アル中の特効薬? |
さて、いつもとは違ってアルコール中毒の治療法に関する興味深い記事がありましたので、その要約を。
なぜアル中の治療法がこのブログに関係しているかというと、それは「テクノロジー」についての思想の一面がここに色濃く反映されているからです。
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アル中を「完治」する方法は存在するか?
●もしアルコール中毒が「病気」だとすれば、それを「治す」錠剤はあるのだろうか?答えはイエスであり、ノーでもある。
●この症状の患者について長年調査した結果、何人かの研究者たちは、いくつかの薬とセラピーを使えば、この深刻な依存状態を解決することができると考えはじめている。
●何人かの患者は、この方法で「完治した」と感じるという。
●たとえば49歳のアル中の女性は、いままで試した四つのプログラムに失敗した後に、ナルトレクソンという薬を使ってようやく依存症を脱することができたと言っている。
●彼女は「この薬がなければ、アル中から脱出することは不可能だったわ」と言っている。
●ところが問題は、アル中というのはガンと一緒で、患者にもさまざまなタイプのものがあるという点だ。なぜなら、人が酒に走る理由は遺伝的なものから心理的なものまで、一様ではないからだ。
●つまりこの女性に効いた薬も、他の患者には全く効果がない、ということもありえるのだ。
●ある依存症の専門家たちは、最近の鬱病の患者にたいするのと同様のアプローチの仕方を提唱しはじめている。
●それは、まず自分の症状にあった薬を選び、それと一緒に長期的な回復を目指して色々なセラピーを行うというものだ。
●ところがアル中関連の業界では薬を使うアプローチを敬遠する人々も多い。
●たとえば「アル中匿名センター」と「ベティー・フォード・センター」などの組織では、多くの中毒患者たちを禁制・禁欲などを通じて救ってきた実績をもっており、薬や注射などは使っていない。
●専門家の中には、薬を使うアプローチというのは、単に依存源をアルコールから薬に代えただけだ、と批判する人もいるほどだ。
●ところが上述した組織の強調する「12ステップ」や自己抑制などが唯一の治療法だと考えられて時代はかなり昔のことだ。
●なぜなら最近の医師たちは、この依存症を「患者の意志の弱さ」というよりも、むしろ高血圧や糖尿病のような慢性的な病気であると考えるようになっているからだ。
●そしてこのような慢性的な病気には、薬で対処できるという考えなのだ。
●現在アメリカでアル中の治療薬として認可されているものは三つあるのだが、そのうちの二つ(ナルトレクソンとアカンプロセイト)が患者の「飲みたい」という欲望を抑制する効果を持っている。
●三つ目のディスラファイラムは「アンタビュース」という名前で知られているが、これは患者がアルコールを取ると気持ち悪くなるようにするものだ。
●脳内の化学反応を上手くコントロールすることによって、ナルトレクソンとアカンプロセイトは患者のアルコールについての欲望と効果を軽減することができるのだが、それでも「特効薬」というわけではない。
●たとえばこの薬が効くのは患者の中でも七人に一人の割合であり、あとの六人には全く効果がないのだ。
●他にもトピラメイトという薬は元々発作を防ぐ目的で開発されたものだが、実験では患者の「飲みたい」という欲を抑えるだけでなく、(アル中患者にとっては嬉しいことに)肝臓の機能や血圧まで回復する効果があるという。
●バクロフェンというけいれんを抑える薬も低度のアル中患者に処方されることがあるが、その効果は微妙だと言われている。
●このように、有効な薬を処方するアプローチが増えてきているのだが、それが本当の結果につながるリハビリをさまたげるものであるという批判も根強い。
●たとえばベティー・フォード・センターのある医師は、「投薬だけに意識を集中させてしまうと、完全に人間の生物学的な問題になり、患者自身の意識にとってマイナスになることもあります。彼らはそれが単なる肉体の問題であって、自分は努力しなくてもいい、と考えるようになってしまうからです。」と言っている。
●「われわれは既存の12ステップをつかって、やはり患者に自分の依存症に正面から取り組んでもらいたいのです。彼らが心からこの症状改善にコミットすることが一番大切なことだと考えるからです」
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アル中というのは人類が酒を発明した時点からあった極めて古い問題だと思うのですが、その古い症状に対して「薬」というテクノロジーを活用して人の意識を使わずに自動的に治してしまおう、という点が見え隠れしております。
哲学的に言えば、これは「心身問題」(mind-body problem)の話に近いかと。人間の思考と肉体は別なのかどうか、という切実な問題が。
そういえば私が最初に留学したカナダで驚いたのは、彼らが薬(痛み止めなど)をかなり日常的に使っている様子でした。私の家ではあまり薬を飲まなかったのでけっこうビックリしましたね。
ただし最近の日本人の中には、けっこう薬が好きな人が多いようで、そういう面でもかなり「欧米化」しているんでしょうか。
ちなみに私は西洋式の薬というのは「順次戦略」的で、日本人が昔から使ってきた漢方薬というのは「累積戦略」的だと考えております。
余談かもしれませんが、この「薬」というテクノロジーに対する人々の反応は、「原発」というテクノロジーに対する態度にも共通するところがあるような。