不可能になっています。

まあ攻撃を仕掛けてくるサーバーがどこの国にあるかというくくりがあるのでまだ地理的要因は残っているわけですが・・・でも本来の発信源まで特定できるという問題もあるか。

>サイバー空間の発展と法律学は苦労を強いられています。

こうなりますか。

>「乗り鉄」をやっていると、物理網と論理網の使い分けが自然と身につきます

ここでいきなりカミングアウト(笑

>・駅の切符売り場にある路線図=論理網(網構成の把握のため)・車窓ポイントの確認=物理網(実際の地形を把握するため)

ただしこれに気づくかどうかは「乗り鉄」の人の性格というか、「脳力」によるところもあるのでは。コメントありがとうございました
Commented by masa_the_man at 2012-06-24 08:20
無花果さんへ

>イランへのサイバー攻撃は既に実行されたという報道がありました。

リークで問題になりましたねぇ

>江戸以降の日本人を形成した哲学は、やはり武士道なのではないでしょうか(山鹿素行や、伊藤仁斎、山崎闇斎など)

かもしれません。

>GHQが焚書の対照としたのが神道の教えではなく、武士道を教える書物であったことを思い返すと、そう思えます。

納得。日本では有志によってこの辺を復興させる動きがジワジワとありますよね。コメントありがとうございました
Commented at 2012-06-24 09:41 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2012-06-28 17:10
waterloo さんへ

>サイバー戦の従来の戦争と違う所は・・・それが直接相手方の支配領域を自らが得る事になる訳ではないところ

そういうことでしょうなぁ。妨害はできるかもしれないが、完璧に(意志まで)コントロールできるわけではない、というところがミソかと。
Commented at 2012-06-29 19:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by masa_the_man at 2012-07-16 07:49
waterloo さんへ

>利益で見てました

それもありですな。

>単体では結果が破壊か防御しか無く相対的な利益(妨害されないor妨害した)しか得られないなと。

メリットは少なめと。コメントありがとうございました
by masa_the_man | 2012-06-06 12:14 | 日記 | Comments(11)